ボスニア・ヘルツェゴビナへのトルコの外交努力は実るか?―明日、アンカラ会議
2010年02月08日付 Hurriyet 紙
昨今、活発な外交政策で注目を呼んでいるトルコは、明日(10日)バルカン諸国に関する重要な会議のホストを務める。しかしトルコの支援と外交努力は、継続する政治的危機に直面しているボスニア・ヘルツェゴビナへ安定をもたらすには至らないかもしれない。
国内外の報道によると、ボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアの外務大臣らが明日(10日)、アンカラでの会議の後、両国の外交関係の活性化と、両国間の大使の交換決定の発表をすることが期待されている。このステップは、バルカン諸国の国交正常化プロセスのために非常に重要だ。とくに、事態がここに至るまで、トルコは5カ月にわたり、非常に重要な外交努力をおこなってきたため、トルコにとってはより注目に値する。
しかし、トルコの努力により、バルカン諸国にとって重要な決定がくだされることが期待されてはいるが、正常化とボスニア・ヘルツェゴビナの安定のためには、その前途に大きな障害が待ち受けている。
この問題で最も重要な役割をになうのはEUだ。ボスニア・ヘルツェゴビナは昨年春以降、深刻な憲法危機に見舞われているからだ。
ボスニア戦争の終結をもたらしたデイトン合意によって作られた政治組織は崩壊の危機に直面している。ボスニア・ヘルツェゴビナは、国内の3つの民族グループを代表する三人の大統領と共通の立法議会、内閣を所有する。構成されたこの複雑な体制は、権力を共有するエスニックグループが、それぞれの権限と行動範囲を広げようとするため、完全にこう着した状況だ。とくに、ボスニアが、機能しないこのシステムから離脱し、EUに参加するという夢をしだいに捨てようとしている、という警告もなされている。
ボスニアで行われているシステムの管理と執行の役割はEUがになっている。加えてEUは、力の均衡の他の当事者であるセルビアやクロアチアなどとも密接な関係をもっている。
■EUが妨げている
結果としてABの関与は、このプロセスの結果をちがったものにすることができる。しかしEUがこれまでとってきた決定は、問題を解決するどころか、とくにボスニアのムスリム・ボシュニャク人にとっての新しい問題を発生させる性格のものだ。
これらのうちで最も重要なのは欧州評議会が数カ月前にした決定である。これによれば、セルビアに(EU域内での)自由通行権が認められた。これにより、必然的に、まだEU加盟交渉国でもないセルビアがEUの一部であることが確認された。
この決定は、一見するとバルカンの問題児セルビアをヨーロッパに統合する試みのようにみえるが、中長期的に考えると、ボスニアのイスラム教徒を孤立される原因となる危険をはらんでいる。
この原因もボスニア・ヘルツェゴビナの政治的構造にある。ボスニア・ヘルツェゴビナには、イスラム教徒のボシュニャク人、カトリック教徒のクロアチア人、正教徒のセルビア人3つの民族グループが存在する。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、現在、デイトン合意の枠組みにより、ひとつは、ボシュニャク人とクロアチア人が暮らすボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、、もう一つはセルビア人が暮らすスルプスカ共和国という形でのふたつの体制、つまり二つの連合統治体制となっている。
■EUはキリスト教組織なのか?
ボスニア・ヘルツェゴビナの内部にあるスルプスカ共和国とここで暮らすセルビア人は、隣国のセルビアと近い関係にある。同じようにボスニアにいるクロアチア人もクロアチアと近い関係にある。EUの加盟交渉国であるクロアチアは、加盟交渉を同時にすすめているトルコとは異なりEU域内の通行自由権を獲得した。
これらすべてを並べてみると、興味深い構図が明らかになる。なぜなら、クロアチアとセルビアは、近頃、ボスニア・ヘルツェゴビナの同系民族の人々に国籍を与えるというサインを送っているからである。
すなわち、この状況で、ボスニアで暮らすクロアチア人はクロアチア経由で、セルビア人は、セルビア経由で、EU圏内での自由移動権を得る。こうして、バルカンのなかで、ある意味でイスラム教徒のボシュニャク人だけが孤立する。
こうした決定は、EUが徐々にキリスト教徒クラブに変わっているという批判をよぶ原因になった。
■EUとボスニアの関係
EUは、1990年代の共産主義の崩壊の後、旧東ブロックの国を吸収する動きを加速させた 。しかし、このプロセスがバルカン諸国と旧ユーゴスラビア諸国を吸収するのは、ボスニア戦争の影響で2000年代はじめまでずれこんだ。
2003年、EUは、アルバニアとボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、マケドニア、当時の国名でセルビア・モンテネグロに加盟交渉への青信号をだした。セルビアは移動自由権を得た直後、12月には、完全加盟にむけて加盟申請を行った。しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナが、自由通行権をえること、あるいは完全加盟への申請を行うには、前途に多くの障害がある。
EUがだしている条件は、ボルニア・ヘルツェゴビナが国際的な監視団を必要とせずに、自立した安定した国になることだ。しかし、ボスニア内のセルビア人はEU加盟を確実に着実に進めている隣国のセルビアをバックにしているため、より強い統治権の要求をとりさげない。このため、短期間でこの条件を満たすことは困難だ。
世界で「ソフト・パワー」の代表となることを目指すEUは、ボスニア問題の一方の当事者に対し、手にした切り札を行使できる。トルコのEU加盟へのプロセスに加え、ボスニアの問題は、EUが世界的なスーパーパワーであること、そして「キリスト教徒クラブ」との批判に返答するために乗り越えなくてはならない重要な試練である。
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( 翻訳者:尾形知恵 )
( 記事ID:18436 )