コラム:イラク、パレスチナでの「選挙」とアメリカの思惑
2008年07月23日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 選挙という名の罠:イラクとパレスチナ

2008年07月23日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

現米政権が、占領下にある二国、イラクとパレスチナで、自由かつ清廉潔白な総選挙を欲し、一方で、他のアラブ諸国では、深く根ざしてはびこりその国民を抑圧している専制的政治制度に目をつぶっているのは偶然のことではなかった。イラク占領から5年、ヤーセル・アラファト議長の毒殺から3年を経て、今やアメリカの目的はくっきりと見えてきた。

まずイラク憲法についての国民投票、そして国会総選挙、その中での多数派による政府というのはアメリカが主張した事であったが、それはイラク国民が享受すべき自由や生活環境の改善のために成された事ではなく、この政府、次いで国会を、安保条約の制定に引き込むためであった。その安保条約により、イラクに恒久的に残る米軍基地が設立され、石油探査と採掘に関する新法を通じて米企業によるイラク石油資源のコントロールが合法化される。米政権は、合法的に選出されたイラク政府と協定を結び、選出された国会がそれを承認することを欲している。このステップのために、占領第一ヶ月目から手段を尽くして働きかけ、米軍と共に外からやって来た要人らが法制定の枠組みの中に納まるようにしてきたのであった。

治安、国民融和、汚職追放など数々の分野での失敗にも関らず米政権が、ヌーリー・アル=マーリキー氏とその政府にがっちりと爪を立て食い込んでいる事は明らかである。彼らは、バグダードの治安改善のためとして更なる派兵を行い、アラブの同盟国にはイラクとの関係正常化を求め、合法的との印象を強めるためバグダードの各国大使館再開を強要している。

新生イラクは通常の生活の大部分、水道、電気、治安、教育、保健といった基本的サービスを失い、毎月何千人もの国民がそこから去っていく。形式として残った唯一のものが、アメリカ風民主主義であり、その名の下に安保条約が調印され石油法が制定される。そしてその二つは恒久的に法的地位を得、将来のイラク政府にはそれらを破棄することが禁じられている。


パレスチナの大統領選挙並びに議会選挙にも同じ事が言える。アメリカとイスラエルが求めていたのは、和平に調印してくれる指導者、それを承認してくれる国民議会が選出されることであった。議会選挙で彼らの希望とは逆の結果がもたらされ、ハマースが多数を獲得すると、その計画はおじゃんになった。従って、選出された議員多数を逮捕しハマース政権の承認を拒んだ。

アッバース大統領は議会選挙には熱心ではなく、ハマースが勝利する可能性をアメリカに警告していた。しかし、各種の研究所や世論調査センターの長などからなるワシントンの友人たちは、意図せずしてパレスチナ国民に多大な奉仕をしてくれた。ファタハが多数を獲得し米政権と利害が一致するであろうとの調査研究結果を進言し、安心させた。ブッシュ大統領とその周囲に、青信号を出させたのである。

アメリカの後押しによるリヤドサミットに端を発するアラブ和平構想と、昨年11月、現在見るようなパレスチナ・イスラエル和平協議を開始させるに至ったアナポリス会議を通じて、占領パレスチナにおけるアメリカの目的は明らかとなった。

パレスチナ・イスラエル間の協議については、相反する情報が伝えられている。アッバースとオルメルト、双方の定期会合が繰り返されているにもかかわらず、現在まで進展なしとする見方がひとつ。一方で、合意は既に明らかとなっており、あとは単純な修正を数点残すのみとする意見がある。失敗や進展の無さが取りざたされる度、こちらの意見を支持する一派は、閉ざされた扉の向こうで起きている諸々の合意から目を反らしていると批判する。また彼らは、パレスチナ人の期待するものは以前より緩やかなものであり、最終合意へ至るのも困難ではないと見る。

この件について現在厳しい緘口令がしかれているため、いずれかの見解に傾く事は困難である。また、パレスチナ側には、国民和解に向け事態を調整する合憲的機関が存在しない。パレスチナ民族委員会は完全に不在であり、議会はその半数がイスラエルに拘留され機能不全である。解放機構もその他の機関も不能に陥り崩壊した。全てはマフムード・アッバースその人と、彼を取り囲む3名の手中に握られており、彼らがイスラエルの友人達と一緒になって、パレスチナ人のために何を用意しているのかは他の誰も知らない。

この数日で、ラーマッラーの政権指導部近くから幾つかの狼煙が上がった。まずヤーシル・アブド・ラッビヒ氏だが、彼は、占領エルサレムと西岸で急ぎ行われた入植を理由に、協議から引き上げるのが指導部の意志であると一度ならず繰り返した。次いでリベラル派の長老、直接協議の推進者で、現実的でないとの理由で帰還の権利を否定するシッリー・ナシーバ博士が、PAへの資金援助はイスラエル占領に益し汚職を助長するため欧米はそれを止めるべきだと述べた。そして、数日前に就任一周年を迎えたパレスチナ暫定首相サラーム・ファイヤード氏は、昨日、もしイスラエルがナブルスへの侵攻とそれに伴うパレスチナ人活動家の拘束や暗殺を続けるならば、パレスチナ軍を引き上げ治安計画を停止すると警告した。

同様の警告は多数出ているものの、実際には適用されない。これらは、パレスチナ街頭の怒りを吸い取りその場で消え去るのだろうか。あるいは欧米を動かし協議救済のため介入させるだろうか。道を塞ぐ単純な障害物を取り除き、最終合意をはっきりさせるのだろうか。

昨日アッバース大統領は、イスラエル側との困難で厳しい協議に突入している、この協議の成果がパレスチナ国民投票にかけられることを望むと述べた。

国民投票とは恐ろしい言葉である。それは合意が近いことを示唆している。占領エルサレムのペレス大統領府での会見の後、そのような爆弾を投げるとすれば、それしか考えられない。現在のパレスチナ分裂の中で、どのようにこの国民投票が行われるのか。拮抗するパレスチナ二大政治派閥、ハマースとファタハの間では対話のチャンネルが閉ざされているというのに。

イラクの国民投票は、連邦制の名の下に国民を宗派や民族で分断する憲法をもたらし、その政府は現在、今後数十年にわたる合衆国との安保条約の枠内で自国の資源、主権について協議している。アラブの及び腰、パレスチナの分裂、合法的機関不在の中で、パレスチナ国民投票など実施しようものなら、帰還の権利、占領エルサレム返還等、パレスチナの当然の要請全てを失う歪曲した合意以外の何物ももたらされないだろう。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:14350 )