■ トヨタブランド を救うための豊田氏の戦い
2010年03月05日付アル・アハラーム紙(エジプト)HP特派員面
【東京:アフマド・キンディール】
先月24日、アメリカ国民に対してトヨタ自動車会社の豊田章男社長が謝罪した折りには、日本中の目が彼に注がれた。その背景には、彼の会社が技術的欠陥のために、数百万台の車をリコールした事がある。
あらゆる日本人の目が販売台数世界最大の自動車会社の社長である豊田氏に集中したのは、最近まで品質の高さで世界的に有名だった彼の会社の名と名声を貶めた一連のリコールが原因で、ここのところ続いていたアメリカのメディアによる激しく辛らつな批判のせいだけではない。日本の自動車産業の巨人であるトヨタ社の名声と信頼性が崩壊すれば、日本経済と日本の主要企業に激震をもたらす可能性があるからである。日本の主要企業は、「メイド・イン・ジャパン」のスローガンのもと、高い品質と技術で世界的な名声を勝ち得てきたからだ。
社内のあるレポートが暴露されたことでも、トヨタブランドは最近、さらなる打撃を受けた。それは、修理しなければならない技術的な欠陥があったカムリとレクサスの大規模リコールを見過ごすよう、一部社員がアメリカ当局に圧力をかけたことで、100万ドル以上を節約することに成功したとの内容だった。
創業者の孫にあたり、会社の2%の株式を保有している豊田氏は、この数ヶ月で霧散した会社の名声を救うために決死の戦いをしなければならなかった。その名声は、70年以上の絶えざる働きや、継続的な改善(カイゼン)と、どのように小さな欠点でも改修するという原則を通じて培われ、強化されたものである。
この戦いは、長い逡巡ののち、アメリカの消費者の信頼を取り戻すため、アメリカ議会で証言することに応じたところから始まった。豊田氏はそこで、アメリカの世論を前に、おそらくはここ数年で国外、特にアメリカと中国での生産を急速に拡大した結果、製品の安全と品質に悪影響がもたらされたと認めた。また、車の欠陥の対応に遅れ、顧客の苦情を無視したことも認めた。
この戦いで豊田氏は、どのようなものであれ欠陥が見つかった車は全てリコールすること、アメリカに安全対策センターを設立し、新車の走行テストを義務付けることで、品質と安全性の改善のためにあらゆる必要な措置を講じると約束した。これらの措置にはおよそ20億ドルが必要と見られる。
●成功への機会は限られている
何人ものウォッチャーが、70年前に祖父が築いた帝国の運命を決める上で決定的な影響を持つことになる豊田氏の戦いは、予期せぬ急加速の主な原因を明らかにすることに失敗すれば、信頼回復に成功しないだろうと断言する。急加速は2002年以降の一部の車種で報告されており、米国で30名以上の死者を出している。これらの事故の本当の原因は、ETCSという略称で知られる電子制御スロットルシステムの電磁波障害であって、トヨタの専門家が言うようなガソリンやブレーキペダルの問題ではないのではないか、という強い疑いがもたれている。
この戦いに豊田氏が勝利するチャンスも限定されたものになることだろう。なぜなら技術、テクノロジー面でのノウハウだけを移転して、それらを使いこなす訓練を受け、日本文化も理解できるような優秀な人材を育てることなく、様々な文化をもつ他国での生産を急速に拡大することは、いかなる企業にとっても安全性と製品の質の確保への負荷となる。
第二に、豊田氏が会社の評判を救うための戦いは、勝利の実現のために必要な政治的バックアップが得られそうもない時期に行われている。その理由は、鳩山由紀夫率いる日本の新政権とバラク・オバマ政権との間に、強いあからさまな政治的緊張があるためだ。両者は日本の沖縄に存在する米海兵隊の普天間軍事基地の移設問題をめぐって緊張関係にあり、基地の存在によって生じる沖縄島民の負担軽減のために島外への基地移転を鳩山が約束した一方で、アメリカ側は中国と軍事的に対抗する局面になった場合、台湾を防衛するという戦略的な重要性から、沖縄県内の別の場所に移転する必要性を主張しているのである。
(中略)
豊田氏の戦いの結果は、世界最大の自動車メーカー、彼の祖父が70年前に築いた帝国の未来だけに影響するのではない。日本製品の名声と、それへの人々の信頼、ひいては海外への輸出に大きく依存する日本経済全般にも影響することになるだろう。
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( 翻訳者:勝畑冬実 )
( 記事ID:18636 )