トルコにおける人権侵害ーアメリカ外務省人権侵害レポートより
2007年03月11日付 Milliyet 紙

アメリカ外務省による最新の人権侵害レポートは、新聞記者から大学関係者、容疑者から受刑者、未成年者から非ムスリム、アレヴィー教徒から身体障害者に至るまで、社会のあらゆる集団が直面している人権侵害を報告した。

アメリカ外務省は、毎年刊行している人権レポートで、世界のあらゆる地域の「基本的人権と自由」に関する現状を写真に収めた。192カ国を調査したこの最新レポートは、先週刊行され、我々のメディアで一部の地域について取り上げられた。今日は、レポートのさらなる要旨を読者の方々に伝えたい。記者から大学関係者、未成年者から非ムスリムに至るまで、社会のあらゆる集団に対する人権侵害に関してレポートが注視するのは・・・

レポートにおけるタリカートに関する以下の報告は注目すべきものである。「スーフィーや、その他の宗教的―社会的タリカートやジェマート(宗教集団)は公には禁止されている。しかし、彼らは実際活動を続け、広がりを見せている。有力な政治的、社会的リーダーは、タリカートやジェマート、そしてその他のイスラム諸集団とつながりを持ち続けている。」
「軍、司法そして官僚のなかで(政治的リーダーと)異なる派閥に属する世俗主義支持者らは、イスラム原理主義支持者と見なすものに反対するキャンペーンを続けている」ともレポートは報告している。国家安全保障評議会が、治安維持の観点から原理主義を「脅威」と認識していることもレポートでは強調されている。

■拷問は減っているが、続いている
アダナ軍刑務所で、29人の兵士に対し拷問がなされたということで行われた捜査や、スィンジャンでの4人の受刑者が棍棒で殴打されたなどという一連の事件も、レポートに取り上げられている。警察署や刑務所での拷問は「減ってはいるものの、続いている」とレポートは述べ、「裁判所は拷問を犯した軍および治安関係者にめったに有罪判決を出さず、有罪にした場合でも軽い罰しか与えない傾向がある」という。

ガーズィー大学の教師アッティラ・ヤイラが「国家の公的イデオロギーを支持していない」との理由で授業を取り上げられたことも、レポートでは大きく扱われている。トルコ青年連合のオスマン・ユルマズ会長が、(ヤイラ氏から)仕事をやめさせるため高等教育機構(YÖK)に申し入れをし、ヤイラ氏を「米とEUによるアタテュルクとトルコに対する嘘と中傷キャンペーンの実行者」として告訴した、とレポートに記述された。

■イマームになるために宗教学校に通うのではない
レポートは、大学や役所におけるスカーフ禁止に言及しており、頭部を隠す者、それをあからさまに支持する看護師や教師が仕事を奪われることや、懲罰処分が取られることに注目している。アンカラで、学校と家の往復時に頭をスカーフで覆っていたとの理由で、ある教師の昇進が行政裁判所の判決で妨げられたとレポートは指摘し、行政裁判所のムスタファ・ユジェル・オジュビルギン判事が殺害されたテロ事件が、この判決と関係しているとも指摘した。

イマーム・ハティプ高校出身者が宗教関係以外の専門分野の高等教育を受けることは、大学の入学試験での点数配分によって実質的に不可能になっていると、レポートは明らかにし、「多くの家庭は、子どもたちをイマームにするためではなく、包括的な宗教教育を受けられるようにと、イマーム・ハティプ高校に送っている」とも結論付けている。

■「クルドの谷」は反ユダヤ主義
「新聞やウェブサイトでは反ユダヤ主義的発言がかなり広がっており、イスラエルとレバノンの衝突の際にも、(ユダヤ教徒に対する)社会的憎悪と差別が増大したとユダヤ教徒が語っていた」とレポートは述べている。レポートによれば、ヴァキト紙の出版物や「クルドの谷-イラク」という映画は、反ユダヤ主義キャンペーンの一例であるという。

■メディア、圧力に屈せず
レポートでは、メディアに関して以下のように述べている。
「トルコには政府の統制下にない、活発な活字メディアの流れが存在する。あらゆる政治的方向性をカバーする数百もの新聞が発行されている。メディア機関の所有者は、多くが、他の産業界で活躍する大会社の所有者でもある。政府の規制にも関わらず、メディアは政府のリーダーを継続的に批判し、多くの場合、政府に対立する方針をとっている。」
レポートは「検察は、報道の自由を制限するような様々な法律を使って、毎年、何十回も訴訟を起こし、作家、新聞記者、政治家を苦しませている」ことを強調し、「ところが、裁判官はこれらの訴訟の大部分に不起訴処分の判決を下している」と述べている。また当局者は、新聞発行者や編集者がデリケートな問題を論じるので、調査を続けさせているとも、レポートは報告している。

