コラム:アラブ・イラン関係
2008年09月27日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ イランの実力とアメリカの不能
2008年09月27日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】
アラブがカラダーウィー師による「シーア化」発言にかまけている間に、イランはその軍事力、特に核の力を発展させ強大な地域勢力としての地位を確立しようとしている。
昨日、英「ガーディアン」紙は、イランの核施設を爆撃したいというオルメルト・イスラエル首相の要請がブッシュ米大統領により退けられたと報じた。まず第一にその失敗を恐れ、そしてイラクをはじめとするアラブ諸国に駐留する米軍他の関係施設が、更には米国内でさえも、イランによる報復活動の対象となる事を恐れるが故である。米政権はイラン体制への恐怖に慄いており、嫌悪感が同盟国イスラエルに手綱をかけ、新たな消耗戦に繋がるであろう軍事的冒険を許さなかったのである。合衆国の兵力、経済力は最早いかなる新しい戦争にも耐え得ない。
イラクとアフガニスタンでの不首尾な戦争により米国は経済危機に直面し、その国が主導する資本主義体制を脅かし、彼らの誇る市場原理や経済原則、社会主義の競争相手に対する勝利などの全てが破綻しつつある。
イランもまたイラク前政権との8年にわたる戦争で多大な損失を被った。しかし彼らは白旗を上げなかった。カードの99%までが合衆国の手の内にあり、かつてのサダト・エジプト大統領が域内での合衆国との同盟を奨励したように、アラブ指導者たちはワシントン、あるいはバグダードへ巡礼し、何をおいても和平を求めている。しかしイランはそうではない。アフマディネジャード大統領はニューヨークへ行き、国連の壇上に登り、合衆国のど真ん中からその国を攻撃する。合衆国の衰退、全世界に対する覇権の終焉を予告し、アラブとイスラム、二つの共同体の敵イスラエルへの支援をはじめとする合衆国の罪を糾弾し、そして何よりも「占領地におけるイスラエルの虐殺行為の継続、イスラエルの虚言、欺瞞、犯罪行為」につき語ることを少しも躊躇せず、「このような存在(イスラエル)は遠からず終結する。それを留める道はない」と断言する。
卓越した軍事力、並びに、パレスチナ、イラク、アフガニスタンにおけるアメリカとアラブの無残な失策全てを自国のために活用し得る政治判断力とが無ければ、イラン大統領がこのように挑戦的態度を取ることは不可能である。
アラブ指導者たちも国連総会には出席する。しかし誰一人として、アメリカとその欠陥ある政権を批判する事はできず、アラブとイスラム教徒に対するイスラエルの残虐行為に言及することもできない。それどころかイスラエル幹部の元へはせ参じて握手を求め、ヘブライ国家への善意を示してみせる。
ガーディアン紙によれば、合衆国がイスラエル機にイラク領空を通過する許可を出さなかったのはイラクの主権のためではなく、その地に縛られている15万の自国軍に対するイランの報復を恐れるがためである。湾岸諸国並びに合衆国内でさえもイラン分子が活動しているのだ。
ここでは力がものを言う。22のアラブ諸国が現在しているように、合衆国やイスラエルその他の国々に卑屈に和平を乞うようなことをイランはせず、その上で政治バランスを変えていく。国際政治は弱者のための場所ではなく、力あるものが他国との関係を決し利己的に発言する。つまり彼らは慈善団体ではない。
力の拠り所を有していたアラブだが、よってたかってイラクを謀り、その国を封鎖し化学兵器や核プログラムを破壊してから占領に至るまで、何の見返りもなく合衆国と足並みを揃えた時には、その富は蕩尽され果てていた。そして今、テヘランに有利なように地域の戦略バランスを侵食しつつあるイランの軍事力に怯えているのである。
核プログラムを有するイランをイスラエルが叩こうとし、それをアメリカが止めた。その事にアラブ諸国は妬みと怒りを覚えているに違いない。イランの核が悩みの種だった彼らは、それから逃れるためイスラエルに接近し、対話のチャンネルを開き、友好を求めようとしたところだったのだ。アラブの国庫には年々莫大な石油収入が入る。それにもかかわらずアラブは戦車やミサイルの製造工場を持たない。封鎖されたガザで、飢え、何もかも失った天才達がイスラエル領土の奥に達する原始的ミサイルを製造すると、アラブは怒りに震え、イスラエルや合衆国と共謀してこの抵抗の精神を挫こうとする。
我々は戦争に賛成するものではない。我々はあらゆるテロ行為を非難する。しかし、34年前、当時もラマダン月にあたっていた10月の戦争の後、和平という選択によりアラブが何を達成したかは問うてもよいだろう。アラブとイスラムの聖地を含む占領地は取り戻せたのか?パレスチナ独立国家はできたのか?教育や保健衛生は整えられたのか?失業はなくなったか?識字率は上がったか?
軍事産業に投資したイランは、中国、インド、ロシアといった成長しつつある強大国と自国の利益をふまえた関係を構築している。そして近隣諸国の間とイスラム世界でその政治力とイデオロギーを強化している。翻ってアラブはどうか。通商プロジェクトに投資し、虚栄の都市を築き、欧米の株を買い、今アメリカを吹き荒れている経済危機の中で多くを失っている。
イランの試みに組してこのように書くのではない。ただ我々が思いもよらなかった程に低迷しているアラブの現状を嘆いての事である。唯一つ言えるのは、我々はシーア派になろうとしているわけではなく、彼らと同様我々も一つの家から出た子孫であるというだけだ。
イランに拮抗しえるアラブの軍事戦略バランスがもたらされる事を望む。それによりイランの脅威からアラブ地域は守られるだろう。しかし我々は、イランとシーアの同胞達への敵意を煽るために些細な事件を利用するのを良しとはしない。昨今よく知られたやり方で中東を席巻するメディア・キャンペーンに明らかなように、それはイスラエルとアメリカの利益になるだけだ。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:14788 )