ラーレリの労働者市場:トルコで暮らす外国人介護・ベビーシッター
2009年07月05日付 Radikal 紙


一時期、スーツケース貿易(*注)の中心地であったラーレリは、今その多くが元ソビエト連邦諸国からやって来たベビーシッターの女性たちが仕事を見つける場所となっている。その大多数が大卒で言語も堪能な女性たちは、一月平均600ドルで子守をする。レファレンス新聞のセヴダ・ユズバシュオールとエニス・タイマンが、ベビーシッターを探す家族になりすまし、ラーレリへ向かった。[*注 買い物や商品の仕入れを目的に、主にロシアや東欧諸国からトルコへ旅行ビザで入国した人々が行っていた取引、貿易]

早朝であるにも関わらず、イスタンブル、ラーレリ区のダダシュ公園は随分と活動的である。「公園」と言われているこの場所は、実際には両側がホテルや店々でふさがった一つの街路となっている。街路の端々では手にスーツケースを持った若い年齢や中年の外国人女性たちが待ち合わせをしている。ここは、特に近年、子守と介護または病人看護で、ほとんど流行ともいえるほどに増えている、モルドヴァ、ウクライナ、チュルクメン、グルジア出身の女性たちが仕事を見つける、現代の労働市場なのである。ベビーシッターを探す家族のふりをして近くに寄ると、平均600ドルでどんな仕事でも引き受ける数十人の女性たちが、私たちの周りを取り囲む…

トルコで働く女性の増加に伴い発生し、そして日を追う毎に大きくなる介護・シッター産業で働き手をみつけるためには二つの方法がある。一つは、イスタンブルで165に上る公的機関に申し込みをする方法であり、このような機関ではただトルコ人の介護者やベビーシッターだけを斡旋する。でなければ、もう一つの方法である、非合法で働き手を探すために、未認可の斡旋組織に申し込むか、トルコで仕事をみつけるために非合法に職探しをしている女性たちが集まるダダシュ公園へいくか、である。ちょうど私たちがそうしたように…

トルコで日々大きくなるこの非合法の仕事の担い手は、解体した独立国家共同体(CIS)の国々の出身者である。モルドヴァ、ウクライナ、グルジア、そしてトルコ系諸共和国は最も重要な資源なのだ。この国々から旅行用パスポートでトルコに入国する人の数は、年間30万~40万人に上る。入国者のうちの女性の一部分は、非合法の斡旋業者の仲介や、自力で介護やベビーシッターの仕事を見つける。私たちが会ったこうしたベビーシッターの一人は、その数がおよそ1万人近いといっていた。

■トルコ人ベビーシッターよりも魅力的

非合法市場で出回るお金はというと、数100万トルコリラ(TL.1TL=約63円)にのぼるといわれる。なぜなら、バクルキョイ地区だけで80近い非合法斡旋業者があり、ラーレリではこの数は、もっと多いといわれている。これらの斡旋業者が紹介する女性たちは、健康保険あるいは身分保証を求めず、一月平均600ドルで住み込みという形で仕事を得る。非合法の斡旋業者は、女性からも依頼人からも手数料を取る。新しく来た女性たちはシビアな値切り交渉の末、450ドルで仕事を引き受ける。斡旋業者、または女性たちと公的な契約を結ばない仕事の手配師たちは、女性たちが逃げるのを防ぐために彼女たちのパスポートを預かっている。

外国人の介護者・ベビーシッターが魅力的である理由は、トルコ人同業者よりも平均してより安い料金で仕事を引き受けるという点にある。加えてその多数が大卒者で、外国語を知っている。住み込みで働き、保険は必要とせず、そしてあらゆる仕事を引き受ける。トルコ職業安定機構(İŞKUR)に属する私立の職業紹介所では、法的な理由で、トルコ人介護者・ベビーシッターだけが働くを扱うことができる。これらの職業紹介所に登録されているトルコ人は、月々最低でも1000TLを要求する。さらに、この人たちの大半は住み込みでの仕事を受け付けない。これは、特に高齢者の介護のため、トルコ人介護者が魅力的とならない理由となっている。旅行者用ビザで来た女性たちは、ビザの有効期間が切れてもトルコに滞在し続ける。多くの場合、捕まることはない。しかし捕まったとき、あるいは国から出国するときに、ビザなしで滞在して期間、ひと月あたり90TLを払う。

