解説:総選挙の最低得票率と欧州人権裁判所の判決
2007年02月12日付 Zaman 紙

国会議員選挙における10パーセントの国全体での最低得票率は長い間論争の的になっている。この論争は、欧州人権裁判所が今年1月30日付で下した判決により新たな局面を迎えた。

この裁判は、2002年の総選挙で(南東アナトリアの)シュルナク選挙区で(クルド系の)民主人民党(DEHAP)の立候補者名簿に名前が記載され、同党が同選挙区で45.05パーセントの得票を得たにもかかわらず、国全体では10パーセントの最低得票率に達しなかったことから当選に至らなかったメフメト・ユマックとレスル・サダックが起こしたものだった。原告は訴状の中で、欧州人権条約の第1議定書の第3条に反していると主張した。この条項によれば、「締約国は、立法機関の選挙において国民が自らの意思を自由に表現することを保障するという条件の下、適切な間隔で秘密投票により自由に選挙を行うことを約束する」。欧州人権裁判所は、反対2に対し賛成5で、この事件で条約が侵犯されなかったという結論に達した。

欧州人権裁判所は判決理由の中で、条約は加盟国に対して特定の選挙システム(の履行義務)を課しておらず、これについて加盟国に考慮する権利を認めていると説明した。裁判所が正当と判断したように、ヨーロッパの国々では多くの種類の選挙システムが適用されている。これらの国々の多数決制度では、比例代表制度が認められていないにもかかわらず、イギリスでは1回投票制、フランスでは2回投票制による多数決制度が適用されている。また同様に、この2つのシステムをあれこれ組み合わせた混合システムも存在する(例えばイタリア、リトアニア、ロシア、ウクライナ、ドイツ)。多数決制度のうち最も不公平な比例代表制度でさえより一層不公平な結果が生じうることや、特に小さな政党が完全に消えてしまう可能性もあることを忘れてはならない。

■最低得票率はヨーロッパにもある

比例代表制度を取り入れている国々の中にも国全体での最低得票率を認める国が多くある:ドイツ、ポーランド、ルーマニア、チェコでは5パーセント、スウェーデンとブルガリアでは4パーセント、リヒテンシュタインでは8パーセント、デンマークでは2パーセントだ。これらの国々の中には、複数の党による共同名簿という形で選挙に参加する政党に対してより高い国単位での最低得票率を設定しているところもある。欧州人権裁判所は、トルコの10パーセントという最低得票率がヨーロッパで最も高い割合のものであり、これを引き下げることが「望ましい」と指摘しながらも、今回の事件が条約に違反しているという結論には達しなかった。同裁判所によれば、条約の関連条項が侵犯されていると認められるためには、全国民が選挙権と被選挙権を平等に行使できるという原則が破られていなければならない。この原則は、選挙の結果全ての票が等しい重みを持つという意味ではない。票の一部が死票になることを防げる選挙システムはない。

欧州人権裁判所の判決は妥当であるにもかかわらず、(だからといって)この判決からトルコが自ら率先してやらなければならないことは何もない、という結論に達してはならない。10パーセントの最低得票率が概して不公平な結果を生んだことや、2002年の選挙では2つの政党のみが最低得票率以上の得票を得ることができたため不公平さが極限に達したことは周知の通りだ。この不公平さは、特に南東アナトリア地域で顕著である。この状態は、明らかに不公平であるとともに、南東アナトリア地域の住民が真の代理人を通じてトルコ大国民議会を代表することを妨げていることや、実効ある政治的対話を困難にしているという観点から重大な政治的支障をも引き起こしている。2002年国会議員選挙におけるいくつかの実例は、これをはっきりとした形で示している:ディヤルバクルでDEHAPは56パーセントの得票を得たにもかかわらず1人も当選させることができなかったが、公正発展党(AKP)は16パーセント、共和人民党(CHP)は5.9パーセントの得票で2人(ずつ)の議員を当選させた。ハッキャーリではDEHAPは45パーセントの得票で当選者ゼロ、代わりにCHPは8パーセントの得票で1つ、AKPも7パーセントで1つの議席を確保した。バトゥマンではDEHAPは得票率47パーセントで誰も当選させられなかったにもかかわらず、AKPは20.6パーセントで3人、CHPは7パーセントで1人が当選した。シュルナクではDEHAPは46パーセントの得票で当選者ゼロだったが、AKPは得票率14パーセントで2人、CHPは4.7パーセントで1人を当選させた。

■政権の安定がより重要

このような状況の下でとられうる2つの方策がある。1つは総選挙での最低得票率を全体的に4-5パーセントの水準に引き下げることである。2つ目の方策は、10パーセントの最低得票率は堅持しつつも、過度の不公平さを是正するいくつかの改善を行うことである。最初の方針の採用は理論段階で支持されうるにもかかわらず、我が国の憲法で選挙条項が整備される際に、代表(選出)の公平の原則と並んで、政権の安定の原則が念頭に置かれることが要請されていたことを忘れてはならない。トルコにとって特にこの先の10年間が大変重要ものになろうと予想されることから、この期間に安定した政権、できれば一党単独政権が求められていることは明らかである。憲法裁判所も1995年に出した判決の中で、国全体での10パーセントの最低得票率は代表(選出)の公平の原則に反していないと判断した。最低得票率を保持しながらこの枠組みの中で過度の不公平さを防ぐ改善的なアプローチが取られる場合には、2つの方法が想起される。1つはAKPの首脳もさまざまな理由で支持をした、"トルコ型国会議員(選挙)制度"の創出である。これによれば、550人の国会議員の(議席の)一部(例えば100議席)を(県ごとではなく)国全体での立候補者名簿から最低得票率なしに、または非常に低い最低得票率(例えば2、3パーセント)で比例代表制度により選出し、残りを今と同様に国全体での10パーセントの最低得票率により選ぶことになる。憲法裁判所は、1995年の判決でトルコの国会議員制度は憲法違反であると判断していることから、こうした方針をとるには憲法の改正が必要となる。"トルコ型国会議員(選挙)制度"の創出は小政党にも一定の議会での代表権を保障し、より多様な民意を反映する立法機関を生み出すという観点から有効であるにもかかわらず、代表(選出)の不公平さの根本的な解決策ではないことは明らかだ。一方、2つ目の、我々も支持している方法は、ドイツやスウェーデン、デンマークといった国々で実施されている、国全体での最低得票率を堅持しつつ、一定回数の選挙で一定の割合以上の得票を得た政党を最低得票率の規定から除外するというものである。トルコでも少なくとも3回の選挙で第1党となるか特定の割合(例えば40パーセント)を超える得票を得た政党を国全体での最低得票率の規定の対象から外すことがよいと考えられる。これにより、特に南東アナトリアでの明らかな代表(選出)の不公平さは解消されるであろう。

(ビルケント大学 エルギュン・オズブドゥン教授)

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( 翻訳者:穐山 昌弘 )
( 記事ID:10188 )