コラム:こう着するエジプト情勢、大統領退陣が最善策
2011年02月07日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ 間近に迫った追放のシナリオ
2011年02月07日『クドゥス・アラビー』
【アブドゥルバーリー・アトワーン】
エジプト革命2週間の要約は以下のとおりである。
1.変革を求める人々は未だその要請を固持しており長期戦の構えである。
2.体勢を立て直した政権が国民を一人ずつ取り込み始めた。彼らを革命家たちの元へ送りその勢力を削ごうとしている。
3.革命に便乗し、権限もなく頼まれもしないのに交渉に参加している日和見主義者の一団が互いに乱闘を始めている。
政権に先んじて国民が縁を切りたがっているムバーラク大統領は未だしっかりと手綱を握り、以前と変わらぬやり方で国家運営を行っている。反体制派との交渉の度に大統領が自信を回復していることは明白である。
情報機関長スライマーン少将は、これまでの20年間と全く同じ役割を演じている。つまり、困難な案件に囲まれたムバーラク大統領の窓口というわけだ。それは飾窓に過ぎないのだが。
革命ではなく反体制の代表たちが交渉を行っているが、それは事実上大統領との交渉であり、しかも上っ面だけのものだ。政治改革、改憲を交渉議題としているので、それらに署名し実施し得るのはただ大統領のみとして彼が政権に留まる必要性を正当化することになる。
改革にかける政権の意欲を証明すべく大統領は、与党内浄化の「めった切り」をしてみせた。自身の息子ガマールを政策委員会から外し、「総長」サフワト・アッシャリーフを遠ざけ、閣僚経験者アル=アーディリー(内相)、アル=マグリビー(住宅相)、ラシード(商業相)らの閣僚経験者ならびに鋼鉄王アフマド・イッズのような実業家の一団を汚職容疑で司法の手にゆだねた。
検事総長は彼らの財産を凍結し渡航を禁じたが、そのような措置は、大統領自身とその息子アラーウやガマールに適用されない限り不十分と言える。英ガーディアンや独シュピーゲル紙によれば、彼らの蓄財は400から700億ドルと見積もられている。
現在想定されるのは相反する二つのシナリオである。ひとつは、可及的速やかに政権を打倒、変革を実現したいとする革命側のもので、それにしたがえば多元主義的民主政権が樹立される。
二番目は、革命家たちと国民が疲弊するまで時間を稼ぐべくあらゆる手管を用いている政権のシナリオである。現状で人々が諦め政権の復活を許せば、その体制の方針は別の顔ぶれで温存されることになる。これは、ブレア英元首相が述べた秩序あるコントロールされた変革にあたる。
エジプト国軍は情勢を注視し、その司令官たちはアメリカを筆頭とする外部勢力の合意を得て密かなアジェンダを実行している。いつまで監視を続けるのか、この緊張状態に終止符を打つべくどのタイミングで介入するのかは定かではない。
政権内部抗争の可能性があったが、大統領本人が高齢で病を得ており、資産スキャンダル暴露に脅かされている。おそらく、外国勢力のアドバイスもあり、唐突な国外退去で幕を引くだろう。側近らもそれにならうことが考えられる。
来る数日で事態は白熱し危険度を高める見通しである。蜂起した大衆は、タハリール広場が戦車に包囲され日に日に陣地を縮めるハイドパークとなることを受け入れない。政権は、日に3億ドルにのぼるともいわれる経済的損失に耐えられまい。次の日曜に証券取引所が再開されても外国資本の大部分は避難するだろう。閉鎖以前に800億エジプトポンドとされていた損失が倍増する。一昨日の銀行再開と同時にエジプトポンドは6か月ぶりの下落を記録した。
反体制派を隊列を崩し対話のテーブルに引き出したことは、政権にとり最大の成果であった。そのことにより政権は、承認や正当性を得てしまった。特にムスリム同胞団の立場が微妙である。対話という罠から早急に脱出し、タハリール広場へあるいは他都市の広場へ戻らなければ、その「実用主義」が同胞団指導層を分裂させることになる。
辞任を拒否し9月末まで政権に居座ろうとするムバーラク大統領の態度は、国を暴力的危機にさらすことになる。蜂起した人々はより強硬になり要請が容れられるまで譲らなくなる。どんな犠牲も辞さなくなるだろう。
エジプト中で急に勢いづいた司法関係者たちの各種「委員会」が革命と政権の間の仲介者を自称しているが、彼らは革命側に委任されたわけでもなく支援を求められたわけでもない。それどころか、崩壊しつつある政権を救済しようとしているのだ。これら委員会は、アメリカによるイラク侵攻直前、ムバーラク大統領がサッダーム・フサインにイラクを救うため辞任するよう求めたという逸話を思い出させる。
サッダームは、辞任を求めたのが外国侵略軍であったためそれを拒否し、大統領の座から抵抗の塹壕へ降りたのだ。そして占領軍の前にあえて殉教者としての死を選んだ。一方、ムバーラク大統領に辞任を求めているのは自国民である、そして留任を欲しているのが米イスラエルならびにエジプトの増長に歩調を合わせて来たアラブ諸国である。
世襲も党もマフィア的実業家たちも手放して、なお蜂起した人々を納得させられないとあっては、大統領には辞任と国外退去しか残されていない。それが自身と家族を救済する唯一の手段である。政権は救済できない。
骨身を削る闘争で、まず音を上げるのは若者中心の革命側ではなく、老いて腐敗した政権だろう。それは生命の法則であり、歴史の教訓でもある。
(一部略)
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21396 )