■ペンギン誌と「猫」風刺問題
その他にレポートで報告されたものとして、エルドアン首相が新聞記者に対して起こした訴訟がある。「エルドアンは弁護士を介して、(新聞社に対し)名誉毀損の訴訟を59件も起こした。年末から、うち28件の訴訟がまだ続いている。判定が出た31件の訴訟のうち21件はエルドアン勝訴、10件はエルドアン敗訴の判決が下った」。エルドアンは自分を猫とみたてた漫画にたいし、画家のムサ・カルト氏に対して訴訟を起こしたが、これは『ペンギン』誌がエルドアンを様々な動物の絵で風刺した表紙を使用したことを彷彿とさせるものだと、レポートは述べている。首相は、この表紙に関して同誌を損害賠償訴訟に訴えたものの敗訴し、控訴したとレポートで伝えられている。

■表現の自由は制限されている
レポートによれば「政府は、憲法による制限と多くの法律によって表現の自由を制限している。」という。レポートは、1月19日に殺害されたフラント・ディンク氏に関する被告への判決、さらにオルハン・パムク、エリフ・シャファク、ムラト・ベルゲを含む多くの新聞記者や作家に対する判決を注目している。

■刑務所では青少年に注目
レポートによれば、刑務所は詰め込みすぎ、資金は不足、職員は教育不足であるという。刑務所に医師が十分にいないこと、心理療法士がほとんど存在しないこと、受刑者の深刻な健康問題に対して医学的な措置が施されていないことが、主な問題である。成人と青少年が、隣接する収容棟で、互いに接触可能な状態で収容されており、容疑者と受刑者が分けられていないことも、レポートに記されている。

■スンナ派以外の宗教が排除されている
「宗務庁はスンナ派以外の宗教を締め出している」というアレヴィー派の見解をレポートは伝え、トルコには1500万から2000万人のアレヴィー教徒がいると述べた。レポートでは、ジェムエヴィ(アレヴィー教徒らの集会所)の礼拝所としての地位が確立されず、ジェムエヴィの建設に許可が与えられていないと批判している。必修の宗教学の授業にアレヴィー派の教義が盛り込まれていないことも、アレヴィー派は「差別」だと見なしていると述べている。

■いまだに汚職は重大な問題
レポートでは、政府の汚職は問題であり続けていると述べられた。レポートの内容は以下の通り。
「弾劾裁判所は6月23日、メスト・ユルマズ元首相とギュネシュ・タネル元国務大臣への汚職に対する告訴を、その手続きに関するどうでもよい理由により不起訴処分とした。この判決は無罪判決と同じである。公正発展党が2002年に第一党になった際、国会に汚職に関する特別委員会が設立された。しかしこの委員会の助言は生かされなかった。」
イルハミ・エルディン元海軍少佐の判決も、レポートに掲載された。野党の、特権に関する問題への態度もレポートに報告されている。

■セクシャルハラスメントに関する罰則規定は矛盾
レポートによれば、セクシャルハラスメントはかなり一般的な問題で、この問題で法はほとんど適用されていない。セクシャルハラスメントに関するトルコ刑法(TCK)の罰則は矛盾しており、94条では10年以上15年以下の懲役、105条では3ヶ月以上2年以下の懲役を科すことになっていると、レポートは述べている。

■同性愛者にも差別が
法律は同性愛者を差別することはないが、法律の中にある「社会道徳」や「性不一致行動」といった言葉の使い方が差別の素地となりうると、レポートに述べられている。同性愛者であることをカミングアウトしたものは、職を解雇されるリスクに直面することを、さらに法律にはこうしたことから彼らを守る条項がないことをも述べている。

■「女性法」適用されず
レポートでは、トルコでの女性に対する暴力、いやがらせおよび名誉殺人に関する問題が何ページにも渡って報告されている。主な結論は以下の通り。
・女性に対する暴力、夫の横暴などは、いまだに深刻で数も多い。夫による横暴を含め、女性に対する暴力は法律で禁止されている。しかし政府はこの法律を有効に行使していない。
・複数の女性協会によれば、2001年から2006年の間で15万人以上の女性が家庭内暴力の被害者となった。
・法律では夫婦間のレイプを含めたレイプを禁じている。しかし、政府はこの法律を有効に行使していない。
・トルコ政府によれば2001年から2006年にかけて1806件の名誉殺人事件が起きている。同じ期間内に5375人の女性が自殺している。政府が名誉殺人に対する罰則を強化した後、一族は名誉を守るために少女たちに自殺を強要しはじめている。

■学校に通わせず、働かせる
レポートは、子どもたちの40パーセントしか高校の終了証を受け取ることが出来ず、12歳から17歳までのうち76万4千人の子どもが、禁止や制限があるにも関わらず労働に従事させられているトルコの姿を報告している。児童の搾取、児童結婚は現在も続く問題である。

■キリスト教徒に対するテロ事件も説明
レポートはマイノリティーであるキリスト教徒、キリスト教宗教指導者、教会に対する弾圧やテロ行為を一つ一つ例示し、その結果「トルコにおいてキリスト教徒でいることは、権利侵害の犠牲者と同義である」といった印象を生み出している。レポートでは、カトリック神父のアンドレア・サントロがトラブゾンで殺害された事件を含め、キリスト教徒に対する10件のテロ事件それぞれと、嫌がらせを詳細に付け加えた。

Tweet
シェア


現地の新聞はこちら

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:松岡聡美 )
( 記事ID:10370 )