コラム:アメリカがイラン攻撃を実行する可能性について
2007年09月01日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ 戦争を示唆する九つの理由
2007年09月01日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン(同紙編集長)】
夏が終わり欧米世界は通常の業務サイクルに戻り始めた。そして、今後2、3ヶ月間、再び中東地域が最大の関心事項となる事は、あらゆる指標によって示されている。
政治、外交、諜報、軍事、全てにおけるアメリカの戦争の、次の標的はイランであり、かつてなくその緊張が高まる事が予測される。ブッシュ大統領の任期切れが迫っており、イランの核問題処理に際し、同氏が取れる選択肢が限られてきているからである。
超常現象でも起きない限り、あるいは、イラン政府が核への野心を撤回し、白旗を揚げて、リビアや北朝鮮がしたようにアメリカの要請を全て飲むようなことをしない限り、来る6ヶ月間に戦争になる可能性がある。以下が、それを示す見過ごせない指標である。
1.ウラン濃縮プログラムを進めるイランに対する警告を含めた最近の演説で、ブッシュ大統領は「核爆弾」という語を好んで使用した。イランを脅し降伏させるためかもしれないが、それによって、アメリカの、そして世界の世論は、合衆国に対する核兵器使用の可能性という考えに容易に導かれる。
2.フランスのニコラ・サルコジ大統領が、ワシントンの最も信頼のおける同盟者として、トニー・ブレア元英首相の役回りを演じ始めた。フランスの政治は、中東でのアメリカの政策と立場を限定していたシラク時代から変化し、現大統領は、ホワイトハウスでブッシュと会見するために休暇をアメリカで過ごすほどである。
2日前、ワシントンから戻った直後の会合でサルコジは、世界188ヶ国に駐在するフランス大使らを前に、イランは、その核への野心を放棄しなければ確実に攻撃されるだろうと告げ、イランの核兵器所有はフランスにとってもレッドラインである事を明確にした。
3.米国人ジャーナリストが2週間前パリで、フランスの同業者グループに述べたところによれば、ホワイトハウス筋は、イラン攻撃という決定が行われ、チェイニー副大統領の陣営がこの件で最も発言力を持つ事となったというのを彼に対して明言した。同ジャーナリストの観測によれば、その戦争の壊滅的結果を予測しているロバート・ゲーツ国防長官が近く退陣する。
4.ニコラス・バーンズ米国務次官が、ニューヨークタイムズの著名なコラムニスト、ロジャー・コーエンに述べたところによれば、域内のスンナ派諸国の多くが、イランを地域の安定を脅かす目障りなテロ国家、イスラエルより危険だとさえみなしている。同氏(バーンズ)によれば、これらの国々、つまり湾岸諸国にとっては、イスラエルよりはイランの方が脅威の中心である。
5.合衆国は、イラン革命防衛隊をテロ組織の国際リストに入れる事によりイランを恫喝した。また、イラクでの抵抗運動並びにアル=カーイダに先進的な武器を供給し、米軍の犠牲増加の要因をつくっていると激しく糾弾するようになった。この二点は、アメリカの反イラン的世論を高め、攻撃の口実を作る事に貢献する。イラク共和国防衛隊に対してしたように、イラン革命防衛隊を悪の権化と見なす手段である。
6.最大産油国であるサウジが、米ロッキード・マーティン社と契約し、国内石油関連設備を防衛するため3万5千人の部隊を訓練し装備を整えることとなった。契約費用は50億ドルに上る。
これは、東部のアブキークと紅海沿岸のヤンブウにある同国石油産業の中心地が攻撃される懸念に備えたものである。ガス/油分離プラント(GOSP)の所在する同地域へ空爆、もしくはミサイル攻撃が行われた場合、サウジの石油産業及び輸出が全面的に麻痺することになり、修復には少なくとも2年要する。1年前アル=カーイダがアブキークを攻撃しようとしたが固く防護されたプラントにまで至らなかった。しかし、ハンググライダーによる自殺攻撃、あるいはイランのシハーブミサイルは、それを破壊することが可能だろう。サウジのこの近辺とクウェイトにワシントンがパトリオットを配備しようとしているのは、このためである。
7.ワシントンは今秋の中東和平国際会議の開催を急いでおり、アッバース大統領とオルメルト首相が会議開催前に基調声明を固めるべく会見を密にしている。対イラン軍事行動に向け、アラブ・スンナ派政府を説得し、また、彼らが、イラン、シリア、ヒズブッラー、ハマースを向こうに回し、イスラエル、アメリカ陣営に組した場合、充分な庇護を与えるためである。
8.ブッシュ大統領は、マーリキー政府に対し、失望感を露にして退陣を示唆したかと思えば、最近の演説では再び明確に信任票を与えている。これは、イラン攻撃の可能性を選択した米政権には、最早イラクに関与する時間がないためと解釈できる。イラク首相を交代させ憲法的空白と共にその他諸々の問題を抱え込んだとしても、アメリカにとっては何の利益もない。従って、現状のままにしておくという選択である。
9.英国は、バスラから撤退し治安の全権をイラク軍に引き渡す事を決定した。これは、英国の見解の二側面を反映している。一つは、イラクでは英軍は敗北した、もしくは永久に勝利しない可能性があるという見方であり、もう一つは、イラン攻撃が始まれば、英軍はイランとその同盟者による手ひどい報復の犠牲となるという予測である。バスラは、イラン革命防衛隊が直接支配しているわけではないとはいえ、最も彼らに近い拠点である。
アフガニスタンとイラクで真の敗北に直面しているブッシュ大統領は、彼自身と共和党の面目を保つ唯一の手段が、イラン攻撃という賭けであると信じている。イランのミサイルは、ニューヨーク、マイアミ、ワシントンには届かないだろうが、イスラエル、リヤド、ドバイ、アブダビ、ドーハには達するだろう。従って、負けたとしても不思議ではない。しかし、もしこの血みどろのギャンブルに成功すれば、それは、中東でのこれまでの敗北を購うものとなる。イラクで彼を流血の泥沼に叩き込んだイスラエルロビーが、同じ方式で大統領を強引にイラン攻撃に向かわせている。なぜなら、インドとパキスタンの間で起きたように、核武装したイランは、ヘブライ国家に対する抑止力を形成し、イスラエルの戦略的優位を帳消しにするからである。これはイスラエルの終焉、少なくとも終わりの始まりを意味する。アメリカのメディア、及びそのアラブ湾岸におけるブランチは、戦争に向け、独自の役割を果たすべく準備万端である。シリア、ハマース、ヒズブッラーの次は、イランを悪者にしよう。イラクに対してしたように。米政権がその圧倒的軍事力の攻撃目標として用意した悪の枢軸は、すべからくそういう事になる。しかし、合衆国とその同盟諸国が支払う代価は甚大なものとなろう。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:11802 )