ペルシア語訳・村上春樹短編選集『どこであれそれが見つかりそうな場所で』をめぐって(2)
2008年05月31日付 Jam-e Jam 紙


読み手の心に沸き起こる問い
--『眠り』と『土の中の彼女の小さな犬』--


幸せで穏やかな生活を送っていた女性が不眠症にかかってしまう。彼女は、毎晩朝まで眠れぬまま、夫のいびきに耐えて過ごすことを余儀なくされる。彼女は次第に、独り誰にも邪魔されない夜の時間を楽しむようになる。朝まで酒を飲み、通りに出かけ、トルストイの『アンナ・カレーニナ』を読むのだ。

彼女は、新たな秘密の時間の過ごし方を自分のために切り開いていき、ついには真夜中の一人の時間だけを待ち望み、一日を過ごすようになる。しかし、ある日、家から遠く離れたところで、謎の襲撃者たち[黒い影の男たち]が彼女へと襲いかかる。ここで物語は終わるのである。

 読者が強く沸き起こる問いに取りつかれるのは、物語を読み終えた後だろう。この女性は、夫や息子に囲まれ本当に幸せだったのだろうか。不眠症は、彼女が自分を閉じ込めていた偽りの幸せに復讐する良い機会となったのだろうか。なぜ彼女は毎晩『アンナ・カレーニナ』を読むのか。アンナ・カレーニナとこの不眠症の日本女性とには、性質や運命において共通点が存在するのだろうか。

 村上は、場面描写や人物描写にとりわけ乏しいカーヴァーの作風とは対照的に、惜しみなく細部を描きこもうとする。彼は自分の物語空間を描くことを、非常に重要視するのだ。そもそも、彼の作品に登場する場所自体が、物語の構造の一部を構成している。

例えば、集合住宅の26階で迷子になった男性や,満州の動物園で中国人逃亡者らの無惨な死を目のあたりにした獣医、そして、最も際立っているのが、『土の中の彼女の小さな犬』に出てくるホテルである。

(中略)

疑いなく、人気もなく荒れ果てていくホテルの描写、そして、やむことのない雨が物悲しさを増す島についての惜しみない描写は、物語の最後で読み手にもたらされる強い衝撃をさらに強めることにおいて、驚くべき効果をもつのである。

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( 翻訳者:綿引香緒里 )
( 記事ID:14012 )