欧州人権裁判所、ディンク殺人裁判でトルコ政府を「有罪」に―トルコ、受諾
2010年09月14日付 Radikal 紙
欧州人権裁判所(AİMH)は、射殺され命を失った新聞記者フラント・ディンク氏の家族が起こした訴えにおいて、トルコ政府を「有罪」とした。トルコ外務省は、この決定に対して上訴しないことを明らかにした。
フラント・ディンク氏が生前に起こした訴えと、ディンク氏の死後に妻、子ども、兄弟が起こした訴えを一つにし、トルコ政府を欧州人権条約の「生命」「表現の自由」「効果的な捜査」の権利を保障する条項に違反しているとの理由で有罪判決を下した。抗弁の際にディンク氏をナチ将校らと一緒くたにし、ディンク氏は危険な状況にはなかったとしたトルコ政府は、このスキャンダラスな抗弁の影響を減らすため有罪判決を受諾した。トルコ政府は、ディンク氏の遺族に対して、裁判費用を含め13万3595ユーロの賠償金を支払う。
■ トルコ性への侮辱が理由で有罪となった
フラント・ディンク氏は、8日に渡るドラマの台本の一部で「トルコ人の内から抜けるあの毒入りの血の代わりに入れられるべき清らかな血は、アルメニア人がアルメニアとともに作る貴い血管のなかに存在する」との表現をしていた。過度な民族主義たちの標的となったディンク氏は、作品の全てを読めばこの表現の意味がわかると言ったが、2004年2月13日のシシュリ・共和国検察局が起こした裁判からは逃れられなかった。ディンク氏は、シシュリ第2軽犯罪裁判所で『トルコ性を報道の手段を使って辱め、軽蔑すること』の罪で起訴された裁判で6ヶ月の禁固刑を受けたが、刑が延長されようとも最高裁での(審理)段階で、欧州人権条約の『思想の自由』に関わる第10条に違反したとの理由で欧州人権裁判所に訴えを起こした。最高裁での長期にわたる審理がディンク氏の有罪の承認ととも結審したさい、2007年1月19日にディンク氏はオギュン・サマストという名の青年の射撃によって命を落とした。
■ スキャンダラスな抗弁がなされた
ディンク氏が殺害された後、妻のラケル氏、兄弟のホスロフ氏、子どものデラル氏、アラット氏、セラ氏は、ディンク氏の生存権や効果的な捜査の権利に違反しているとの理由で欧州人権裁判所に対し訴えを起こした。トルコ政府は、欧州人権裁判所に対して行なった弁護のなかで、地方裁判所や最高裁の『審理の対象となった表現はトルコ性を辱め、軽蔑するものだ』との見方に基づく有罪判決であるとし、ディンク氏がトルコ国民を憎しみや憎悪の気持ちを増長し、欧州人権裁判所が下したナチ将校たちに関する裁判での見解が、ディンク氏が作品で示した表現を『思考の自由』に含むものではないことを訴えた。同弁護で、ディンク氏の生存権が保護されていなかったとの主張にも「脅迫されていれば保護を求めたはず」との見解を示した。
■ 最後の後悔は何の役にも立たなかった
スキャンダラスな弁護が報道機関に漏れ、世論の大きな反発を受けて、トルコ政府も難しい状況にたたされた。法務省と外務省が互いに罪をなすりつけ合う一方、二度と同じような事件を起こさないために『表現の自由の侵害』に関する裁判で抗弁しないことを決めた。ディンク氏の裁判では『和解』する考えが出されたが、結審段階であることが理由で結果はそうした解決ははかられなかった。
■ 標的としたが、護らなかった
ディンク氏の作品に関する審理期間と殺人後行なわれた捜査での歪曲を詳細に検討した欧州人権裁判所は、昨日判決を下した。30ページにわたる判決には、次のような確認事項が書かれた。
・フラント・ディンク氏は、作品が原因で起訴された裁判で有罪となると、過度の民族主義者たちによって、トルコ人を侮辱する人物とされた。
・最高裁のディンク氏の判決での『トルコ性』の定義は、国際的な理解のうえ認め、あるいは認められていない、全ての宗教、言語、あるいは民族的少数派を無視したアプローチである。これにより、地方裁判所の判決は最高裁により承認され、フラント・ディンク氏は表現の自由を行使できなかった。
・トルコ政府は、民族主義的戦闘員たちの攻撃の可能性に対し、必要な対策を取らなかった。ディンク氏が危険な状況にいたにも関わらず保護しなかった。
■ トルコ人判事も「有罪」を下した
欧州人権裁判所が満票で下した判決では、トルコ人判事ウシュル・カラカシュ氏のサインもある。この判決によると、トルコは欧州人権裁判所の『生存権』に関わる第2項、『表現の自由』に関わる第10項、『効果的な捜査の方法』に関わる第13項に違反している。裁判所の決定により、トルコ政府は精神面の賠償金としてディンク氏の妻や子どもたちに対して合計10万ユーロ、兄弟のホスロフ・ディンク氏に対して5000ユーロの計10万5000ユーロの賠償金を支払うことを命じられた。トルコ政府はこれに加えて裁判費用として合計2万8595ユーロも支払う。
■ トルコ政府は受諾した
スキャンダラスな抗弁が原因で大きな被害を受けたトルコ政府は、2週間前に下した『思想の自由に関わる裁判で弁護しない』との決定に則って基本的にディンク判決を受諾した。外務省が行なった会見では、欧州人権裁判所は、トルコ政府に対する2007年、2008年に行なわれた5つの訴えをまとめたディンク氏の訴えに関わる決定を明らかにしたとし、「おわかりのように、ディンク訴訟のために行なわれた和解提案は、功を奏しませんでした」と話した。会見では、欧州人権裁判所が違反と下し、欧州人権条約の条項や支払いを命じられた賠償金に注意を向け、「欧州人権裁判所がディンク氏の訴えに対して下した決定に関し、高等裁判所に上訴しないとの決定が下されたこと」を明らかにした。会見ではまた、「ディンク判決をうけて法の適応に関し今後調整が行われること、また将来同じような違反が繰り返されることを防ぐために可能な限り対策をとる」と話した。
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( 翻訳者:小川玲奈 )
( 記事ID:20167 )