■「パルティジ・ビロル」では、500ドルで子守を見つけられる

ダダシュ公園で私たちの周りを取り囲んだモルドヴァ人女性たちと、子守のための値段交渉をしている。女性たちは750ドルから交渉を始める。私たちは400ドル以上出さないことを言う。熱い値切り交渉が続く中、ここでは400ドルで子守を見つけられないことをいうアンジェルという名の女性が、「この人があなた方を手伝ってくれるかもしれない」と言ってカードを渡してくれた。カードには、「パルティジ・ビロル、どんな種類の靴、サンダルでも買えます、売れます」という文句が載っている。パルティジ・ビロルは何百とある、似たような「非合法の斡旋業者」の一つなのだ。歩合制で稼ぐこのような斡旋業者が行うどんな商売も登録されたものではない。客を装って私たちが電話をしたビロルは、400ドルでは働き手を雇えない、しかし、もし望むならグルジア人かアルメニア人女性に限れば500ドルまで下げられると話す。ビロルでは2週間の試用期間が設けられている。もしベビーシッターの女性を気に入らなければ、その女性を「返品」できる。この期間内では、パスポートをあなたが預かる。しかし、週一回の休日のために、こづかいとして25-30TLの支払いが必要である。ビロルは、私たちとベビーシッターの女性からそれぞれ150ドルずつ仲介料を取る。

この電話での会話の後、もっと安く他の働き手を見つけるために、モルドヴァ人が私たちに勧めたもう一つのあてであるトルクメニスタン人の店へ行ってみることにした。

■探していた子守が見つかる

ラーレリ通りに近い、暗く人気のないホテルの1階のオフィスにいる。担当者のチェティン氏は、私たちのお役にたちましょう、といい、スルタンという渾名でよばれるの女性を呼ぶ。スルタンの前歯は金歯だった。4年間ラーレリにいるそうで、自身も働いている。400ドルには顔をしかめるものの解決策を見つける。二階へ上がって、ザリナを連れてくる。ザリナは24歳である。一週間前に、4歳の息子をトルクメニスタンの首都アルマアタに残し、まず船でトラブゾンへ、そこからバスでイスタンブルに着いたらしい。今、他人の子供をみるためにスルタンが私たちと行った取引を理解しようと努めている。トルコ語はほとんど出来ない。憂鬱気な目をして遠慮がちに立っている。子供を450ドルでみることを了承する。

スルタンは、「言葉を話せられるようになれば、この料金では引き受けないでしょう。今は新しく来たばかりなので了承しているのです。彼女はあらゆる仕事をこなします。週に一度、あなた方の都合の合う日に有給休暇を設けて下さい。パスポートはそちらでもっていた下さい、あなた方へ問題を起こさないように。第一、問題を起こしたとしても私たちはここにいるのですからご安心を」と説明する。ザリナは話の中身はわかっていないが、金額の話は理解し、首を縦にふって了解する。実際の所、私たちはスルタンが彼女になにをいったか理解しておらず、彼女も自分自身について交わされた私たちの契約の内容を理解していない。スルタンは私たちが納得していないのを見て、「自身の子もずっと自分で面倒みてきた人ですよ。心配しないで下さい、(子守を)とてもよく知っていますよ」と言う。ここで、私たちは(契約が)非合法であることへの不安を口にする。「彼女の仕事は捕まらないことです。もしあなた方が望むのなら、罰金を支払って、彼女を合法的に働かせることもできます。でも、その必要はないでしょう」と話す。

ところで、ダダシュ公園で見つかるのは仕事だけではない。ここでは女性たちが週の決まった日に、国へ送金することが出来るシステムもある。バスが発つ。中には送金の仕事の担当者だけが乗っている。ある女性は、「銀行を介してお金を送ろうとすると、信じられないぐらい手数料が取られます。でもここでなら、ただ3%程の金額で済むのです」と語る。加えて、服や食べ物など全ての品物が、ここから出発するバスの帰路に積み込ま、女性たちに届けられる。

■飛び交う恐ろしい話

ダダシュ公園で、あるいはトルクメン人の店での最も深刻な問題は、「保証」である。「保証」というのは何を意味しているかというと、女性が子供を置いて逃げる危険性への保証のことである。解決策は、女性のパスポートをとりあげておくこと。しかし、私たちが依頼人のふりをして話した人々は、「この女性たちは『パスポートを失くした』と言って、領事館に行き、臨時のパスポートをもらって国へ逃げる」と私たちに注意を促す。一方で、不法滞在であるために何ヶ月も働いてお金を得ることの出来ない、劣悪な扱いを受ける女性の話も、「保証」という問題の重要性を改めて示している。

ラーレリで、商人たちはこの女性たちを信用していない。彼らが説明する話はぞっとするようなものである。しかし、モルドヴァ人女性の説明する話もまた鳥肌ものである…。

ある商人は、「この人たちはあなたの子供を公園へ置いて逃げてしまう、子供を二度とみつけられないよ。あるいは、あなたの財産を盗っていってしまうよ」と話す。別の人はまた違う話をする:「ある外国人女性は介護をしている女性の家に、毎晩、男の友人を連れて来るようになったという。物音で不審に思った家の女性には、「夜になると、亡くなった旦那の霊が来ている、物音はそのため」だと話したそうだ。年老いた女性が娘にこのことを説明したところ、その娘は夜、突然、実家を訪れてみた。そして本当のことがわかったらしい。」

