論説:合衆国・イラン関係
2007年05月30日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ アメリカはイラクから、そして中東全域から撤退するか?
2007年05月30日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【イサーム・ナアマーン博士】
27年の不和と断絶の後、アメリカ合衆国とイラン・イスラム共和国の代表がバグダードで会合を持った。アメリカが世界の超大国であるのに対し、イランは中東で少々重要な国に過ぎない。しかし、超大国が必ずしも最大の影響力を持つとは限らない。なぜなら、合衆国は世界各地で、経済的損失を伴う政治的、軍事的重荷を負っており、これらが合衆国の影響力を制限している。一方イランは、湾岸並びにカスピ海諸国にとっては産油国であり、それらの地域は、合衆国の現在の戦略において、幅広く入り組んだ経済的利害が存在する場所である。さらにイランの強みを挙げれば、
・埋蔵量にして1320億バレルを下らない石油、同じく270億立方メートルの天然ガスを有し、原油の年間生産量は900億ドルに達する。
・イラクとアフガニスタンに対する進出と影響力により、その両国に投資し、アメリカを経済的軍事的に疲弊させ得る可能性を持つ。
・イランの闘争的イスラーム理念は、世界各地で活動するジハード系イスラーム組織と強力な軍事同盟を作り上げることが可能である。特に、アフガニスタン、パキスタン、アゼルバイジャン、トルコ、イラク、レバノン、パレスチナ、スーダン、ソマリアにおいて。
これらの戦略的強みと共に、アフガニスタンとイラクにおける米政策が失敗しつつある現状が、イランに有益に作用する。特にメソポタミア国家(イラク)において、イランは今や、スンニー派、シーア派を問わず占領に抵抗する組織にとっての主要な資金と武器の供給者となっている。
米軍のイラク撤退を巡る国内的圧力の前に、遂にブッシュ大統領は、そのテヘランに対する政策を修正し、イラク問題を糸口として、両国間の懸案事項全般についての協議を要請した。バグダードの二国間協議は、イランが、当該地域、特にイラクにおいて無視できない影響力を持つに至り、考慮すべき域内中心勢力となったというワシントンの判断の現われと言える。
従って二国間協議は、超大国が面目を保ちつつイラクから撤退する手はずを整えるため、テヘランの合意をとりつけたいという、ワシントンによる真剣な試みとも言える。例えばベトナムのように、イラクから屈辱的な撤退を行った場合、それは遅かれ早かれ中東全域からの完全撤退に繋がるからだ。
イランはもちろん慈善団体でもなければ無料サービス業者でもないので、アメリカのメソポタミアからの撤退に便宜を図る代わりに、その対価を要求するだろう。ワシントンがそれを分割払いにして、様々な項目を立てたとしても、高くつくことが予測される。
第一の支払いは、イラクそのものについて要求されるだろう。テヘランは、イラクについて、必ずしも現体制でなくとも、連邦的性質を持った政治体制の維持を条件としていると思われる。そして、イラン支持とまでいかなくとも友好的な派閥の指導により、イラクの政治的統一性は保証されるように。そのため先の協議では、新たな軍事治安機構設立を目指したイラク軍、警察の訓練が提案され、テヘランは、イラク治安問題調整のための、イラン・アメリカ・イラク委員会の設置を要請した。
ワシントンの方は、これらを容れることにより、アメリカ撤退後のイラクをイランに譲り渡す事となるのを理解しているので、他の問題や分野でイラン側の譲歩を引き出すべく取引しようとするだろう。それらの問題とは、濃縮ウラン、シリアに対する支持、パレスチナ、レバノンでの抵抗組織への支持などである。
イランがこの取引を拒む場合、これは大いにありそうなのだが、その時、アメリカはイラクから自軍を適切に引き上げる、という安い値段で、イランの要請をのまざるを得なくなると思われる。次の秋か春がその期限となろう。
交渉におけるイラン側の有利が目に付くので、先のバグダード協議と駐イラク両国大使による肯定的声明をワシントン・テヘラン間和解の兆しと見る分析も多い。イラクにおける米治安政策の深刻な失敗、レバノン、パレスチナの抵抗組織に対するワシントンの敵対的プランの露見、アフガニスタンでのタリバーンの攻撃の活性化などは、この和解説を裏付けるものとされる。しかし、和解に向かっているとしたらその最大の動機は、(米国内の)戦略研究所等だけではなく、クリントン、キッシンジャー、ブレジンスキーといった歴代政権の有力者たちが一致して、イラクからのアメリカの敗走は中東全域からの米国の最終撤退をもたらすという意見を有しているためである。
これに対し、チェイニー副大統領の一派は、ウラン濃縮停止という条件を含まないテヘランとの和解を一切拒絶する。イランが将来的に核兵器を手に入れれば、アメリカは中東地域から追い出される。それはアラブ・イスラーム世界のみならず、世界全体の力の均衡を崩す結果となる。従って、その可能性を徹底的に排除する政策を採るべきだとしている。このためチェイニー派は、イランに対する経済制裁や封鎖を強化するだけでは満足せず、ブッシュの支持を得て、さらに実際的で過激なプランを立てている。要点は次の通りである。
・アラビア海上、イランの向かいに集結させた戦艦による、威嚇と抑止目的の大規模軍事演習。
・政権交代を目的とする米中央情報局による活動。
・政権弱体化を目指した、クルド、アゼリー、アラブ、バルーチ等の少数民族の扇動。
・国際金融市場の操作によるイラン経済への圧力、並びに政権ゆさぶりを意図したプロパガンダキャンペーン。
これに加え、ここ数日、ネオコン(新保守)タカ派と著名な米シオニストらが民主国家防衛基金(Foundation for Defence of Democracies)の企画により、バハマ諸島で会合を持っている。これは、新保守系研究機関のひとつであり、テヘランに対する軍事攻撃も含め、イラン現政権を崩すのに最適の手段を研究している。
アメリカが政権内部で分裂し、中東全域に対する決定的政策を取れないでいる一方、アメリカの敵は、国家、民族、団体、個人、様々なレベルで活発に動いており、今日アメリカをイラクから無様に撤退させるのみならず、将来的には地域から完全に放逐する程、意気軒昂に見える。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:11019 )