トルコ国軍の統制を北キプロス自身がもっとも望んでいないームスタファ・アクンジュとのインタビュー
2007年01月15日付 Radikal 紙

ムスタファ・アクンジュ:北キプロス・トルコ共和国元副首相、平和民主運動党党首

■トルコ共和国が直面している難問の一つがキプロス問題です。しかし、なぜかこの問題には、支離滅裂な側面もあります。まず、北キプロス・トルコ共和国(以下、北キプロスと略記)の公式な立場をお伺いしましょう。北キプロスとは、何ですか?

北キプロスは、名目上は国家ですが、国家の機能を備えていない存在です。これは、トルコ共和国(以下、単にトルコという場合、トルコ共和国の意)の統制下にある、ある種の組織です。北キプロスは、1983年に独立を宣言したが、国際社会には承認されず、トルコもその必要性を実現できなかったしなかった存在です。

■では、北キプロスは、国際社会に「独立した」国家として承認してもらいたいということですか?

自分たちで統治し、自らの意思で決定を下し、国際社会と関係を構築していけるという意味で「独立した」とおっしゃっているのならば、確かに我々はそれを望んで入ると言えるでしょう。北キプロスは、トルコの派出所のようなものとして規定されるべきではありません。ここは、トルコとは別の存在でなければなりません。というのも、キプロス島出身のトルコ系住民は、トルコの中での少数派にも、キプロス島で大多数を占めるギリシャ系の中での少数派にもなりたくはないからです。しかし、現在我々は、トルコの少数派となる方向に進んでいます。北キプロスでは、キプロス出身のトルコ系住民の数は日に日に減少傾向にあり、反対にトルコから来る人の数は増えています。こんな風にキプロス出身のトルコ系住民に語っていると、トルコでは憤慨されると思いますが…

■はい、どうぞ続けてください…
 
現在、(トルコの)公正発展党(AKP)は、要するにタイイプ・エルドアン首相は、北キプロスの何千人もの有権者に対して、同国の政治家よりも影響力があります。というのは、この有権者というのは、トルコが住まわせた人たちだからです。彼らは、トルコ政府の方に耳目をそばだてています。北キプロスでのこうした住民と有権者の問題は大変重要な問題です。

■実際、北キプロスを司っているのは誰ですか?

北キプロスは、書類上では独立しています。北キプロスを軍と文官によって統治しているのは、トルコです。ずっとこうでした。(前国連事務総長の)アナン提案への(対処を要する)過程で選挙が実施され、新大統領と政府が選出されました。北キプロスの従来の体制は崩壊したというような印象が与えられ、それは、トルコが望んでいたものでもありました。しかし北キプロスの従来の体制は崩壊してなんかいないのです。事実、独立していると言われている国家の大統領が、自国の首都にある陸橋さえトルコの許可なしには取り壊せないことが明らかになったのです。考えてみてください…トルコは、何年間も北キプロスを独立した国家として承認してもらえるように努力していました。しかし、最近起こったロクマジュ陸橋撤去の件で、北キプロスが国家機能を備えた独立国ではなく、トルコ国軍の統制下にあることが明らかにされました。北キプロスでは、国軍と共に、トルコ外務省官僚も権力を握っています。北キプロスを、トルコの軍民の統制から救うために、トルコと北キプロスの関係を再考せねばなりません。

■二国間の関係がどうなるべきだとお考えですか?

もちろんこの土地に軍はいなくてはなりません。しかし、国民が選出した大統領が、陸橋を取り壊すこともできない、このような状況が続くのですか?この国では、消防署の仕事まで軍に命令される通りに進められていくのですか?キプロス出身のトルコ系住民は中央銀行総裁にもなれないのですか?

■最近のロクマジュ陸橋問題で、北キプロスの警察は、自国の大統領の命令を遂行しませんでした。北キプロスの警察は、トルコの参謀本部の言いなりになるのですか?

はい、マスコミでは「この陸橋を取り壊した者は逮捕される」と報道されたましたが、この記事が誤報と訂正されることはありませんでした。

■では、この状況下でもしトルコの参謀本部が命令したら、北キプロスの警察は大統領を逮捕するのですか?