5年前モルドヴァから来たマーラは、「悪い扱いさえされなければ、どうして私たちも悪いことをしましょう、どうして4歳の子供を公園に置いて逃げ出しましょうか」と述べる。彼女も、近しい友人に降りかかったある出来事を説明する:「55歳の私の友人は、自分の年齢が高いことで安心して、あるお年寄りの男性の家に介護にいったのです。パスポートも渡していました。そこで2ヶ月の間、家の息子とその男性の暴行にあったのです。「おまえを外国人課へ突き出してやる」と脅されたといいます。彼女はどうすることも出来なかったのです。結局、私たちが旅費を捻出して彼女を故郷に送りました。」

■「富を得ている」

さて、どうして彼女たちはここにやって来るのだろうか。マーラは、「モルドヴァでは医者は月300ドル、教師なら200ドルを平均して得ています。つまり、私たちはここでけっこうな収入を得ているのです。もし良い家族とめぐり会えば、そして仕事をこなすことが出来たら、ここでの苦労は報われます。でも、とても苦い経験をして帰っていく友達もいます」と話す。マーラは、特に自分たちに貼られた「売春婦」というレッテルを剥がすためにも努力していることを強調する。「ちゃんとした仕事に就いて、ここで働きたいと思っています。でも、トルコ人も私たち外国人女性も、全員が全員いい人間とは限らないわ」と語るマーラは、自身も老人介護職を希望していることを述べ、「その家の家族がとても良くても、子供たちがひどいこともあり得るから。『おまえはくずだ、悪魔だ』と言って、そんな呼び方をする人だっているのです。」と語る。

■この業界は被害を被った

ハヤ労働者派遣協会私立職業紹介所社長のハヤ・ユルドゥセヴェル氏は、バクルキョイ地区だけでも80の非合法の職業斡旋所があり、これらの会社で非合法に働く人々が、この業界に大きな打撃を与えた、と語る。ユルドゥセヴェル氏は、「ひとつの職業安定所の設立には、4年間の職業訓練をうけ、2万1千リラの保証金を支払わなければなりません。もし間違いでもあろうものなら、このお金はパーになります。3ヶ月ごとに、労働安定機構(İŞKUR)へ報告書を出さねばなりません。コントロールは厳しいものです。しかし、非合法の会社は、何百万TLという額を稼いでいるのです。」

こうした非合法の会社について報告書をかいて文句をいったが、政府はゆっくりとしか動かず、非合法の会社はその恩恵をうけていると語るユルドゥセヴェル氏は、さらに次のように述べた。

「これの会社は、自分のところの働き手から手数料だけでなく、何でもとっていきます。私たちのところでそんなことをしようものなら、営業許可がふっとんでしまいます。非合法の会社は、事前の打ち合わせをしただけで25TLをとると聞きました。雇う方もこの件をよくわかっておかなくてはいけません。この人々は、潜在的な危険をばらまいています。あなた方の生活に入り込んですべてのことを知っているのです。しかし、あなた方は、彼らが誰なのか、まったく知らないでしょう。本当の安全のためには、必ず労働安定機構の監督下にある紹介所を利用すべきです。トルコ人のベビーシッターも、外国籍の働き手がもらっている料金をみて、値段をあげました。以前は600〜700TLで仕事をしようとしていた人たちが、今では1500〜2000を要求します。」

■安くて高品質

コチ大学移民研究プログラム所長のアフメト・イチドゥイグ教授は、トルコで働く外国人労働者が、循環的ではあるが、数10万規模に達しているという。外国人労働者が5つの業界に集中しているとし、その5つを人気の順に次のように並べた。1)娯楽・売春、2)家事手伝い、3)繊維産業、4)農業、5)サービス業。イチドゥイグ教授は、「外国人の非合法の労働者に支払われて金額をみて、もうけていると思うかもしれないが、本当はそうではありません。残るお金はわずかです。帰国の乗り物代や国境で支払わなければならない罰金がかかるからです」という。

しかし、トルコ人の労働者の状況もパッとしてものでもない。イチドゥイグ教授は、「トルコでは、そもそも経済活動の半分しか合法的に行われていません。トルコ人労働者も正規労働者とは限りません」という。そして、外国人労働者が、国内労働市場に被害を与えたとする説は、実際には正しくないと強調するイチドゥイグ教授は、次のように述べた。

「外国人労働者は、比較的質が高く、安価な労働力を提供しています。資本主義的労働市場のダイナミズムの中にあれば、こうした市場が生まれてくるのは当然でしょう。トルコは、こうした外国人労働力を必要としています。東北部アナトリアのアルダハンにいってみましたが、あの町には失業者が多いのです。しかし、安くて有用であるため、外国からの農業労働者をつかっています。トルコに働きにくる外国人のほとんど90%は非正規です。その理由の一端は、政府が外国人移民の国になることを望んでいないことにあります。このため、法律的には大きな問題はなくとも、行政上、問題が生まれる可能性をはらんでいます。」

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( 翻訳者:西山愛実 )
( 記事ID:16871 )