イラン伝統音楽の専門家が懸念「人形劇の曲を使って哀悼歌を歌う者までいる」
2012年11月28日付 Mardomsalari 紙

 イラン伝統歌謡のラディーフ〔※イランの伝統的な音楽の旋律の一種〕の専門家であるハータム・アスギャリー=ファラーハーニー氏は、

国の音楽関係者たちの目の前で、〔第3代イマーム・ホセイン一族の死を悼む〕アーシューラーの哀悼歌を歌う際に、イランの国民的な音楽や詩を用いる代わりに、《おばあさんのおうち》というテレビ人形劇の音楽を用いる者がいるとは、一体どういうことか。イランには数千年にわたる豊かな哀悼音楽が存在しているというのに、である。我らがイランの音楽は、破滅に向かっており、それに対して誰も説明責任を取ろうとしていない。

と述べた。

 イランの伝統音楽の専門家である同氏は、ニュースサイト「ファルヤードギャル」のインタビューの中でこのように述べ、さらに次のように付け加えた。

〔‥‥〕芸術は精神や心の糧である。私たちは自らの肉体を養う糧には趣味よく振る舞おうとする〔=美食を追求しようとする〕というのに、なぜ精神の糧に対しては無関心なのか?それもマッダーヒー〔※預言者一族の事績・悲劇などを歌い上げること〕と呼ばれ、イラン人の太古の歴史にそのルーツがあるような、極めて重要な心の糧〔=芸術〕に対して無関心を決め込むようなことが、どうしてあり得るのだろうか。

 同氏はさらに、次のように付け加えた。

しばらく前のこと、私は招待されてマッダーヒーのレベル向上についてのある会合に参加し、その場で「多くのマッダーヒーは有害だ。質の低い歌を歌っている!」と指摘したことがある。ところがその会合に集まっていた一部のマッダーフ〔※マッダーヒーを歌う人〕や関係者たちは、問題の深刻さに注意を払うどころか、私の発言に不快感すら示したのである。

 この専門家は、イランで一般に広まっている一部のマッダーヒーを有害であるとして、次のように述べた。「たまたま非常に名の売れるようになった、とあるマッダーフが《おばあさんのおうち》というテレビ番組の人形劇の曲をマッダーヒー用に変えて、『アッバースは水を汲みに、ゼイナブは待ち…』〔※〕などと歌っているの聞いたことがある」。

※訳注:アッバースは第3代イマーム・ホセインの異母兄弟で、「カルバラーの悲劇」で敵軍の包囲を抜けて水を汲みに行ったところを惨殺されてしまう、悲劇のヒーローの一人で、イランでは高い人気を誇る。また、ゼイナブはホセインの妹で、カルバラーでのホセインら一族郎党の虐殺の悲劇を後世に伝えたとされる人物。

 同氏はその上で、「これは清浄なるイマームたちに対する侮辱であるだけでなく、全てを冷笑の対象にしてしまう危険性すら有している。我々の国民的で宗教的な音楽やマッダーヒーは徐々に忘れ去られ、我々の音楽とはかけ離れたものに取って代わられる可能性がある」と懸念を表明した。

 イラン伝統音楽の専門家である同氏はさらに、「あるマッダーフなどは、ロサンゼルスの歌手〔※〕の音楽を基にして、〔マッダーヒーを〕歌い〔‥‥〕、『この言葉はイマーム・ホセインのためにゼイナブ様が仰ったお言葉である』などと主張している。これらの詩や音楽のどこが、我々の国民的音楽の一部だというのか」と付け加えた。

※訳注:ロサンゼルスは79年の革命後にアメリカに移り住んだイラン人ならびにその子孫が多く住む街で、その一角は「テヘランゼルス」とも呼ばれる。この街に住む在米イラン人から発信される音楽は、イランでも一部で高い人気を誇っている。

 同氏は続けて、「我々の音楽には〔‥‥〕数千年にわたる歴史があり、我々の宗教音楽もこうして支えられてきたのである。それは〔しっかりとした〕音楽的・詩的構造とともに、聞き手の元に伝えられるものであり、〔現代の〕マッダーフたちもまた、こうした豊饒なる宗教音楽の基礎の上で活動すべきである」と訴えた。

 アスギャリー氏はその上で期待をこめて、「〔伝統音楽の〕関係者たちはできる限り速やかに、手遅れになる前に、口先だけではなく、行動を起こすべきだ。宗教的・国民的な対策によって、純イラン的な哀悼音楽や哀悼歌(ノウヘ/マルスィーイェ)が〔イランの伝統とは〕無関係なこのような音楽に取って代わるようにするべきだ」と述べた。

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( 翻訳者:8410068 )
( 記事ID:28463 )