【政治部】改革派は大統領選へ向けた混乱を解消し、現在の閉塞状況を打開するために、様々な選挙戦略を模索している。
現在、アルヴィーリー〔※1〕とキャッルービーが提示している案が、改革派〔※原文には「原理派」とあったが、「改革派」の誤りであると判断した〕の選挙をめぐる様々な話し合いの中で検討されている。
モルタザー・アルヴィーリーの案は、改革派の元国会議員やハーシェミー=ラフサンジャーニー、セイエド・モハンマド・ハータミー両政権下で閣僚や州知事を務めた人々が各地に「地方改革派評議会」を立ち上げ、同評議会が「改革派大会議」のための代表者を選出、その上で「改革派大会議」はまず最初に、政治・経済計画を策定し、次に〔大統領選へ向けた改革派の〕統一候補者擁立のための仕組みを決める、というものだ。
アルヴィーリーが提示した案は、しかし、当初より一部著名改革派グループの反対に遭遇した。これらのグループは、ハータミーこそ自らの意中の候補者であると言明したのである。アルヴィーリー案に対する反対の声は極めて強く、アルヴィーリーの言によれば、そのために同案をめぐる議論を続けることもままならなくなり、断念せざるを得なくなったほどだという。
モハンマド・アリー・ナジャフィー〔※2〕も同様の案を提示している。ナジャフィー案は、改革派の元国会議員や改革派政権時代の元閣僚・州知事に代わり、改革派諸政党が中心的役割を担うというもの。
これ以外にも、メフディー・キャッルービーも独自の案を提示している。キャッルービーの案は、改革派の候補者となる人物は今から選挙への出馬の用意があることを公表し、バフマン月〔2009年1月下旬〕まで選挙活動を行い、その上で、「闘う宗教指導者会議」のタスクフォースが定めたメカニズムに従って、改革派の統一候補者を決める、というものだ。
他方、「建設の奉仕者党」は「国民信頼党」、「建設の奉仕者党」、「イラン・イスラーム参加戦線」、「イスラーム革命聖戦士機構」、そして「イスラーム労働党」など限られた数の改革派グループからなる二つの調停委員会の設置を提案しているが、現在同案への賛否は分かれている。
マジード・アンサーリー〔※3〕はキャッルービーに異議を唱える一方で、キャッルービーは自らの案について「参加戦線」や「聖戦士機構」と協議を行うつもりはないと公言している。そのような中で、アルヴィーリーとナジャフィーの案はすでに、脇へと追いやられてしまった格好だ。
原理派の選挙戦略
他方、「イスラーム革命献身者協会」のスポークスマンや「イマームと最高指導者の路線を支持する戦線」総書記も、選挙をめぐる自派の立場について発言している。
イラン学生通信の報道によると、「献身者協会」のスポークスマンを務めるロトフォッラー・フォルーザンデは誰を大統領選の候補者に擁立するかをめぐる議論に、現時点で原理派が立ち入ることは適切ではないとの見方を示し、「原理派はまず、派内の統一を実現すること、そして実行力の向上に努めること、という二つの主要な目的を追求すべきであり、統一候補者の擁立という三番目の目的はそのあとで追求すべきものである」と述べた。
フォルーザンデは「献身者協会」中央評議会の会議について触れ、次のように語った。「この会議で、『ホルダード月2日』陣営〔※4〕の状況やハータミー氏の動向について分析がなされた。その結果、次のような結論が出た。すなわち、ハータミー氏は選挙戦への出馬に向けて現在環境を整えているところであるが、『ホルダード月2日』派のその他の活動家らと同様、3つの問題に直面している。第一に『ホルダード月2日』派には実行力が欠けているという市民の印象、第二にハータミー氏はその他の改革派の人物と同様、構造破壊的な『ホルダード月2日』急進派に悩まされていること、第三に8年間実権を握っていた人物〔=ハータミー氏〕が、現在いかなる戦略で〔大統領選に〕出馬し、一部構造的ですらある諸問題を解決しようと考えているのか〔不明であること〕、である」。
「国民は大統領選に出馬する人物に、はっきりとしたビジョン、計画を期待している」。フォルーザンデはこう述べ、さらに次のように続けた。「この会議ではまた、原理派陣営が置かれている状況についても議論・検討が行われ、原理派は自らの統一を維持すべきであり、統一なき勝利はないということを知るべきだということが強調された。他方、原理派は〔同派が支配する〕政府ならびに国会の実行力向上に向けて努力し、もって〔同派がこれまでの国政選挙で獲得してきた〕票の維持ないしは上乗せに努めるべきである。それゆえ、原理派は市民の経済問題に特別の注意を払い、そうすることで〔選挙での〕勝利のための土台を準備するべきだ」。
フォルーザンデはさらに、「候補者の選定については、《原理への忠誠》、《実行力》、《人気》といった基準に基づいて行わねばならない。もちろん、われわれは今現在、選定作業に入ることは時期尚早であり、誤りであると考えている」と述べた。
