コラム:エジプト蜂起、混迷の兆し
2011年02月06日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 貴い革命が乗っ取られつつある

2011年02月06日『クドゥス・アラビー』

【アブドゥルバーリー・アトワーン】

おごり高ぶる独裁警察政権を打倒し中東そして世界での主導的役割を回復すべく、エジプト民衆は立ち上がった。だが、その革命に不安と懸念が兆している。これを空洞化し葬り去り、二次的な限られた役割しか果たさなかった勢力に漁夫の利を得させようと、国内外の試みが活発になってきているからである。

この二日間でムバーラク政権は時間を稼ぎ、布陣を整えることに成功した。国民に謝罪もせず表面化した過ちを認めもしなかったが、その存在を拒否する民衆の勢いを削ぎ、抗議運動の前に失われていた政権中枢のいくらかを回復した。その主要な成果は以下に要約される。

1.大統領が去るまで政権と対話しないとのムスリム同胞団の姿勢を転向させ、スライマーン副大統領との交渉のテーブルに着かせた。ムバーラク大統領がその去就には一切触れず行った改憲についての最新スピーチを踏まえての会合の最終声明には留保を付けてのことだが。

2.反体制政治勢力と抗議デモの指導的人々の間の溝を日々広げている。一方で、これら勢力の代表と称するグループが副大統領との対話に参加した。

3.自然発生的な革命を審判の場へ引き出し、「仲介者たち」に場を空けた。「裁判官たち」の発言が繰り返され、彼らの委員会の数が倍増しその委員があちらこちらで指名されたが、これらは愛国的な歴史とは無縁の人々である。ナセルからムバーラクまで、全世代を通じて政府のポストを転々とし、次なる時代にも狙いを定めている。このような賢き人々による委員会があると言われると、革命を起こした人々は頭がおかしい、あるいは向こう見ずだから、彼らを諭しその代表として交渉してくれる人たちが必要なのだと思わせられる。

カイロ、アレクサンドリア、スエズ他のエジプト各都市で街頭へ出た数百万の人々は、改憲を求めたわけではなく、スライマーンに大統領になってほしいというわけでもない。政権を打倒し抑圧と腐敗の時代を終わらせること、汚職に染まった人々とその用心棒たちを司法の場に引き出すことを要請している。

ムバーラク政権は、拷問を行い各種の自由を差し押さえることにより人権を侵害した。国の財を盗み、四千万の国民を飢えさせ、残りの四千万の尊厳を踏みにじった。その政権との交渉は、その正当性を認め、犠牲者たちの血を無駄にすることになる。

ムバーラク大統領は改憲を実施するまで政権に留まるべきとのウィズナー米特使の発言が天秤を政権側に傾けたことは明らかである。これは、オバマ大統領による即時変革要請が単なる幕間劇であったことを証明した。ホワイトハウスは独裁者を支持しているわけではないと主張して、アメリカのイメージを良く見せることだけが目的だったのだ。

エジプト国軍も、実際には固まっていなかった中立の素振りを示して見せることにより同じようなごまかし方をした。そして、秩序と安定維持との名目で革命勢力に対抗している。車両通行の便宜を図るとの理由で、デモ参加者らがタハリール広場に入るのを阻止し、通常の生活が戻ったと思わせようとしている。

エジプトでの日常生活を乱したのは人々の革命ではない。革命は、真の恒常的な安定を国にもたらそうとしたのだ。混乱を招いたのは国民の要望に応えて退陣しなかった政権である。ムバーラク大統領が、エジプトのため、その安全と安定のためにチュニジア大統領の例にならっていたら、通常の生活は1週間前に戻っていただろう。

ムスリム同胞団が、政権が引くまでとの正当な条件を突如撤回したのは意外である。彼らが革命の主要な要請とは全く異なる理由、改憲などのために現政権の重要人物との交渉に参加したのは残念であった。改憲は大統領が任期を全うすることを意味し、政権の延命に資するのみである。

当初彼らは、改革や改憲を条件としていたわけではなく、現政権とその幹部全員の排除が保証されて初めて軍部とのみ交渉すると言っていたのだが、何故政権の手に落ちたのか。政権が倒れる前に自分たちの要請を引いたのはどういうわけか。

時機を誤った政治的実用主義か。既に正当性を失った政権から合法とのお墨付きを得ようというわけか。それともアメリカの承認を得るためのステップか。または、トルコの公正発展党のモデルにならうつもりか。

我々の知り得ない舞台裏での連絡があったことは確実だが、ムスリム同胞団とスライマーン副大統領との対話にクリントン米国務長官がいち早く歓迎の意を表明したのはどういうわけだろう。合衆国は、キャンプデービッドを撤廃し対イスラエル抵抗を支援するイスラム政権のエジプトを支持するとでもいうのか。

30年の抑圧政策で経験を蓄積したエジプト政権は、反体制派カードをどのように切れば彼らの隊列を崩せるかを知悉している。革命には危険な罠が仕掛けられた。反体制派の中には既に取り込まれてしまったグループもいるようだ。

エジプト国民の半数は一日2ドル以下での生活を強いられている。その日常生活が立ち行かなくなっている現下のエジプトの人々の苦しみは察するに余る。しかし、我々は思い出さなくてはならない。平服に偽装した盗人集団を国中に放ったのは何者かを。それは、反体制諸派グループが現在交渉している政権にほかならない。

ムスリム同胞団は、その声明で述べたように、現政権の真意が明白になるまでスライマーンと対話する必要はない。そして現政権の真意は明らかである。革命を叩き引き裂き、政権を立て直してデモ参加者たちに復讐の牙をむこうというのだ。

我々はまだエジプトの人々の圧政打倒の力を、変革を信じている。「日和見主義者たち」とはきっぱりと手を切るべきだ。彼らはあらゆる時代に跋扈し、自分たちには過ぎた偉業を横からかすめ取ろうとしている。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21390 )