そこまでするとは思えませんが、我々の警察は北キプロス指導部、キプロス出身のトルコ系住民の要請に応えないのです。警察は、文民機関、要するに内務省の管轄下にはないのです。北キプロスで、文民機関の手中には治安維持能力はないのです。警察は治安維持軍指令本部の管轄下にあり、この組織の司令官もトルコから来ている将校なのです。この状況下では、警察で誰の命令が通っているかというのは明らかなことです。警察は、軍の指導部の思うままに動かされています。ロクマジュ陸橋撤去の件(下記参照)もトルコ政府と話がまとまったからこそ、解決に向かいつつあります。実際は、1983年の独立(宣言)では何も変わらなかったのです。

■何が変わらなかったのですか?

キプロス出身のトルコ系住民が自分たちの自由な意思で行政に関ることをトルコは認めませんでした。トルコの軍部と官僚は常に干渉してきました。この干渉は、時に政党という装いを取り、時には副党首という装いを取り、時には軍という装いを取り、また時には文民の官僚という装いを取り、行われてきました。政権の崩壊や成立、選挙にも立ち入ってきました。トルコは、北キプロスの1990年の選挙にも干渉してきました。警察を文民機関に結びつける件では、私自身が実際に2000年に経験しました。今までお話ししたすべてがキプロスの現実なのです。

■あなたご自身、2000年に副首相の任務に就かれましたね。どのような経験をなさいましたか?

我々は当時、連立政権でした。北キプロスで文民化を要求し、(キプロスの問題を)解決するためには、キプロス共和国政府との話し合いは避けられないと(トルコ側に)望みました。これらのことを要求したという理由で、我々が設けた連立政権は崩壊させられました。軍指導部は堂々と干渉してきました。共に連立を組んでいた国民連合党の党首兼首相のデルヴィシュ・エルオール氏に「全国民に民主主義が必要です。それが我々の国益なのです」と私が言うと、彼は「危険なことに手を出したくない」と応じました。首相は、政権を崩壊させた勢力に、それが軍指導部であることは明らかでしたが、反対できないと言ったのです。というのも、私は、世界中の独立国家で最低限必要なように、つまりトルコやキプロス共和国でもそうであるように、北キプロスでも警察が文民機関、つまり内務省の管轄下に置かれるのを望んだのでした。現在でもまだ消防局は警察を通じて軍に統制されています。公安組織のトップにも、必ずトルコから来る私服の大佐がいます。北キプロスには、「市民活動」という名前のスパイ組織があります。

■その組織は、誰の管轄下にあるのですか?

完全にトルコの管轄下にあります。トップはトルコから任命されて来るのです。北キプロスは、独立した国家と言われているではないですか、しかし実情はこうなのです。例えば北キプロスには二つの軍隊があります。一つ目は2000~3000人規模の北キプロスの北キプロス治安維持軍で、二つ目は、35,000~40,000人規模のトルコ平和維持軍です。どちらの軍の司令官もトルコ国軍の参謀本部が任命します。キプロス出身のトルコ系住民は、北キプロスの軍の司令官にはなれないのです。北キプロスが独立しているというのは、名目上のものです。独立国家だなどとは言わないでほしいものです。

(中略)

■ では、キプロス出身のトルコ系住民は自らの将来を自ら決定できるのでしょうか?

できません。決定したとしても実行できません。ロクマジュ陸橋の件でそれを経験しました。陸橋撤去を決めたのに、トルコ政府の承認なしには実行できませんでした。

■ 世界は、トルコ国軍の統制下にある北キプロスの存在を(独立国家として)承認するでしょうか?

世界はこの状況を知っており、もちろん受け入れていません。(それどころか)我々自身が最もこの状況を望んでいないのです。我々はキプロス出身のトルコ系住民であり、自らの国の主になりたいのです。こうした我々の希望は、トルコで十分に理解されるべきです。キプロス出身のトルコ系住民は、トルコとの関係を健全なものとしたいと望んでいますが、トルコの中での少数派にはなりたくありません。トルコの軍・文官が司る北キプロスを望んではいないのです。また(キプロス共和国の)パパドプロス大統領の下でも少数派になりたくありません。

■ トルコ国軍が北キプロスにおける自身の存在をこのように明らかとしたのは、キプロス共和国政府にいかなる影響を及ぼしましたか?