他方、「イマームと最高指導者の路線を支持する戦線」総書記の
ハビーボッラー・アスギャル=オウラーディーは、次のように指摘している。「われわれが過去どこにいて、現在どこにいるのか、そして将来どこに向かって行くのか。この問いについて明らかにするためには、《優しい批判》に満ちた雰囲気が次期大統領選では必要である。個人・グループに対するいかなる攻撃も、これら3つの問いに答えることを困難にし、進むべき道をわれわれに誤らせ、中傷に満ちた雰囲気を作り出すだけである。中傷に満ちた雰囲気は、われわれに国の発展、国民への奉仕、そして正義の追求という仕事をおろそかにさせ、我が善良なる国民にその累が及ぶことになるからだ」。
「青年改革派連合」本部長「改革派はハータミー擁立で意見が一致しているわけではない」
「青年改革派連合」のモハンマド・ザーレ・フーマニー〔※5〕本部長は、選挙を取り巻く状況はハータミーにとって順風とはならないだろうとの見方を示し、同氏に対し「第10期大統領選に出馬するべきではない。国民に向けて条件を課すくらいなら、沈黙を選択すべきだ」と諌言した。
フーマニー本部長はファールス通信とのインタビューの中で、ハータミー前大統領が〔大統領選出馬のための〕条件に言及したことに関し、「第10期大統領選に出馬しないよう、ハータミーに進言したい。出馬に条件を課すくらいなら、沈黙を選択すべきだ」と語った。
フーマニーはハータミーBARAN(イラン自由・発展・開発財団)会長が次期大統領選への出馬に、「国民との相互理解」という条件を課したことに触れ、次のように述べた。「ハータミーは大統領在職中、国民の立場というものを考えようとしなかった。彼が国民ということばで意味していたのは、国政を牛耳る一味と志向を同じくする、いくつかの急進グループのメンバーらのことであり、現在もベフザード・ナバヴィー〔※6〕やモハンマド・レザー・ハータミー〔※7〕、モスタファー・タージザーデ〔※8〕といった連中との相互理解を図っているだけだ」。
同氏はその上で、次のように問うている。「ハータミー政権には国民の居場所はなかった。彼らは無用の存在だったのだ。そうであるならばどうして、今さら国民の側から選挙戦に出馬しようとするのか」。
※1:モルタザー・アルヴィーリーは1980年代、左派系政治組織「イスラーム革命聖戦士機構」のメンバーとして国会で活躍した後、90年代ラフサンジャーニー政権で要職を歴任、ラフサンジャーニー支持派のテクノクラートが結成した「建設の奉仕者党」に加わり、1999年から2002年までテヘラン市長を務め、その後2006年まで駐スペイン大使を務めた人物。
※2:モハンマド・アリー・ナジャフィーは左派系ミールホセイン・ムーサヴィー政権下で高等教育相(1981-84)を、ラフサンジャーニー政権下で教育相(1988-97)を、さらにハータミー政権下で一時企画予算庁長官を務めた人物で、ラフサンジャーニーに近い人物とされる。現在
テヘラン市議。
次期大統領選への立候補も検討しているとも。
※3:マジード・アンサーリーは「闘う宗教指導者会議」の中心的人物の一人で、ハータミー政権末期、国会・法律担当副大統領を務めた。
※4:「ホルダード月2日」はハータミー師が大統領選に初当選した日(1997年5月23日)を指す。イラン政治における「改革派」の伸張を象徴することば。
※5:モハンマド・ザーレ・フーマニーは、「イラン連帯党」の関係者の一人。「イラン連帯党」は「イラン・イスラーム参加戦線」等よりも保守的・穏健的な傾向の改革派系グループで、キャッルービー率いる国民信頼党と近い。
※6:ベフザード・ナバヴィーは左派グループ「イスラーム革命聖戦士機構」の指導者の一人で、ムーサヴィー内閣で重工業相など要職を務めた人物。革命当初は「過激派」として知られた(当時の「過激な」政治運動家や米大使館を選挙した学生らの多くは、ホメイニーの死後「改革派」に転向している)。第6期国会の副議長も務めた。また、米大使館人質問題の解決にも関与している。
※7:モハンマド・レザー・ハータミーは、モハンマド・ハータミー前大統領の弟で、改革派政党「イラン・イスラーム参加戦線」で長年党首を務めた人物。第6期国会では国会副議長を務めた。なお、彼の妻はホメイニーの孫娘にあたるザフラー・エシュラーギー。
※8:改革派政党「イラン・イスラーム参加戦線」の指導者の一人で、内務次官(政務担当)として活躍。なお、彼の妻は左派系ウラマー政党「闘う宗教指導者会議」の実力者の一人アリー・アクバル・モフタシャミープールのいとこ。
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( 翻訳者:斉藤正道 )
( 記事ID:14864 )