異なる職業、世代から56人の女性が「父親」について書いた。そこには、全然似ていないが、しかし、同時にとても似通ったイメージが現れている。『娘と父』という名の本の中から、心をうつ、あるいは、心を楽しませる思い出の数々・・・。
■父との思い出は騎士物語
セヴィン・オクヤイ(作家)
今思うと、父は美しく人の少ないイスタンブルでの子供時代の秘密のヒーローでした。父と一緒にいた日々を思い出すと、いつも騎士物語が頭に浮かびます。いいえ、ただ父がフェンシングを教えてくれたからではありません。私はパルダイヤン物語も、もちろん三銃士も、ヘンディやパサヴァン野物語も、このために好きだったのです。私と父は、神聖な騎士道の兄弟愛で結ばれていました。父が母と離婚し、私を残して行ってしまったとき、私は追いたかったのですが、母が許してくれませんでした。父には仕事が沢山あり、私の世話はできないと言われました。長年、このために私は母のことを嫌っていたのかもしれません。短期間父を訪ねましたが、夢のように過ぎてしまいました。しかしたぶん夢物語であったのはあの頃の日々すべてがそうであったのであり、今でも区別できません。
■実際に訪れなくても、会わなくても
アンジェリカ・アクバル(音楽家)
その日撮った写真で2人は笑っています、しかし父の眼が涙をためているのを私だけが知っていました。母にも言っていません。あのとき、私は、この賢い男性は私にもっと多くのことを教えてくれる、と思っていました。しかしこの「男性」は誰でしょうか?本当に私は彼の娘なのか、そう考え、感じたことはありましょうか?あるでしょう、何年もそのようでしたし、さらに何年もそう感じ続けるでしょう。私は彼を好きだったのか、それさえも分からなかったのです…。私は彼を知っていたのでしょうか、それも分からなかったのです...。例えば、私を好きか好きじゃないかさえもわからなかった。どんな時も尋ねなかった。はい、私には父がいます…。実際に訪れなくても、会わなくても...来なくても、会わなくても…。」
■子供が10歳で孤児になったら
メフベシュ・エヴィン(新聞記者)
気付いたのですが、私は何年も「父親」という言葉を口にしていませんでした。なぜなら、「父親」と言おうとしたら、初めの音節で声がつまりしゃくりあげながら泣き始めてしまうと思うからです。父親がいる人に対してひそかに怒りを覚え、ねたみました。時とともに苦しみと妬みは弱まり、受け入れました。悲しみを抑えられたでしょうか?いいえ。これを一度として成功させたことはありません。子供が10歳で孤児になると、不幸にも父親に関係する記憶は限られたものでばらばらになります。私にとっても残念ながらこのようです。特に、年上の子供は年下の子が悲しまないように父親について知っていたことを話題に出すことを避けることで、その記憶はより薄れてしまうのです。
■教えてくれた最後の小説:父と子
オズゲ・アタイ・ジャンベク(精神科医)
長い間、ツルゲーネフの『父と子』という名の小説を、父が私に教えてくれた最後の小説であったと思い出します。父が、私に読ませるために与えたことを、読んだ時に何を理解し何を考えたのか尋ねることを、その後に「読み終わったら話そう」と言っていたことを思い出しました。病気の間、私たちは何カ月も離れていました。彼が私に書き、そして私も彼に書いた手紙でこの話をしていないことを、彼を見舞った時にも本について全く話さなかったことを、彼の考えを聞いていないことを、本の要点を頭の中で纏められていなかったのを、思い出しました。その後何年か、このことについてときどき考え、彼が何を言うだろうかとても気になっています。
■あなたを見つけたと思った
ナズル・エライ(作家)
お父さん、葬儀にひっそりと一人の女性がきました。彼女は泣いていました。みな非常に驚きましたが、それを表にはあらわしませんでした。彼女は「新聞で読みました」と言い、涙をぬぐっていました。私は彼女の隣に行きました、少し年齢のいった綺麗なブロンドの人でした。長年イェニ・モスク支店であなたの秘書をやっていたそうです。私に自己紹介してくれました。「銀行で、彼ほどの局長はいませんでした」と私の耳におっしゃいました。お父さん、長年側で働いていたその女性は、まるでその日、モスクの庭で誰よりも悲しんでおられたようでした。お父さん、あなたが私のすぐそばにいるのか、かなり遠くにいるのか分かりません。たぶん一方で私は毎日あなたに歩み寄り、一方であなたは日ごとに過去の一部になっています。分かりませんが、ええ、全く分からないのです。いつかどこかで、私はあなたの子供なのであなたを見つけます。あなたの隣にいる母も。お父さん、私はこんな風に感じているんです。それでは、少しの間、さようなら。
(後略)
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( 翻訳者:倉田杏実 )
( 記事ID:22965 )