中央銀行総裁、ついに解任
2008年09月23日付 E'temad-e Melli 紙
【経済部】タフマーソブ・マザーヘリー氏が中央銀行総裁のイスにとどまるシナリオは、ついに潰えた。これはマザーヘリー氏自身が暗に認めたことだ。そして第一副大統領も最新の閣議の中で、マザーヘリー中央銀行総裁解任を発表したとも言われている(アフマディーネジャード大統領はこの時、ニューヨーク訪問のために閣議を欠席している)。
もちろん、第9政権の経済政策を基準に考えれば、このような出来事は遅すぎたくらいだと言わねばならない。タフマーソブ・マザーヘリー氏が中央銀行総裁の職に1年間にとどまり続けたことは、第9政権の経済思想にとってある意味驚くべきことであろう。
ところで、タフマーソブ・マザーヘリー氏はイラン経済界にとってよく知られた人物だ。彼は〔ハータミー〕改革派政権時代、経済財政相という重要ポストに就いたが、第7期国会を支配した原理派議員と政権を担った改革派政権との角逐の中で、内閣を去ることを余儀なくされた。当時の改革派政権は、タフマーソブ・マザーヘリー氏に我慢ができなくなっていたのだ。それというのも、彼は外貨準備から55億ドルを切り崩す83年度〔2004年度〕予算に反対した主要人物の一人だったからだ。
〔中略〕
第7期国会によって外貨準備が空っぽにさせられてしまうのではないかとのマザーヘリー氏の不安は、その後現実のものとなった。〔アフマディーネジャードが大統領になって〕原理派が行政に進出すると、彼らは目の色を変えて、歳出を増やし外貨準備を使い果たそうとし始めたのである。当時マザーヘリー氏は、発展を達成するための処方箋として「ビッグプッシュ理論」〔※低開発の悪循環を抜け出すために政府支出を増やす考え方〕を政策の根幹に据える政権で中央銀行総裁に就くことになろうとは、想像だにしていなかったに違いない。
ビッグプッシュ理論の支持者たちは、歳出を増やし、社会各層への融資を促進させることで、短期間のうちに経済的障碍を克服することができるとの信念を抱く人々のことだ。通貨供給量が過去三年間で70兆トマーン〔約8兆円〕から165兆トマーン〔約19兆円〕強に跳ね上がったことからも、第9政権関係者がイラン経済におけるビッグプッシュ理論の唱道者であることがはっきりと分かる。
批判者たちは、経済の実態を考慮することなく、歳出を増やすことで雇用を創出しようとしているとして、政府の経済思想につねに異議を唱えてきた。タフマーソブ・マザーヘリー氏はこのような市場の混乱の中で、念願の中央銀行総裁の職を射止めたのである。
この開発工学の専門家〔=マザーヘリー氏〕とともにイランの経済政策機関で働いてきた彼の友人たちの証言によると、マザーヘリー氏は「児童思想教育協会」にいたときから、中央銀行総裁になることを夢見てきたという。しかし彼の夢が現実となったのは、イラン経済史上かつてないほど国の金融資産を大盤振る舞いする時代であった。マザーヘリー氏はこの途方もない考え方に反旗を翻しつつ、中央銀行総裁の職をこなしたのである。
〔中略〕
へつらうわけではないが、マザーヘリー氏は今や愛すべき人物だ。彼は第9政権で生じた90兆トマーン以上の通貨供給量の増加を厳しく批判し、通貨供給量の抑制のために、財布のひもを堅く締めた。
昨年シャフリーヴァル月〔8月下旬〜9月下旬〕に中央銀行総裁のイスを手に入れた際、マザーヘリー氏は金利を0%に近づける計画を口にし、複数の専門家からイラン経済における妄想の拡大に懸念の声が上がったが、しかしその数ヶ月後、マザーヘリー氏は
金融資産のさらなる取り崩しに封をして、非生産部門への融資の拡大に強く反対する姿勢を示し、経済界の特別の信頼を勝ち取った。
非生産部門への資金の流入拡大に対してマザーヘリー氏が抵抗しなかったとすれば、インフレ率は現在の27%を大きく上回っていたであろうことは、今や経済の専門家たちにとって疑問の余地のないこととされている。
〔中略〕
マザーヘリー氏がミールダーマード通りにあるガラス張りの中央銀行ビルから別れを告げたことで、〔金融をめぐる〕闘いは休止を余儀なくされるだろう。現在専門家らが問うているのは、マザーヘリー辞任が決定的であるとすれば、インフレ、そして通貨供給量の問題をめぐって今後何が起こるか、である。
このような問いを彼らが発するのも、もっともだろう。〔政府の〕金融拡大政策がインフレの主要原因であり、銀行も資金〔不足〕という悪夢に悩まされている中、政府関係者は再度、同じ政策を繰り返すことを決意しているからだ。
昨日、イラン労働通信はマフムード・バフマニー氏〔※原文では「アフマディー」とあったが、誤字と判断した〕がマザーヘリー氏の後任に就く可能性が高いとの全国銀行協会総会の予想を報じている。しかし、マフムード・アフマディーネジャード大統領の金融拡大政策の主な支持者の一人である
ホセイン・サムサーミー=マズラエアーホンド前経済財政相代行が中央銀行総裁代理になるのではないかとの、深刻な懸念も存在する。彼は、タフマーソブ・マザーヘリー中央銀行総裁と金融資産のひもの開け閉めをめぐって厳しく対立したと経済界では噂されている、当の人物に他ならない。