キプロス共和国は今頃手を揉みしだいているでしょう。このことで最も喜んでいるのはパパドプロス大統領です。参謀本部の声明は彼の発言を裏付けたのだから。パパドプロス大統領は「タラト大統領は決められないといわなかったか。交渉相手はトルコ政府だ。タラトではない」と再び発言し始めました。では国軍がこうした発言をしなかったら?いや、国軍の発言はよい一面もあるのです。事実が明らかとなったのですから。北キプロスが独立国家でないのが、参謀本部の発言で今一度衆目に晒されたのです。

■ キプロス共和国は北キプロスが占領下にあると述べているのですか?

キプロス共和国だけではなくて、全世界がそうみています。国連は「占領軍」という表現を用いずに、「外国軍は撤退せよ」と言っていますが…。

■キプロス出身のトルコ系住民はどのような反応を示していますか?あなたも、北キプロスが占領下にあるとお考えですか?

「占領軍」と呼ぶ人も中にはいます。しかし、少数派です。そもそも、この言葉は両国関係を修正するような用語ではありません。キプロス出身のトルコ系住民の65%がアナン提案に賛成し、現状を変えようとしました。もしキプロス共和国側も、その提案を承認していれば、トルコ国軍は撤退していくはずだったのです。何年後かには、トルコ軍は650人へ、ギリシャ軍は950人へ縮小される予定だったのです。当時、トルコの参謀本部もこれを承認していました。キプロス出身のトルコ系住民の間で「キプロス問題が解決する前にトルコ軍が完全撤退するべきか?」という調査が行われれば…。

■どのような結論が出るでしょうか?

大部分の人は、その意見に賛成しないでしょう。というのも、キプロス出身のトルコ系住民は、ギリシャ系住民との合意がなされてからの軍撤退を望んでいるからです。しかし、次のような状況もあります。何人かの狂信的な人たちを除いて、「トルコ国軍がずっと駐留していればいい」という意見はないのです。トルコ国軍は、キプロスで解決策が見つかれば、当然ながら自らの兵舎に、トルコへと戻るべきなのです。

■トルコがキプロス島から手を引いても、北キプロスは存続していけるのですか?

解決策が見つかれば、もちろん存続できます。しかし、キプロス問題が解決せずには、トルコは手を引かないし、引けないでしょう。

■北キプロスの現状の仕組みでは、キプロス出身のトルコ系住民はなんら得るところはないのですか?

もちろんあります。干渉に媚を売る政治家たちも昔はいました。

■メティン・ミュニルは、一人のキプロス人として、影響力のある文章を書いていますよね。彼は「北キプロスの予算の大部分をトルコが補っています。他力本願では独立できない」と述べています。

確かにそうですね。他力本願では、いつまでもいい結果は生まれません。しかし、デンクタシュ(北キプロス・トルコ共和国前大統領)の30年間で、キプロス出身のトルコ系住民を指導してきた考え方は、ここを、すべてを政府に期待する官僚国家にするものでした。

■キプロス出身のトルコ系住民は、具体的にどのような結果になることを望んでいるのですか?もし、本当の意味で独立するとしたら、どのような決定を下しますか?

北キプロスは、政治面では、完全に独立したいわけではありません。キプロス出身のトルコ系住民は(実現)可能なことを望んでいます。キプロス共和国政府と共に、連邦国家を作りたいのです。同政府と連邦国家という同じ屋根の下で統合し、双方同様の地位で連邦の一翼を担いたいのです。我々の65%が支持し、キプロス共和国住民の75%が拒否したアナン提案は、このように想定されていました。我々が望むのは、ベルギーやスイスに近い特徴を持ったヨーロッパ的な連邦国家です。我々は、経済的繁栄のためだけにアナン提案に賛成したわけではありません。新たな生活様式を目指して賛成したのです。キプロス出身のトルコ系住民は、本当の独立を果たしたら、当然新たな生活様式を望むでしょう。

ロクマジュ陸橋撤去の件 http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/news_j.html 参照




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( 翻訳者:田辺朋子 )
( 記事ID:4361 )