■「アラブの春」諸国はどのように損失を補うか
【アドナーン・アフマド・ユースフ(バラカ銀行グループCEO)】
HSBC銀行の経済レポートは、いまだその一部が継続している「アラブの春」諸国の民衆蜂起により、これらの国は2014年末までに8,000億ドル以上の国内総生産(GDP)を失うだろうと伝えた。そして、予見可能な将来において、大半の「アラブの春」諸国では、本来の経済成長率への安定回帰は難しく、これらの国の経済は大きな損失を被ることになると指摘した。
同報告書は、最も影響を受けた7カ国、その中でも特にエジプト、チュニジア、リビア、シリア、ヨルダンのGDPは2014年末に、2011年に民衆蜂起が起こらなかった場合に記録したであろう値よりも35%少なくなると伝えた。そして、これは一般財政の深刻な悪化と、政府と治安と法の支配の有効性の低下によるもので、非失業率の蜂起前のレベルへの回帰の問題について、政策立案者の努力に対して激しいプレッシャーを引き起こしていると伝えた。
同報告書は、中東・北アフリカのGDPの成長は、2012年の4.5%と2011年の4.9%と比較して2013年には4%の鈍化となり、今年は4.2%とわずかに上昇すると予測した。
この報告書の発表と同時期に、朱民国際通貨基金(IMF)副専務理事は声明で「アラブの春」諸国の財政状況の深刻さと、初動の応急措置に留まらない完全な改革の必要性を強調した。その改革は、最近の情勢と国内外の変化に対応するのに不可欠な再編を含んでおり、再編により多くの雇用機会の提供と労働市場の活性化、および公共・民間部門の成長促進が生み出されることが求められる。
また「アラブの春」諸国政府による努力が国内の民間部門や銀行と協力する必要性を改めて確認する必要がある。これは、緊急的な解決と中長期的な解決(の両方)を含む効果的な戦略を構築するためであり、これらの経済が持っている、安定と成長に回帰するために必要な、高い能力と大きな資源への信頼回復を目的とするべきである。そのような変化は、多くの肯定的な点を含んでいる。特に、経済を苦しめる障害と病理を取り除くことを目的とした、国家経済の基盤の改善・強化と、(財政の)再均衡、そしてより公正な形での所得の再分配、といったものである。
「アラブの春」諸国が政治的変化の中で失ったものを補填し、以前より高い経済成長率を実現することは、可能なことであるものの、容易ではなく多くの挑戦を抱えている。アラブの政治的変化が経済に投げかけた波紋は、チュニジアでも、エジプトでも、リビア、イエメン、シリアでも、その国の人々にネガティブな影響を及ぼした。多くの経済活動は停止し、観光部門の活動の落ち込みと海外からの投資の後退という状況下で、重要な収入が失われた。
(後略)
本記事は
Asahi 中東マガジンでも紹介されています。
この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る
( 翻訳者:田村颯 )
( 記事ID:32499 )