〔※訳注:9月23日夜、マフムード・バフマニー氏が大統領より中央銀行総裁に任命された。バフマニー氏はこれより前、メッリー銀行の取締役などを経て、中央銀行事務局長に就任していた〕
金融システムに危機が生じる可能性も
経済学者でアッラーメ・タバータバーイー大学の学術委員を務めるアフマド・メイダリー博士は、中央銀行がこれまで果たしてきた役割について肯定的に評価した上で、過去一年間にわたる労働省との意見対立について、次のように述べている。「世界のどの国であれ、中央銀行と政府の経済関係の省庁とが対立することは、特に珍しいことではない。というのも、中央銀行はインフレ排除という役目を負っているからだ。もし失業問題を解消するための政策がインフレ上昇を招くようであれば、中央銀行は自らの責務について手加減すべきでないのは明らかである」。
同氏はさらに、「1980年代、アメリカは資金の注入をためらい、その結果失業問題を引き起こしたことがあった。しかし時の経過とともに、この問題は解消され、アメリカ経済は通常の状態に回復した。現在の状況下で〔インフレを無視して雇用対策に走るといった〕性急な政策を採ることは、イラン経済にとって危険である」と指摘する。
メイダリー氏は政府が自らの政策を強行すれば、複数の銀行が破綻することも決っしてあり得ないことではないとして、次のように述べている。「現在の状況を見れば、金融システムの危機が進行中であることが分かる。もし銀行が今後も無節操に資金の貸し出しを続けるようであれば、破綻は確実だ」。
同氏は中央銀行の政策は正しいと指摘した上で、「問題は、貸出資金を生産部門に正しく誘導することができていないことだ」と論じている。
中央銀行と同じ考えだ
他方、経済学者で銀行経営高等機関の元所長のモハンマド・タビービヤーン博士はイラン労働通信に対し、マザーヘリー解任の直前にも
中央銀行と労働省が意見対立を起こしていたことに触れ、その原因を分析しつつ、中央銀行の見解に支持を表明した上で、「この種の支出が雇用や生産に結びついたことは、いまだかつてない。実際、この手のやり方はイランでは失敗を繰り返してきたのだ」と指摘する。
同氏はその上で、「労働相が失業問題を懸念するのはもっともだ。しかし命令的に銀行と相対したり、中央銀行に対して資金を供給するよう決定事項を通達するようなやり方は、雇用創出のための正しい方法ではない」という。
タビービヤーン氏は、〔多量の資金を投入して政府が推進している〕
新規小規模事業所育成計画はインフレをもたらす結果となったことについて、「《新規小規模事業所育成計画》といった名目の下で支出を増やすことは、何らよい結果をもたらすことはなく、金融システムの混乱を倍加させ、最終的にインフレを惹起するだけだ」と語る。
〔中略〕
労働相「住宅部門の停滞は中央銀行の金融引き締め政策に原因がある」
「金融引き締め政策のために、建設部門は停滞しているように思われる」。昨日ジャフロミー労働相は、ファールス通信にこう述べた。
ジャフロミー労働相は
数日前、マフムード・アフマディーネジャード大統領に宛てた書簡の中で、インフレを抑制するために自らの更迭を決断するよう迫った。しかし当時すでに、これはマフムード・アフマディーネジャード大統領との一種の政治的駆け引きに過ぎないことは、誰の目にも明らかであった。モハンマド・ジャフロミー労働相は、金融拡大政策を遂行する上でのアフマディーネジャード大統領の右腕であることは、疑う余地のないことだからだ。
ジャフロミー労働相はその一方で、依然として、
60兆トマーン〔約7兆円〕規模の融資を新規小規模事業所部門に注入する構えを崩していない。しかし銀行の資金が底をついている中で、どのようにしてこの額を捻出するのかは不明だ。読者はこれをどう考えるだろうか?
訳注:労働省が推し進める「新規小規模事業所育成計画」は、直訳すると「短期リターン事業所計画」で、起業家に低利で資金を融資し、短期で業績を上げ、返済することを求める起業家育成・雇用創出政策。事業計画の審査がずさんで、貸し倒れが多数発生しており、雇用創出よりも「借金まみれの失業者」ばかりが増えているとの指摘もある。実際、今回新たに中央銀行総裁に任命されたバフマニー氏は先月末、回収の遅れている不良債権は金融業界全体で統計データで20兆トマーン、推計では40兆トマーン〔約4兆7千億円〕を超えるとの見方を明らかにしている。また、
物価上昇率よりも
金利が低く設定されているため、銀行は資金を貸せば貸すほど経営が苦しくなる構造となっており、貸し倒れ問題とともに、銀行の資金難の原因となっている。なお、「新規小規模事業所育成計画」で投入される60兆トマーンという金額は単年度で融資される金額ではなく、すでに約3分の一にあたる17兆トマーン分が融資を終えている。日本の単年度の公共事業費予算と単純に比較することはできないが、日本の平成20年度予算における公共事業関係費は約6兆7千億円で、日本のGDPはイラン(約2900億ドル)の約15倍であることを考えると、この60兆トマーンという金額の大きさが分かる。
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( 翻訳者:斎藤正道 )
( 記事ID:14776 )