調印直前の対立の原因は、ナゴルノ・カラバフ問題
2009年10月10日付 Hurriyet 紙

この対立の原因は何なのであろうか?

一見するとその原因はアルメニアの「ジェノサイド」問題を、ナルバンジャン外務大臣の口から、一定の形で調印式の演説に加えられることにあると考えられるが、本当の原因はアゼルバイジャン問題への言及が欠落していたことだ。より正しくは、ナゴルノ・カラバフ問題である。
アルメニアと調印した合意文書では、カラバフ問題については何も公に言及されていない。
アルメニアは、このことを自国民の世論、全世界へ伝えたが、一大勢力となっているアルメニア・ディスポラ(在外アルメニア人)へもまったく同じ形で説明を行った。
つまり、「この合意文書では、ナゴルノ・カラバフ問題には何も言及しない。結局、カラバフ問題はトルコとアルメニアの諸関係を改善させるための前提条件ではない・・・」

だが、本当にそうなのか?

アンカラでは、政府関係者が以下のように語っている。
トルコの見解では、カラバフ問題は文書においては何も言及されてはいないが、この合意を実行するためには不可欠な「前提条件」である・・・。
つまり、両国により調印がなされたからといって、誰も「アルメニアとトルコの国境が即座に開放される」あるいは、「両国は即座に大使を任命する」ということを期待してはいけない。
なぜなら、トルコは、これらの一歩を「即座に」歩みだしたいとは思っていないからだ。
調印がなされたとしても、合意が効力を発し、実行されるためには、「承認プロセス」が必要である。
そして、アンカラでは、トルコ大国民議会(TBMM)によりこのプロセスにお墨付きが与えられる。
一般論として、公正発展党政府はトルコ大国民議会における多数派であり、理論的には合意文書を簡単に通すことが可能である。なぜなら、合意文書の承認のための多数決を取るには十分であるからだ。

しかし、政府の作戦は他にある。

■カラバフ問題の解決が期待される

調印のすぐ後に閣議が開かれ、合意文書は承認のためトルコ大国民議会へ送られることになる。これはおおよそ一週間ほどで実現する手続きであると専門家はいう。
しかし、真の計画がトルコ大国民議会で始まることになる。
合意文書が承認のため、大国民議会総会に送られることはない。
カラバフ問題においてアゼルバイジャンを満足させるひとつの解決法が見つかるまでは。合意文書は、カラバフ問題を解決してから総会へ送って承認されることになる。
すなわち、レジェプ・タイイプ・エルドアン首相は、バクーのアゼルバイジャン議会で行った発言に間違いなく拘束されるのである。
つまり、カラバフ問題が未解決であれば、合意文書はトルコ大国民議会へ送られないのである。
トルコの法律では、合意文書は承認のため送られた議会によって、承認されることが必要である。この意味は以下の通りである。
もし、承認を待っている間に、ありうることとして、トルコ大国民議会が選挙を行うことを決定したら、そのときは二つの合意文書は棚上げされることになる。
新しい議会が招集され、新しい政府が成立するまで。新政府はこの二つの合意文書を新たに、新しく選んだ議会に、望むままに提示することになる。

■アンカラが承認を待っている間に、アルメニア側が承認したら?

この期間内にアルメニア側が合意文書を、自身の議会で通過させてもさせなくても、トルコにおけるプロセスには影響を与えないであろう。
アルメニアが自らの議会で合意文書を通過させても、トルコで承認されなければ、その適用はあり得ない。
その反対もありうる。

「両国双方の議会の承認を得たのち、効力が発生する」という原則は、アルメニアでの承認プロセスでこの合意文書が何か問題となった場合、トルコを守る規則となる。すなわち、トルコは、トルコ大国民議会でこの合意文書を通過させても、アルメニア議会で合意文書が通過しなかったら、適用する必要がなくなる。
端的にいえば、カラバフ問題が解決されない限り、誰も国境の開放を期待してはならない・・・」

■ジェノサイド問題はどうなるのか?

合意文書に調印することで、アンカラの首脳陣のなかで揺れ動く「ジェノサイドの剣」は、一定のコントロール下に置かれることになる。
なぜなら、トルコ政府はトルコ大国民議会の承認を得なくとも、この調印を外交の場でひとつの「手段」として利用することができる。
今後、アメリカ合衆国、ヨーロッパ諸国のような(ジェノサイド)当該国以外の議会で新たにジェノサイド法の議論が起こった場合、なされるあらゆる試みにおいても、この調印が持ち出されることになる。当該国以外の国々に対し、「私たちはアルメニアと合意に至り、合意文書へ調印した。ジェノサイドのような両国が関係する問題において、当該国以外の国々には干渉してもらいたくない」との主張が可能となる。
同じ主張は、実際トルコを立腹させたくはないものの、自国の世論において増加する、「ジェノサイドを認めてほしい」という圧力が存在する外国首脳にとっては好都合となる。
例として、バラク・オバマ米大統領は、この後、少なくともこの1,2年の間に、自身へ、「ジェノサイドを認めろ」との圧力が来た場合、「この問題は、トルコとアルメニアの問題である。彼らもその問題に取り組んでいる。私たちが関与することで事態はより複雑な袋小路に入ってしまう」と言うことができるようになる。

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( 翻訳者:岸田圭司 )
( 記事ID:17629 )