イスラエル報道:シリアの政権打倒はイスラエルの国益にかなうか?
2011年06月17日付 al-Quds al-Arabi 紙
■アル=アサド体制崩壊はイスラエルの国益にかなうか?
2011年06月17日『クドゥス・アラビー』
【同日付イスラエルTODAYより訳出】
およそ一ヶ月前アメリカ政府内では、「イスラエルはアル=アサド政権の崩壊を見たがっていない」という新たな噂が広まった。イスラエルに批判的な人々は、リビアに対して行っているような形でシリアに圧力をかけないようオバマ政権に仕向けているのはイスラエルである、とさえ主張している。
実際イスラエルは、「これは国内問題である」としてシリア革命に関する意見を表明しないよう、特に注意を払っている。一方で、イスラエルの有識者や元政府関係者たちは、私人として、世界的なメディアの数々のインタビューに応じて語っているが、「イスラエルにとって『既知の悪魔』と行動する方が未来に出会う『未知の悪魔』と行動するよりもましである」との主張を展開することが、彼らの主なやり口である。
イスラエルの政策を別の角度から説明すれば、同国は欧米の政策を模倣している、と言えるだろう。6月10日付けのハアレツ紙の記事は、一般市民の虐殺にもかかわらず欧米がいまだにアル=アサド大統領を好ましく思っている主な理由を以下のように挙げている。シリアはヒズブッラーを統制し、レバノンに対するイランの介入の程度を制限できる国であり、またイラクでの対テロ戦争においてアメリカを支援することができる国であるとみなされている。これらの見方が欧米諸国に対して、「アル=アサド大統領は重要な改革を実施することを承諾するだろうし、彼を退陣させる必要はない」との希望を抱かせる大きな要因となっている。さらに同記事は、「イスラエルが欧米諸国の現政策と異なる政策をとることは許されない」と指摘する。
シリアで起こっている出来事に関して、イスラエルの国益にかなうことは何であろうか?我々はアル=アサド体制を見誤ってはならない。アル=アサド体制は一貫してイスラエルの敵であった。アル=アサド大統領は、イスラエルに脅威をもたらすために核兵器開発を行っていた現場を押さえられているのだ。シリアの武器庫には数百発のスカッドミサイルがあり、その多くは弾頭に化学兵器を搭載している。アル=アサド大統領はイランにとっての戦略的同盟者であり、ヒズブッラーやハマースを支持し匿っている。また、ハマースのロケット弾のほとんどが、シリアで製造されたものである。
アル=アサド大統領の続投を好む者たちは、同大統領がゴラン高原の戦線を開かなかったのはイスラエルの抑止力を理解していたためであると指摘する。彼らは誰がアル=アサド大統領の後継者になるかを恐れている。特に、後継者が過激なイスラーム主義集団の中から現れることになれば、その者たちは現在の抑止力の法則を理解しないだろう、と考えているからである。
これらの主張はさておき、シリアの体制崩壊がいかに中東における戦略的様相を変えるか、ということを考えることが重要である。イランはアラブ世界での中心的な地域同盟国を失うだろう。というのも、ヒズブッラーへの武器供給の殆どはダマスカス空港に着陸するイランの輸送機によってなされており、そこからトラックでレバノンに輸送されている。この武器供給ラインが切断されれば、ヒズブッラーは孤立し大幅に弱体化するだろう。〔2006年の〕第二次レバノン戦争後、大半のシリア人はヒズブッラーのイスラエルに対する姿勢に感嘆した。しかし、アサド政権が崩壊すれば、シリア人の間にイランやヒズブッラーに対する強い怒りが渦巻くことが予想されるために、彼らはアサド大統領が自国民に対して行っている弾圧に参加しているのである。実際のところ、現情勢はイランが行っている全ての悪事を増幅させる可能性がある。短期的には、アサド大統領が追い詰められた際に、逃れるための最後の手段として紛争をエスカレートさせようと試みる危険がある。イスラエルは7つの目をもって、シリア人が北部国境を緊迫化させようと画策していないか監視しなければならない。
イスラエルがシリアの内政問題に介入することに警戒しなければならないということについて意見の相違はないが、流血の事態を無視することもできない。イスラエルがアサド体制の崩壊を見込んでいると表明することは望ましくない。しかし、「シリアの現体制の存続はイスラエルの国益とならない」ということが欧米で周知の事実となっていることは重要である。イスラエルがいつの日かシリア国民との関係を推進することを望むのであれば、イスラエルは彼らに対して、アサド大統領が現体制下で非常に長い期間に亘って権力の座にとどまる理由がないことをはっきりと説明する必要があるだろう。
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( 翻訳者:松尾愛 )
( 記事ID:22936 )