コメの品種改良に挑む村のふたりの科学者
2018年01月06日付 Prothom Alo紙
セントゥ・クマル・ハジョンさんとミル・アブドゥル・アジズさんのふたりはともにバングラデシュの辺境の地で農業を営んでいる。ひとりは北東のシェルプル県のナリタバリ郡の寒村に、もうひとりは南部のボルグナ県、パトルガタに住んでいる。このふたりは、革新的な農業従事者だ。米の新しい品種開発に熱中している。
ふたりの家の庭は、あまりなじみのない研究施設のようだ。庭には様々な土の植木鉢にいろいろな種類の稲が植えられている。通路には無数のビニール袋に稲の種が入って、かかっている。それぞれにラベルがつけられ、米の品種が記されている。
セントゥ・ハジョンさんとミル・アブドゥル・アジズさんは新しい米の品種を開発し、それらを地元の農家に広めている。基本的には、在来品種の米を交配、受粉させてこれらの品種を作る。さらに、高収量で人気の高い様々な品種と在来の品種を交配し、米に新たな特徴を作り出す。
国内の高名な米の専門家たちは、農家レベルでのこうした実験は多大なメリットをもたらすという。収穫量は少なめで収穫時期も遅いが、こうした地元の開発者のおかげで、在来種がしっかりと生き残っている。これはとても重要なことだ。
庭は研究所
シェルプル県のナリタバリ郡で農業を営むセントゥ・クマル・ハジョンさんは、12年間ひとりで努力して19品種を新たに開発した。家はノンニ・ユニオンのクトゥバクラ村にある。現在47歳だ。
セントゥさんの開発した新品種のうち7品種には名前があるが、残りにはまだ名がない。このほかにも、絶滅した在来の35品種を交配を行って栽培し、その種を保存している。地元の100軒を超す農家が、セントゥさんの開発した品種を栽培し、利益を得ている。地元の農家に米の品種開発の方法も指導している。
一方、ボログナ県パトルグナ郡のへき地にあるマダルトリ村で暮らす農業、ミル・アブドゥル・アジズさん(59歳)は8年間休みなく、(秋に収穫される)アモン米と(雨季に実る)アウシュ米のふたつの新品種を開発した。地域の農家の人たちはその米をミルライスと名付けた。ひとつは「ミル・モティ」で、もうひとつは「ミル1」と呼ばれている。
ナリタバリのセントゥさんは稲を交配し、土製の植木鉢にその稲の種を植える。稲がなったら種を保存しておく。アモンの収穫期には種を小さい苗床に植える。このようにして新しい品種を開発し続けている。
セントゥ・ハジョンさんは優れた農業従事者として昨年、イーストランド保険会社から顕彰された。表彰式は5月6日ダカで行われ盾と10万タカ(約13万4千円)の小切手が授与された。
家が貧しかったセントゥさんは中学校を卒業した後、進学することはできなかった。2005年あるNGOが、山村部の貧しい農家を対象にした米の品種開発を学ぶワークショップを開催した。それがセントゥさんの中の眠っていた開発者精神を目覚めさせ、米の新しい品種開発に没頭させた。
新しい品種
セントゥさんがパイジャム種とBINA-7種を交配して作った品種は、セントゥ-1「シュナロ」と名付けられた。またドゥドビンニ種とマルカビンニ種を交配して、セントゥ-4「ビシャリビンニ」を開発した。セントゥさんはこうした高収量品種と在来種を交配し、新たな品種を作り出している。
これ以外にも、チニシャイル、トゥルシマラ、チャパル、パイジャム、バイシュムティ、ホリ、ショルノロタ、ロンジット種を交配して新たな品種を開発している。
在来種であるチニシャイル米の場合、収穫量は1ヘクタールあたり30から35モン(1モンは約37キログラム)なのに対し、セントゥさんの開発したセントゥ・シャイルは1ヘクタールあたり50から56モンが育つ。チニシャイル稲の高さは160センチメートルに達し、嵐や強風で倒れてしまいがちだ。一方で、セントゥ・シャイルの高さは100から120センチメートルのため風の影響を受けにくい。
取材に訪れたときセントゥ・ハジョンさんは「フィリピンの農民たちが自分で新しい米の品種を開発し、栽培していることを聞き、自分でも挑戦しようと思い立った。しかし、それには多くの忍耐が必要だ」と私たちに語った。
セントゥさんが作り出した品種は地元の村ばかりでなく、近隣のいくつかの郡でも栽培が始まっている。ナリタバリ郡農業事務所のショリフ・イクバル担当官は、「セントゥさんはまったくひとりで、自分だけの努力で人工受粉と種の選択を行い、また在来種の稲の改良に取り組んでいるのです」と話す。
一方、ミルライスは肥料や殺虫剤を使うことなく、在来種の1.5倍の収量がある。そのため、この品種の栽培は地域を越えて、パトルガタやバムナ、モトバリア各郡の村々にも広がっている。
見慣れない品種と外来種をかけあわせて
パトルガタのミル・アブドゥル・アジズさんは、2007年にハリケーン「シドル」がバングラデシュを襲った後、パトルガタでは土中の塩分濃度が増加し、多くの農家が農業をあきらめたという。アブドゥル・アジズさんは農家がまた農業に前向きになれるよう、約50軒の農家を集めて「マダルトリ農業組協会」を立ち上げ、自ら自事務局長となった。
ハリケーン「シドル」の後、除草をしているとき、アジズさんは知らない品種の米を見つけ、その種を保存しておいた。その品種の収量が高かったことから、アジズさんは同じ地区の数人の農家に種を配った。種をもらった農民たちから品種の名をたずねられたが、アジズさんは答えられなかった。人々は冗談めかしてアジズさんの名前の一部を取り、「ミルライス」と呼ぶようになった。
2009年、当時のネパールの副首相に招待され、アジズさんは2日間にわたって開かれた国際農家大会に、農業従業者としてただひとりバングラデシュから参加した。その大会でフィリピンのある農業従業者からM-74-1という名の品種の種をもらった。アジズさんはこの種と在来種のボギ・アウシュを交配した。こうして優れた品種がもうひとつ誕生した。パトルガタ郡の農業事務所の担当官や地元の農家によれば、シャダモタ、ラルモタ、カジョルシャイなどの在来種の収穫量が1ヘクタール当たり1.8トンから2トンなのに対し、ミル・モタやミル1の収穫量はヘクタールあたり3から3.2トンにおよぶ。
モエモンシンホ(マイメンシン)にあるバングラデシュ原子力農業研究所(BINA)のミルジャ・モファジョル・イスラム主席研究員はプロトム・アロ紙に、「セントゥ・ハジョンさんやミル・アブドゥル・アジズさんのような地方レベルの農業従事者によるこうした開発は極めて重要だ。在来種の品種改良につながったからだ。在来種の特長は、高収量品種にはない味の良さを持っているということだ」という。イスラム主席研究員はさらに、「このような地元農家の品種開発と研究所による最新の研究を合わせることができれば、さらに良い結果が得られるだろう」と付け加えた。
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(翻訳者:成澤柚乃)
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