コラム:過去100年で最大の勝利?(ズィーバーキャラーム)
2007年12月10日付 E'temad-e Melli 紙
サーデグ・ズィーバーキャラーム
アメリカ情報機関の報告書が発表された翌日、この報告書に対してジョージ・ブッシュからコンドリーザ・ライス、そしてロバート・ゲイツ国防長官に至る米政府指導者らがどのような反応を示し、どのような発言を行ったか、つぶさに観察した人なら、イランの敬愛すべき大統領が同報告書に対していかなるコメントをしたかに驚かれるであろう。大統領はなんと、同報告書をイラン国民にとって過去100年で最大の勝利であると言及したのである。
ジョージ・ブッシュは発言の中で、この報告書はアメリカの対イラン戦略に変更を与えるものではない、なぜなら本質的な問題はイランのウラン濃縮活動であり、これは今も続いているからだ、と述べた。一方ライスもまた、モスクワで行われたロシアのラブロフ外相との会談の中で、この報告書によりアメリカは、イランに対して新たな制裁を科すことに乗り気でない国々に対して、自らの主張を強めざるを得なくなるだろうとの見方を示している。最後にロバート・ゲイツは、土曜日(アーザル月17日=12月8日)にバーレーンで開かれた安全保障会議の席上で、イランに対して宣戦布告をせんばかりの勢いであった。
これらの反応からも、アメリカが我が国の核計画に対して確固たる決意をもって臨んでいることが分かるだろう。ところがアフマディーネジャードは、同報告書をイランにとって過去100年で最大の勝利であると評している。このような発言の真意はいまだ不明だ。
この報告書が発表される前、すでに国際原子力機関(IAEA)の査察官たち、そしてエルバラダイ事務局長自身、イランがIAEAの規定に深刻な違反を犯したことを示す証拠は何もないということを、幾度となく述べていた。アメリカ情報機関による報告は、このIAEAの発見を追認したものに過ぎない。イランが核兵器の生産を意図していることを示す証拠や証言はないという、それだけの理由で、アメリカが我が国の核計画について歩み寄りを見せるのであれば、問題はもっと早く解決されたはずだろう。しかし現実はそうではない。イランが核兵器の製造を追求しているか否かということは本質的な問題ではなく、むしろ問題はウラン濃縮活動をめぐるものなのである。
大統領の発言以上に驚かされるのは、ラブロフ外相をはじめとするロシア当局者たちが、「私たちは当初より、アメリカは誤っている、イランは核兵器を製造する意図はない、イランの活動はIAEAの規定に沿ったものだ、と指摘してきた」などと主張したことに対して、一部イラン当局者らが歓喜の声を上げていることだ。
イラン当局はラブロフ氏の発言に歓喜する代わりに、同氏になぜ次のように質問しないのだろう。「もしあなたが本当にそのように考えていたのなら、過去二回イランの核問題が安保理に提出された際に、イランを敵視するアメリカと同調して制裁決議案に賛成票を投じたのは、どういうことか。イランが無実だと知っていたにもかかわらず、イラン非難決議案に賛成票を投じたということか。もしそうであれば、『この報告書はわれわれの仕事をほんの少し困難にするだろうが、〔次の対イラン追加制裁に関して〕5プラス1のその他のメンバー(つまりロシアと中国)の同意を得ることができるものと楽観している』と述べたライス氏の意見に分がある、ということか」、と。
ライス氏は別の発言で、こんなことも言っている。「イランに対して新たな制裁を科すという原則は、依然として生きている。ただ単にわれわれ(つまりアメリカ)は、(先の二度の制裁決議の時と同じように)今回も最終的に彼ら(つまりロシアと中国)の同意を取り付けるために、より多くの『取引』を余儀なくされているということに過ぎない」。
ライスがここで沈黙しているのは、「先の二回の決議の際も、ロシアや中国は当初われわれの制裁案に反対であったが、彼らに(ブーシェフル原発に関するロシアの活動を制裁の対象から外す、イランへの投資に関して中国に特別な許可を与える、中国のイランへの輸出を禁止しないといった)いくつかの特典を与えることで、最終的に対イラン安保理決議に彼らを同調させた」、という事実なのである。
あの方〔=ライス国務長官?〕にも、なぜわれわれがこれほどまでに自らの立場に固執し、一部の現実から目を背けようとしているのか、分かって欲しいものだ。〔イランが強硬な態度を取っているのは〕政治的に利用し、国際的な出来事に対して国民受けする態度を取る、ただそれだけのためなのだ。
イランは核兵器を作る意図はない、同計画を停止してから4年になるとの見解は、逆にある意味でわれわれにとって害を及ぼす可能性もある。まず、われわれに敵対するワシントンの関係者たちが、イランは近々核兵器開発計画を再開する可能性があると主張する可能性がある。それに加えて、より深刻なのは、イランへの軍事攻撃をもくろんでいた人々が、今後われわれへの制裁をより厳しいものにするべく全力で動き出す可能性があることだ。というのも、この報告書によって、イランの〔原子力ならびに軍事関連の〕施設に対する軍事攻撃の可能性は、とりあえずしばらくのうちは否定されているからだ。
われわれは抵抗することなく敵対する者たちの意志や願望に屈するべきだ、などと言っている者は誰もいない。しかし、原則的な立場を守るために抵抗することと、現実を見ないこと、あるいは一部の現実を意味なく誇張し、別の一部の現実を無視することとは、まったく別である。報告書を発表した安全保障関係者らは、「天使」などでは決してない。イランに対して特別な好意をもって、そうしたわけでもない。
この報告書が発表された理由の一つとして、少なくとも自らの失地を回復したい、ジョージ・ブッシュに対して復讐したいという思惑があったことは確かだろう。彼らはイラクに核兵器がなかったことに関して、ジョージ・ブッシュに正確な報告書を提出していた。それにもかかわらず、ブッシュは自らに与えられた情報を無視して、イラクの核兵器を破壊すると称して、同国を攻撃した。多くのアメリカ市民は、イラク占領後イラクに核兵器が発見されなかったのは、今回報告書を発表したのと同じ当局者らが誤った情報をジョージ・ブッシュに与えたからだと考えた。彼らはブッシュに対して、イラクには核兵器は存在しないこと、そしてサッダームは最新の大量破壊兵器を真剣に追求してはいないということを明言していたにもかかわらず、である。
イラクと同じことがイランで繰り返されてはならないという動機もあっただろう。実際、ワシントンの急進派は、この報告書が公表されたことに怒りを露わにしている。それもそのはず、イランを攻撃する口実が奪われてしまったからである。
最後に一点。民主主義とは面白いものだ。政府の考えとは180度異なった報告書がイラン情報当局者らによって公表される、そんな日がいつか来る可能性はどれだけあるだろうか。
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( 翻訳者:斎藤正道 )
( 記事ID:12659 )