トルコのアルメニア教会総主教、仏の「アルメニア虐殺否定処罰」法案通過を憂慮 (Milliyet紙)
2006年10月16日付 Milliyet 紙
デルヤ・サザク:フランス国民議会で可決された「アルメニア人虐殺否定処罰」法案について、トルコのアルメニア教会総主教として反対されました。こうした試みを、トルコ・アルメニア社会の「対話へ」の痛手と位置づけられましたね。フランスは、なぜこのようなことをするのでしょうか?
メスローブ2世:ここ最近憂えているのは、アルメニア・トルコ間の対話がなくなってしまったことです。問題は、アルメニア共和国だけのものではないのです。ディアスポラ(離散者)がありますよね。ディアスポラがアルメニアの人びとに影響を及ぼしています。フランスで可決された新法案は、対話を遮断する極端な民族主義的・人種差別主義的のグループ(の意見)を擁護し、危険な方向に道を開くでしょう。アルメニアとトルコを繋いでいたものが、完全に壊れてしまうのではないかと心配しています。インターネット上で新聞のWebページを見てもらうとわかると思うのですが、フランスでの投票後、極端に民族主義的な反応が高まっているのです。こうなることは、初めからわかっていたことです。
(中略)
■1915年の出来事を定義づけたくない
(デルヤ):1915年の悲劇を、どのように理解しているのですか?非常に多くの論がありますが。
(メスローブ):それに何か名前をつけようとは思いません。重要なのは、悲劇的な出来事が90年後に政治的な目的で使われてはいけないということです。苦しい思いをした人たちがいるのです。ある会議でも言ったように、これは、アルメニアの国家分断政策も役割を演じています。トルコをより民族主義的にする動きも影響しています。国外に暮らす者たちの影響もあります。この人たちの子孫も(両国の)外部にいるのです。反発するのは彼らです。もうそろそろ和平し、和解しましょう。アルメニア教会としての意見はこうです。トルコで生活しているのは我々なのですから。(トルコに住まう人々と)隣人関係も築いており、多くを分ち合っています。隣人は、政治問題がお互いの関係に影響してほしくないと思っているし、最近の出来事は、彼らを不快にさせています。
■社会的圧力がある
(デルヤ):法案問題の議論のせいで、トルコ在住のアルメニア人が強い「圧力を感じた」ことを手紙でイスタンブル県庁に提出され、教会や少数民族の学校での警備強化を申し出ましたね。それはどうしてですか?
(メスローブ):(耳にしたところでは)この緊張した状況下で、大学で子供たちが言い争いました。先日あるテレビ局が来て、無礼な態度で総主教座教会に入ろうとしました。警備員が彼らを止めました。クムカプにある学校に入ろうとしました。フランスの議論と学校は何の関係もないでしょう。理解できません。バザールで働いているアルメニア出身者を撮影しようとしました。
これらが、結局のところ感じている社会的圧力です。このような緊張状態を取り除くには、政治家たちがこの問題を利用しないようにしなければなりません。国外に暮らす者たちも、当該国の政治家たちも。これは一種のヒューマンドラマです。(あの出来事は)起こって、終わったのです。我々は将来を見なければいけないのです。そのための唯一の方法は、和解すること。そして、双方が和平を求めることです。
■アルメニア解放秘密軍(Asala)の影響で事態は深刻になった
(デルヤ):アルメニア共和国の教会ゆえに、対話プロセスは難しくなっているとお考えですか?
(メスローブ):残念ながら、この問題について合意できないのです。他の総主教たちとも分かり合えないでいるのです。今現在、ディアスポラが力を注いでいるのは、1915年の出来事が国際レベルで「虐殺」として認識されることです。全力を挙げています。
我々が平和的、妥協的解決を望んでいることもわかってもらえません。「トルコに暮らすアルメニア人は人質だ。無理やりこのように話さされているのだ」と見られてしまうのです。
(デルヤ):あなたはイスタンブル生まれですよね、1970年代にトルコ人外交官が殺害され始める前まで「アルメニア問題」は議題に上りませんでしたよね。
(メスローブ):アルメニア解放秘密軍(Asala)のせいで、この問題が議論されるようになったのです。子供の頃はこのような差別をあまり感じた覚えがありませんね。ムスリム、ギリシャ人、ユダヤ人、アルメニア人が共存している町で育ちました。少数民族の学校も、国の教育システムの傘下にありました。
トルコ大国民議会での最近の議論に意味を見出せないでいます。まるでトルコにあるアルメニア人学校が外国人学校であるかのような扱いをされているのです。彼らはみんなトルコ国民なのに。授業のほとんどが、トルコ人の先生によって行われているのです。イスタンブルに住んでいてアルメニア国籍を持っている子供たちが、この少数民族の学校に行くことになんの問題があるのかわかりません。我々の問題は、EUに合わせた法律でも何ら取り上げられていません。総理大臣に手紙を書き、人道的問題に解決策を講じていただくようお願いしました。「国連の児童の権利に関する条約に照らせば、3—4万人のアルメニア国籍の子供が教育を受ける権利があります。これを政府として実現していただけますか?」という質問をしました。この子供たちの教育はどうなってしまうのですか?国会では、まるでトルコに爆弾を仕掛けたかのように、極端に民族主義的な反応をされました。
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( 翻訳者:田辺朋子 )
( 記事ID:3710 )