北イラク、アルビルは「東のパリ」―ないものはない!
2013年03月25日付 Milliyet 紙


北イラクのクルディスタン地域(=北イラク・クルド自治政府)の首都アルビルへ近年、現金と投資が流れ込み、社会生活は少しずつ活気づいている。豪華なイタリアレストランからアメリカのコーヒーチェーンまで、ドイツ流ビアハウスから豪華なオスマン式レストランにいたるまであなたが探しているものは何でもある。

私はアルビルの数キロ郊外にあるマジディ・モールにいます。この豪華なショッピングセンターの3階にある広大なワッコ社の店舗を通り過ぎて、階段で上階に出るとイタリアレストランの前に出ます。その店の名はベネチアです。テラスが心地よい場所と感じ、お互いに目を合わさず携帯電話を触っており、この点からもかなり都市的であると思う若いカップル、アメリカ人のグループ、アラブ人の家族、そして、おそらく昼食 をとりに来たグループには、女性と男性のホワイトカラーのクルド人とアラブ人がいます。

「4種類のキノコのピザを頼むべきか?ラザニヤにすべきか?」との重要な問題に悩みながら、一方でバングラディッシュ人の給仕へインターネットのパスワードを尋ねている時、電話が鳴った。電話してきた友人は、「どこにいるの、電話が変な音してるよ?」と聞いた。「アルビルにいるよ」と答え、「今注文するところなんだ」、「どういうこと?そこにレストランがあるの?」。

■私たちはほとんど何も知らない

なぜ?人々は不思議に思っています。「何の用があるのか。アルビルで?」その理由は以下の通りです。

トルコに隣接するイラク・クルディスタン地域政府が統治するイラク・クルディスタンの首都アルビルでは、50万人以上が生活している。(アルビルは、)徐々に開発がすすみ、成長しているが、私たちはこの都市のことをほとんど何も知りません。

[この問いは]その昔、私たちに「あなた方はラクダに乗っているでしょう」と言う横柄な西洋人にどれほど苛立ったか思い出させてくれます。同じことをしたくありません。私はアルビルへ行きました。これまで、政治的な問題を扱う書き手がこの地域へ行き、政治を論じ、(和平)プロセスについて書きました。私も赴いて、街角で何が起きているのか、アルビルの人びとが何を食べ、何を飲み、どこへ行き、何をしているのか、それを見てみます。

■ラクダには乗っていない!

皆さん、アルビルではラクダには乗りません。未舗装の道路を急いで走る古いボロボロのジープの背後から乗り出してくる、武器を持つペシュメルガ (クルド人の民兵)などいません。この種のイメージは、おそらくかつてのことです。ここには、ショッピングセンター、カフェ、レストラン、豪華な集合住宅、5つ星ホテル、数十億ドルが商業複合施設と住宅などへの投資がなされています。

看板は徹頭徹尾トルコです。飲まれているビール、ラク、着ているズボン、シャツ、住んでいる住宅、カーテン、家具、カフェ、ケバブ、見ているテレビ・チャンネルまで全て…。

イスティクバル(İstikbal)、タチ(Taç)、オズバイ・モビルヤ(Özbay Mobilya)、メリノス( Merinos)、イクバル・バカラヴァ(İkbal Baklava)、キュタヒヤ・ポルセレン(Kütayha Porselen)、ベステル( Vestel)、ベコ( Beko)、カレ・セラミック( Kale Seramik)などなど、切りがありません。ショルシュ通りはアルビルの大きな通りの一つです。[トルコの]シーリンエブから、例えば、チャーラヤンからここへ一瞬にして移ってきても、違いに気付かないでしょう。ショルシュはクルド語で「反乱」を意味します。クルド人は反乱を起こし、イラクの中に自らのクルディスタンを成立させたのかもしれません。しかし、この通りの名称は、トルコ通りとならなければならない、と思います。なぜなら、すべてがトルコだから。

最も人気のある人物であるシェネル・シェンからケマル・スナルまで(トルコ映画はここでクルド語の吹き替えで上映されている)、ポラト・アレムダルから、メマティからイブラヒム・タトルセス、ハック・ブルト、ムスルム・ババに至るまで、エフェスビールからイエニ・ラクまで、トルコのポピュラーな文化はこの地域で存在感が際立っている。トルコのニュース放送局もよく視聴されている。特に、(和平)プロセスに関連するニュースと議論は視られている。

クルド人は、ここを短くクルディスタンと呼んでいる(もちろん、毎回クルディスタン地域と呼びません)。そして、クルディスタンは、文化的観点、多くの点で、トルコの一部になったように佇んでいる、と言えるかもしれません。

<略>

■トルコ語が通じる

アルビルでは、多くの人とトルコ語で意思疎通ができます。ただし全員がトルコ語を知っているわけではありません。これはちょうとトルコでビジネスでは英語を使うのと同じような感じです。平均的トルコ人が英語を知っているのと同じくらい、平均的クルド人も同じくらいトルコ語を解します。

通貨の単位はディナールです。しかし、ここでは米ドルを持っているなら問題ないでしょう。10米ドル(約940円)は1万1500ディナールです。例え ば、平均的な酒場を代表し、珍しく酒を出すハウレル・レストランに行き(ハウレルはアルビルのクルド語名称)、小さめのラク(ここではイエニ・ラクとウゾが好まれる。私はウゾを選んだ)とカブ二つ、いくつかの前菜(ジャジュク《キュウリのヨーグルト和え》、トマトペースト、ホムス、サラダなどで、他のものはない)と、それぞれケバブを食べて、4万ディナール(約3300円)以下である。ハウレル・レストランへ行くなら気に留めておきたいのは、魚もあるが、おいしくはない。そして、男性同士で行くなら、男大所帯のような一角で食事をとることを余儀なくされます。もちろん、どこでもタバコを吸っており、煙もうもうです。

<略>

■ゴバディ監督のチームが映画を撮っている

アルビルではいつでも興味深い人たちと知り合うことができます。私はある映画撮影チームと知り合いました。去る1月にマルティン・スジョルセセ、 ポール・ハギス、リアム・ネエーソン、ジェームス・フランコ、ミラ・クニスのような著名人を含めたハリウッドの俳優・女優が支持したキャンペーンによって、刑務所から釈放されたベフロウズ・ゴバディ(クルド人映画監督バフマン・ゴバディの弟)ら一行が私のようにアダ・カフェで時間を過ごしました。ドイツとトルコ在住のクルド人俳優・女優がアルビルへ2時間のフライトで来て、セットで映画を撮っています。二か月ここに滞在し、時折、街に繰り出すと言っています。 その一人であるイスマイル・ヤブズクルトは[ここでの]映画に希望を寄せています。彼は、ドイツで俳優業を営み、そして、所属事務所から自身にオファーされる中東の典型的な殺人者、泥棒、あるいはテロリストの役にうんざりしたといいます。この映画で自身のキャリアを積もうとしています。来年の映画フェスティバルを熱狂させる映画が撮影されているかもしれません、今現在、アルビルの田舎で。お忘れなく。

(本記事はAsahi 中東マガジンでも紹介されています。)

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( 翻訳者:岸田圭司 )
( 記事ID:29557 )