ミール・ホセイン・ムーサヴィーは改革派?原理派?それとも無所属?:ムーサヴィー元首相の選挙へのアプローチを探る
2009年03月07日付 Jam-e Jam 紙

【政治部】しばらく前まで、ミール・ホセイン・ムーサヴィーは選挙に出馬するのかどうかが取りざたされてきたが、この疑問への答えが得られぬまま、いまや彼の発言から別の疑問も持ち上がってきている。彼が出馬を決意した場合、果たしてどの党派から出馬を表明するつもりなのか、そしてその後の選挙をめぐる勢力図はどのようになるのか、という疑問だ。

 「聖なる防衛」が行われていた1360年から68年〔1981年から1989年〕までイラン・イスラーム共和国首相を務めてきたミール・ホセイン・ムーサヴィーは、8年間に及ぶ首相在任期間を終えると、行政から身を引き文化・芸術活動に専念、政治の世界に関わることを避ける道を選択した。

 しかし第10期大統領選挙へのミール・ホセイン・ムーサヴィーのまなざしには、明らかに特別なものがある。彼はこれまでとは異なり、イランの政治情勢を真剣に精査・検討する姿勢を示しているからだ。

 首相職を辞して以降20年間にわたり沈黙を保ってきたミール・ホセイン・ムーサヴィーは、大統領選を目前に控え、これまでに様々なメディアと詳細なインタビューをこなし、あるいは様々な式典・会合に出席しては、国内外の情勢に対する自らの見解を披露してきた。さらに、これまで明かにされてこなかった首相在任中の出来事について、口を開く場面もあった。

 ミール・ホセイン・ムーサヴィーが大統領選に並々ならぬ意欲を示していることを公の前で初めて明らかにしたのは、セイエド・モハンマド・ハータミーであった。ハータミーの選挙への出馬がどうしても必要性だと考える一部グループの強い主張にもかかわらず、ハータミーはミール・ホセイン・ムーサヴィーと話し合いを重ねていることを明らかにし、自身かミール・ホセインのいずれか一方が選挙に出馬するだろうということを表明した。

 このような表明を受け、改革派は次期大統領選で自派が擁立する候補者の一人として、ミール・ホセイン・ムーサヴィーの人となりについて紹介し始めるようになった。彼は若い世代にはあまり知られていないため、彼のことを人々に宣伝する必要があったのである。〔‥‥〕

 一部からは、首相在任中のミール・ホセイン・ムーサヴィーの経済政策は当時の状況に特別なものであって、〔彼が大統領になれば〕現在の状況にあった新たな政策を打ち出すはずだと、懸念を打ち消す声も聞かれた。〔※1〕

 このような改革派からの広報活動にあわせる形で、ハータミーはミール・ホセイン・ムーサヴィーに対して出馬を促すための説得工作を重ねた。しかしこのような試みは成功に至らず、ついにハータミー自身がバフマン月20日〔2月8日〕に大統領選への出馬を正式に表明したのであった。

 しかしハータミーの出馬表明にもかかわらず、ミール・ホセイン・ムーサヴィーは依然として選挙活動とも取れる活動を続けている。なぜミール・ホセインはハータミーの説得工作の間、出馬を表明しなかったのか、様々な憶測を呼んでいるが、そのうちの一つに、ミール・ホセインはハータミーの要請を受諾することで、改革派の一員と見なされるのを避けたかったのではないか、というものがある。

 このような中、セイエド・モハンマド・ハータミーを支持することで、同師が第10期大統領選で勝利を収めた暁には政権の一角を占めることを虎視眈々と狙う、一部の急進改革派グループ・関係者は、ミール・ホセインが選挙活動を継続していることに不快感を示している。ミール・ホセインのこれまでの経歴、及び彼の思想的特徴を考えるならば、急進改革派がムーサヴィー政権に加わる可能性のないことは明らかだからだ。

 一部の急進主義者たちは、ミール・ホセイン・ムーサヴィーをハータミーよりも臆病者だと発言しているが、このような発言は恐らく、上記のような思惑があってのことだろう。ホルダード月二日派〔=改革派〕の急進グループの中には、ミール・ホセイン・ムーサヴィーに対して、脅迫めいた行動に出ている者もいるとの報道もある。

 他方、もしミール・ホセイン・ムーサヴィーが第10期大統領選に出馬することになれば、原理派にとっても影響がないとは言えないだろう。確かに原理主義者の多くは、もしムーサヴィーが改革派の代表として大統領選に出馬すれば、ライバルとして彼に相対することになるだろうと強調している。しかし彼が無所属候補として出馬するならば、状況は変わりうる。

 例えば、イラン・イスラーム発展公正党のレザー・タラーイーニーク総書記はジャーメ・ジャム紙とのインタビューの中で、ミール・ホセインは第10期大統領選で原理派が推す候補者の一人として検討に値する人物だと述べている。

 他方、ミール・ホセイン・ムーサヴィーの過去の発言を見てみると、彼は現在イランで一般化している政治的分類をあまり信用しておらず、社会は原理主義的であると同時に改革主義的でもあり、目の前に立ちはだかる諸問題を乗り越えるためには〔原理派・改革派といった垣根を越えた〕団結が必要だと考えていることが分かる。

 彼は様々な元・現職国会議員らが参加した会合の中で、次のようなメッセージを伝えている。曰く、「諸々の政治勢力の腑分け方について現在一般化している決まり文句には、意味のあるものや何らかの利益をもたらすものも含まれているが、しかしこの《利益》というのが果たして社会全体の利益と適合したものであるのかどうか、私には確信がない」、と。

 彼はその上で、「私たちの社会を、原理派/改革派に二分することはできない。自派の分裂を社会一般に広めようとする〔一部の〕政治勢力の執拗な試みは、厳しい状況下に置かれている市民の団結と忍耐を保持するのに、何ら寄与しない」と続けている。

 ミール・ホセイン・ムーサヴィーはイランの政治的分類についてだけでなく、その他の領域についても、最近行った演説の中で持論を展開し、社会一般に向け自らの見解を紹介しようと努めている。ともあれ、彼が正式に選挙への出馬を表明するまで、後もう少しの辛抱が必要なようだ。



訳注
※1:ミール・ホセイン・ムーサヴィーはイラン・イラク戦争当時、国家による厳格な統制経済を推し進めたことから、より自由な商業活動を望むバーザール商人などから反発を受けた。ムーサヴィー元首相が大統領に就任すれば、ホメイニー没後一貫して経済の自由化を推し進めてきたイラン政府が、再び経済への国家管理を強めるのではないかとの懸念が一部に存在するといわれている。

※2:タラーイーニークは2008年の国会選挙において、主流派の「原理派統一戦線」に対抗する形で結成された「原理派包括連合」で、中心的な役割を演じた非主流派の原理派関係者。反アフマディーネジャード派で、「連合政府」構想を模索するモフセン・レザーイーに近いため、同構想の担い手としてムーサヴィー元首相が担がれる可能性を、タラーイーニークのこの発言は示唆している。

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( 翻訳者:斎藤正道 )
( 記事ID:16011 )