コラム:パレスチナ難民への人道的支援とアラブ諸国の態度
2008年09月06日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ ありがとうアイスランド
2008年09月06日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】
シリア・イラク国境、不毛の砂漠地帯にある難民キャンプに2年来放置されていたパレスチナ難民29名の受入れをアイスランド政府は決定した。為政者、人民を問わず全アラブは大いに恥じ入るべきである。ウンマ(アラブ共同体)が、あらゆる側面、特に倫理面で、どれ程卑しむべき状態に至っているかを示す事件でもある。
シリア政府が門戸を閉ざしたのは残念であった。他のアラブ諸国と比して特筆すべき事に、シリアは例外なく全アラブ人に査証なしの入国を許しその心を開いてきた。150万以上ものイラク難民のために開いたありがたい扉が、このパレスチナ難民達の前では閉ざされ、2年以上の間彼らをさそりと蛇と砂嵐の戸外に置き去りにしたのだ。パレスチナ難民達の血と信条における同胞などと自称する他のアラブ諸国が、どれ一つとして受入れようとしなかったのは、より残念な事である。
この人々は、職や快適な暮らし、生活環境の改善などを求めてイラクを出たのではない。彼らとその子供達は生命の危機に瀕していたのである。良心も道義も持たない宗派派閥民兵組織が、あちらこちらで行う身元別の殺害作戦のために。イラクの国家としてのアイデンティティを破壊したこれらの民兵組織は、占領者と彼らの卑劣な帝国主義計画に組し、宗派的怨恨、アラブやアラブ主義に対する憎悪といった、それまで馴染みのなかったものをイラクに確立した。砂漠の難民達の不遇がさらに深まる中、我々は、隣国、特にシリアが、彼らをせめて同胞のイラク人達と同等に扱ってはくれまいかと祈るような気持であった。優遇しろとは言っていない。これまで起きてきたような、そして今も起きているような、パレスチナ難民への迫害行為だけは慎まれるべきであった。そのような事は、シリアの歴史、明言されている国の原則、その指導者らのイデオロギー、全てに反することである。
苦い気持で問わなくてはならない。何故、大西洋の異国、冷たく凍れるアイスランドが、全アラブの政府や国民よりも情熱的で温かく、人間的なのだろうか。我々アラブの同胞は、昼夜を問わずアラブ主義やアラブ民族主義、一つの運命共同体、永遠のメッセージなどと唱えているというのに。あらゆる尺度から見て恥というべき他はない。アラブがそれで聞こえた義侠心、高潔さの一片もない。パレスチナ難民を何処か遠くへ移住させ、パレスチナ問題の根幹である帰還の権利を撤廃しようとする欧米の動きがある中、上記の難民らにそのような情け知らずで非人間的な仕打ちができるのは一体何故だか理解不能である。
アラブ諸国は世界各国から数百万の外国人を住まわせている。インド、パキスタン、スリランカ国籍を初め1300万の外国人を擁する湾岸諸国を見れば充分だろう。彼らは人口の30%を占めるという。しかし年間5千億ドルの石油収入を誇るこれらの国は、難民の一人として受入れようとしない。どころか、経済援助さえしようとしない。難民達を受入れたとしても、これらの国々は何も負担することはないはずだが。UNRWAに登録されている彼らについては、国連が食糧、教育、保健などの面倒をみるはずである。つまり、受入れられない理由は何もない。
抑圧的米占領軍の元で、そして愛国心とモラルを欠いた腐敗宗派政権下で、イラク国民が日々いかに困難な生活を強いられているかは皆知っている。150万が犠牲となった国で、生きていられただけ幸運であったと、このパレスチナ難民たちについては言う事もできよう。しかし同時に、彼らのパレスチナの同胞達は、憎しみに満ちた「イスラム主義」民兵組織により、犠牲獣のように虐殺されたり拉致され行方がわからなくなったりしているのだ。
彼らがパレスチナ人だからといって例外扱いはしなくてよい。ただ、命からがら逃げてきた他のイラク人と同じように扱ってくれさえすれば。イラクに残っているパレスチナ人の数は2万足らず、つまり、何処のアラブの街でも小さな一地区程度である。
数十万のパレスチナ難民を受入れて生きたヨルダン、シリア、レバノン、エジプトのことを忘れてはいない。シリアでは、義務教育、高等教育、そして就職において彼らはシリア人同胞と同じように扱われてきた。シリア空軍司令官はそのような難民出身である。しかし、今回の難民達にこのように門戸を閉ざす事により、それらの偉業が台無しになってしまう。この人道的問題に背を向けるヨルダン、シリアの為政者らは何を考えているのか。
数週間前、ブラジル政府から受入れられたというパレスチナ人のグループから連絡があった。惨めな境遇に涙を呑んでいた人々であるが、何故、兄弟のアラブ国ではなく、数千マイルも離れた異国のブラジルなのだろうと不思議に思ったそうだ。
昨日はスウェーデン政府が、行き場のなくなっていた難民155名の受入れを公表した。屋外で過酷な生活をする子供達を見ても、スーダンを除くどのアラブ諸国も高潔なるアラブの血をたぎらせなかったらしい。スウェーデン、アイスランド、ブラジルの例に倣って受入れようという声は聞かれなかった。
パレスチナ国民政権とその長がこの人々の苦難に何ら関心を示さず、また、ハマースの政治局とシリアの首都に居を構えるそのメンバーらも同様であるのは残念なことだ。双方とも、お互いを陥れるために、そしてラーマッラー政権は空しき和平交渉に、ガザ政権はイスラエルとの停戦調停のために多忙である。マーリキー政権とその民兵組織をいいようにしているイランに対し、何故その友人たちは、民兵の活動を抑え、宗派浄化をやめさせるよう要請しないのだろうか。
イスラエル占領からエルサレムを解放するための軍を募ってくれという要請は、我々はとうの昔に諦めた。孤立させられ領土を奪われたアラブ諸国政府が、イスラエルとの交渉に際しアメリカの意に沿うべく汲々とするのを見てきたからである。我々はただ慈悲を乞うているにすぎない。パレスチナ難民の境遇に人道的な配慮を願っているだけである。国境の砂漠に足止めされた彼らを受入れたからといってワシントンが怒るわけでもなく、ヘブライ国家との間で進行中の和平交渉に差し障るわけではないと思うが。
人種主義的帝国主義者であるはずの欧州諸国が、アラブから、アフリカから、アジアから小船に乗ってくる何千もの避難民を日々受入れている。彼らのために宿泊センターを設け、多くの場合人道的に扱っている。多くの難民は、故国での腐敗や圧政による生活苦から逃れ、より良き未来と就職の機会を求めてきたのだが、諸団体は彼らの権利擁護を主張している。
パレスチナ難民を受入れ面倒を見てくれることにつき、アイスランド、ブラジル、スウェーデンに感謝を述べようとすると、胸を塞がれる思いがする。これらの国々が感謝に値しないというのではない。そうではなく我々は、同じ言語を話し、信条を同じくし、虐げられた者には救いの手を延べ、兄弟に宿を提供し隣人を歓待する、その同胞達がこのような配慮をしてくれるものと思っていた。この人々は、「人間のための最良の共同体」に属しているはずなのだが。
宗派主義者どもは彼らの新生イラクを楽しめばよい。アラブは数千億の石油収入で膨れ上がった国庫を見て悦に入っておればよい。しかし、これが長続きしない、するはずのない恥ずべき状況であるという事は忘れてはならない。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
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