コラム:湾岸情勢
2010年03月11日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 湾岸の今後

2010年03月11日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

湾岸から戻ったところである。ある出版社からアブダビ博覧会へ招待されていた。著者たちが講演したり、本を買おうする人たちにサインをしたりする場である。湾岸の人々、国民と居住者たち(もちろんアラブ人の)の気持ちが二つのことに占められているらしいことに、私は興味を引かれた。ひとつは、この1月のドバイ首長国で、欧州並びにオーストラリアの偽造旅券を用いて入国したモサド要員がマブフーフを暗殺した犯罪のその後の展開。もう一つは、経済制裁あるいは直接の空爆によるイランとの対決とその湾岸諸国への影響である。

第一の件については、ダーヒー・ハルファーン・タミーム中将の役割をめぐって人々の意見は分かれている。タミームは、優れた捜査能力をもって事件に関わったテロリストたちを追跡したのみならず、湾岸地域いやアラブ全体でも先例のないメディア的透明性をそれに伴わせた。湾岸首脳部の中では、ドバイ首長国によるイスラエル・モサドとの果敢な対決を「勇み足」として批判する声が高まっている。この人々は、ドバイの治安や安定に懸念を示す。それはイスラエルと対決するには小さすぎるとして、領土内でイマード・ムグニヤを暗殺されても黙っていたシリアのような大国に学ぶべきであったと主張する。一方、タミーム中将は国民的英雄となった。首長国連邦でではなくアラブ全体でである。彼は、犯罪に関与した者たちが欧州の偽造旅券とアメリカのクレジットカードを用いていたことを明らかにし、ためらいなくモサドに嫌疑を向け、その作戦を承認し実行を支援したネタニヤフ首相が直接責任を負う事を要請した。これによって中将は、欧米の同盟者たちと結んだイスラエルの手による巨大な悪を追い詰めたのである。

最初の人々、湾岸首脳部は、あいまいにごまかすことに慣れた少数派である。あれこれと理由をつけ、治安や政治問題を絨毯の下に隠して、アラブの中心的懸案事項から遠ざかろうとする。湾岸諸国が和平と休戦を志向しているというのも、その理由の一つである。彼らは対決を避ける。一方で、イランの脅威をイスラエルのそれより優先して対処すべきものとしている。イランの核への野心とその近隣諸国への危険性に比重をおくのである。それ以外の人々の方が多数派である。政治的軍事的優先順位はアラブ・イスラームの側に置き、穏健派諸国がアメリカとイスラエルの指針に従っているのを見て、彼らが地域の現状をもたらしたと考える人々だ。アラブ復興の動きは消え、戦争が次々と起きる。戦略的バランスは、イラン、イスラエルなど非アラブ諸国に傾いている現状である。

戦争の可能性はほとんどの会合、外交関係の集まりで主要トピックとなっている。繰り返し話題にのぼるのは、軍事対決が起きるか否かではなく、その時期と参戦国である。湾岸海上は米戦艦で混み合っている。イスラエルの原子力潜水艦がいるという人もいる。米要人、軍人政治家らが次々訪れる。モーリン米軍合同参謀議長とアフガニスタンのマクリスタル司令官が湾岸歴訪を行った後、昨日はゲイツ国防長官がリヤドに到着した。一方バイデン米副大統領はテルアビブを訪れイランに核兵器は持たせないと誓約する。

イランの核問題をめぐっては、湾岸情勢にかんがみ三つのシナリオが予測される。

第一としては、イスラエルが域内のイランの軍事的「手先」、つまり南レバノンのヒズブッラーとガザのハマースに奇襲をかける。そしてその二つの「国」を終わらせ彼らの軍事力を無効とし、救援にかけつけるイラン、シリアを地域戦争に引きずり込むことをもくろむ。戦争の規模は大きくなることが予想される。

二番目は、イスラエルがイランの核施設に限定的な素早い空爆を行う。この場合、イランはこの攻撃を黙殺するかもしれない。そうでなければ、彼らはイスラエルにより攻撃された国として世界の前に出ていき、イスラエルが地域の治安と安定を脅かすと訴えなくてはならない。

三つめとしては、イスラエルと合衆国がイランに全面戦争を仕掛けることが考えられる。まずインフラ破壊のため数週間もしくは数カ月にわたる空爆が行われる。この場合、イランはイスラエルと湾岸の米軍基地に向けロケット弾で反撃するだろう。ダマスカス、レバノン、ガザの同盟者たちも同じ行動にでる。西側の報告は既にダマスカスの「戦時委員会」について述べている。イランならびにシリアの大統領、ヒズブッラー書記長による三者会合である。彼らはあらゆる可能性、シナリオを検討しその対処法を決め、統一戦略に合意したであろう。来る戦争が、「多数の戦争の母」となることを見越して。

湾岸首脳らは、三つのシナリオ全てを欲していない。そして、最近は可能性が後退した第四のシナリオも恐れている。それは、合衆国とイランが湾岸を犠牲にして合意に至るというものである。つまり、湾岸首脳部は、冷たい戦争(経済制裁)であれ熱い戦争(軍事対決)であれ、勃発すれば自分たちが第一の犠牲者となると考えている。この恐怖ゆえに米軍のプレゼンスを強化し、最新ミサイルシステムを備え付ける(昨年サウジは33億ドルの防衛ミサイルシステムを購入した)。

このような懸念は、一見して非現実的であるかのようにみえる。建設ラッシュ、天空高くそびえるタワー、豪奢と贅沢を競い合うさま、ドバイやアブダビを訪れる者の目に入るのはそういうものである。一触即発の危機は別世界の出来事のようだ。しかし輝かしいイメージは偽りである。我々はひとつの統合された湾岸を語ることはできない。深刻化していく見解の相違がある。それは国ごとの違いによるものであったり、嫉妬や競争心から生まれたものであったりする。しかし、皆が一致する大きなポイントがある。アイデンティティや共有している特質ではない。それは、アメリカの庇護に頼ろうという一点である。ワシントンが湾岸地域で建てる計画すべてに身をゆだねるのだ。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:18669 )