真の「アラブ共同体」と安全保障を考える
2010年12月22日付 al-Hayat 紙

■ アラブ共同体の安全保障という神話

【イサーム・アル=ハファージー(イラク人作家)】

「アラブの安全保障は侵害されている」、「太西洋から湾岸にかけて広がるアラブ共同体が直面しているリスクに対応するための、包括的な戦略が不在だったことに由来して、その侵害が起きている」、「どの国も、他のアラブ諸国から切り離されては自国の安全を守ることができない」、「スーダンの分割を招いたこの団結力のなさが、イラクに運び込まれている」。

アラブ指導者たちの舌の上で繰り返されるこの立派な文句を聞いたことのない者はいないだろう。指導者たちの最終的な任務は、彼らが外敵の侵略から国家を守っていると思わせることにある。侵害、侵入、侵略とは文字通り外から来るものだ。たとえ内部のファクターとしてユダヤ人、クルド人、マロン派、シーア派、ベルベル、南スーダンの人々などがいても、彼らは自分たちの権利を追求しない。たとえそのように見せかけていたとしても、この人々は、西洋やイラン、イスラエルの行動計画を実行するための装置なのだ。[そのように指導者たちは言う。]

しかし、指導者たち以外の者がこの文言を繰り返すのはあまり聞かなくなった。アル=ジャズィーラやシリア国営放送の中毒的な視聴者であれば別だが。

この論説の最初にあげたフレーズは、クネセット元議員アズミー・ビシャーラ氏がアル=ジャズィーラで表明した意見の要約である。彼は批評するだけでは不十分で、解決策を提示したいと考えおり、統一アラブ国家を建国するべきだと呼びかけている。これによって、自身が化石化したアラブ主義者ではなく、アメリカ型の共同体を望む新しい時代の思想家であることを強調しているのだ。

一部のアラブ知識人の考え方が指導者たちの考え方と同じようにみえることは、必ずしも悪い現象とは言えない。しかし指導者たちは、彼らを取り囲むアドバイザーの一群を何処から連れてくるのだろう。[アドバイザー、つまり知識人たちが政治指導者たちを取り囲んでいるという状況]は、知識人が常に現状を批判し反乱するものという思い込みを否定する。[そのような政治家お抱え知識人が行う]批判は、私が別の場所で書いたように、単なる一般描写にとどまり、何事も特定せず、真の容疑者から責任を遠ざけることになる。また、四半世紀前、ある知識人が発した「アラブ没落の時代」という言葉を例にとれば、それから数年経たない内に、指導者たちはこの言葉を繰り返すようになった。一般市民と同じく彼らもその没落の犠牲者なのだとほのめかすために。残念ながら現状はその分析を否定したのだが。

アラブ・サミットが新たなアラブ・ナショナリストたちの基準をもってしても包括的といえる戦略採択に成功する、というシナリオを思い描いてみよう。指導者たちは心から成功を望んでいると仮定する。共同戦略があるのだから、共同の問題やリスクがあるはずだ。では、チュニジアとクウェイトが共に直面している問題があるだろうか?シリアとイラクの間には文字通り両国民の生活に影響を与える問題がある。それは川の水の問題だが、これはトルコという「外国」と共有している問題である。またもう一方の「外国」イランとの間にはクルド人問題がある。この戦略を描くにあたって、モロッコとアルジェリアの関係はどうなるだろう?遠くの諸外国が、あれこれの立場を防衛する必要性をこの二国に納得させたという状況下以外で、モロッコとアルジェリアが共に何かをすることができるのだろうか?同じように、マグリブ地方のアラブ諸国のみが共有する問題というのがある。すなわち、西サハラ、ベルベル、対EU関係、不法移民などである。

アラブ共同体の存在について、我々は賛成するか反対するかどちらかであるはずが、ビシャーラ博士のような政治家の断固たる発言は、反対を許さないものがある。しかし、新アラブナショナリズム思想は、その父祖であるアラブナショナリズム思想と同じく、地域間の相違という見方を覆い隠すものではない。また、その思想は、理性をもってくるべき所に情緒や雰囲気というものを持ちこみ、我々の問題解決能力を麻痺させてしまう。アラブと名付けられたこの幻想の空間の中で、多くの指導者たちと同じく我々も、ごく単純な問題提起をすることができないでいる。つまり、90年代のアルジェリア内戦は、東アラブにとって、トルコとクルド労働党の戦争以上のインパクトがあっただろうか?という問題である。PKKとの闘争は、トルコ・シリア戦争勃発を懸念させ、トルコ・イラク関係を危機に陥らせたものだ。イラン・イスラム革命は、エジプト以西の西アラブに東アラブと同等の影響を与えただろうか?

(後略)

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( 翻訳者:梶原夏海 )
( 記事ID:21043 )