エルドアン首相の新選挙制度に関する三つの提案の一つである、最低得票率が5%に定められた「縮小選挙区制度(daratılmış bölge sistemi)」の適用によって、平和民主党(BDP)は議席数を伸ばし、民族主義者行動党(MHP)は大きなダメージを受ける。
バフチェシェヒル大学経済・社会研究センターの所長であり、ラディカル紙で執筆しているセイフェッティン・ギュルセル氏は、今年の初めに「現行制度(MS)」と「最低得票率0%縮小選挙区混在制度(SBDBKS)」を比較する選挙シミュレーションを行なっていた。
ギュルセル氏は、このシミュレーションで、「最低得票率0%」に設定しても、最低得票率5%の場合と比べて結果はそれほど影響されないことを明らかにした。
ギュルセル氏は、「私の予測では、平和民主党(BDP)の得票率は6%である。したがって首相が選挙制度の代替案の中に挙げた『縮小選挙区・最低得票率5%制度』にふさわしい方法を追求した」と語った。ギュルセル氏はこの分析で、各選挙区から選出される議員の数を(最大で)6人として計算したという。ギュルセル氏の分析によると、最低得票率5%の縮小選挙区制度が適用された場合、結果は以下のようになる。
(*訳注:以下「小選挙区(Dar Bölge)とは何か?」までは、セイフェッティン・ギュルセル氏の論文 “TÜRKİYE İÇİN YENİ SEÇİM SİSTEMİ ÖNERİSİ Temsil, Meşruiyet ve Koalisyon sorunları ışığında alternatif seçim sistemlerinin analizi” からの引用と見られる。)
・「代表における公正」をめぐる問題の鍵である平和民主党(BDP)は、「低最低得票率現行制度(DBMS)」が適用された場合、議会における「代表の公正」の原則にふさわしい、もしくはやや多い議席を獲得する。
■選挙制度のための3つの選択肢
・現行選挙制度のままで最低得票率を5%に下げることは、「代表の公正」性をかならずしも保証しない。得票率が5~6%と推測される平和民主党(BDP)は、投票者およそ8人につき1人からの票を失った場合、最低得票率である5%を僅差で下回ってしまう。これに対し、東および東南アナトリアの多くの選挙区で同党が1番もしくは2番目に多く得票する状況は変化しないであろう。にもかかわらず(阻止条項のために)同党から国会議員が選出されることはなく、選挙で勝利した議員たちについても、多くが公正発展党(AKP)へ、でなければ他党へ所属するだろう。最低得票率を5%に下げる要求は、「代表の公正」の観点からすると機能せず、無意味である。このような問題は、阻止条項のない「最低得票率0%縮小選挙区混在制度(SBDBKS)」では当然存在しない。平和民主党(BDP)の得票率が4,9%に低下した場合、最低得票率を5%と定めた「低最低得票率現行制度(DBMS)」のもとで同党からは一人も国会議員は出ないが、「最低得票率0%縮小選挙区混在制度(SBDBKS)」のもとではそのうち31人が県選出の、33人の国会議員が誕生する。
・公正発展党(AKP)はドント方式が有利に働き第一党になった。そのためその議席占有率は得票率を上回っている。得票率45%の場合、表1(訳注:本記事にはない)における代替案の順番でいくと、AKPの議席占有率は、61,8%(現行制度MS)、54,9%(低最低得票率現行制度DBMS)、59,3%(最低得票率0%縮小選挙区混在制度SBDBKS)である。得票率35%の場合、51,6%(MS)、43,3%(DBMS)、45,0%(SBDBKS)である。
・AKPは得票率35%で、現行制度のもとではかろうじて(284議席の)絶対多数を獲得できるが、代替案として挙げられている他の2つの制度では獲得できない。これについては、「単独与党」の章で詳しく分析する。
現行制度のもと3党が最低得票率を満たしているにもかかわらず(2002年11月の総選挙とは異なり民族主義者行動党も最低得票率を満たしているとされている)、第一党が35%という少数派からの低い得票率によって単独政権を樹立し正当性をめぐる問題を生み出しうること、一方で代替案として上がっている2つの選挙制度の下ではこうした状況はありえないことを明らかにしたい。
・共和人民党(CHP)は、3つの制度すべてにおいて、また2つの選挙シナリオにおいて、代表率(議席占有率)と得票率の差が非常に小さい。票の分散のシミュレーションにおいて第3党と見なされる民族主義者行動党(MHP)の議席占有率は、得票率をやや下回っている。
■小選挙区(Dar Bölge)とは何か?
小選挙区制では、それぞれの選挙区から1名の国会議員が選出される。議席数と同数の選挙区が設置される。政治学上では、議員が所属する党の中央ではなく有権者と強く結びつくことが利点とされている。有権者にとってはこのような利点があるが、議会では不安定な多数派が現れやすい。小選挙区においては、人種、宗教的ルーツなどの要素が強調されうる。
■縮小選挙区(Daratılmış Bölge)とは何か?
国会議員が多く選出される県では、県全体を一つの選挙区とするのではなく、複数の選挙区に分割・縮小されている。縮小選挙区制度は、1991年の選挙で導入された。アンカラは4つの選挙区に分割され、1つの選挙区から5人、他の3つの選挙区から6人が選出された。イスタンブルは9つの選挙区に分割され、1選挙区から最少で3人、最大で6人の議員が選出された。新しい制度では、「人口20万人につき議員1人」というように、人口もしくは議員の数に応じて選挙区を設定すると考えられる。
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( 翻訳者:篁日向子 )
( 記事ID:31574 )