トルコの朝食、すごい

トルコの朝食のような朝食は世界のどこにもない。トルコの朝食は１つの伝説のようだ。さらに素晴らしいのは、地方ごとの味によりさらに豊富になり、あたかも果てしのない多様性を備えていることである。

「村の朝食だって？この食卓を村の朝食と呼ぶ人々は１日として村で暮らしたことのない人だ。」幾年月をホテルとレストラン界に捧げた食事カウンセラーである私の友人、オスマン・セリム氏は、リゾート地の５つ星の中庭で目の前に運ばれてきた銅皿を見てそう言い、こう付け加えた。「村人がどこからこれほどの食材を調達するというのか。大抵はタルハナスープ一杯をスプーンでかきこんで、畑に出て行くだけだ。可哀そうに」

銅皿にないものがあったろうか。深皿に注がれた蜂蜜、クリーム、ジャム…。チーズ皿に盛られたヴァン県産のオトゥル・ペイニリ(香草入りチーズ)からエルズィンジャン県産のトゥルム(伝統的なヤギの袋の中で発酵させて作られるチーズ)、ミハリチ・ペイニリ(羊の乳のチーズ)、カルス県産のグリュイエールチーズが半ダース、黒オリーブ、グリーンオリーブ、紫オリーブ、それにボウルに入ったオリーブ油、皿一杯のバター…　冷えたトマトにキュウリ、ピーマン、パセリ…　焼いたエクメキ、アチマ、ポアチャ、出来たてのスィミットなどのパン類を若い女性がテーブルに並べると、別のウェイターが尋ねた。「卵はどのように致しましょう。パストラミ入り、もしくはスジュク（ソーセージ）入りがよろしいですか。メネメン（トマトベースの野菜入スクランブルエッグ）もご用意できます」

■フランスの朝食はトルコの朝食にはまったく及ばない

それからしばらく、銅鍋に入れられたスジュク入りの目玉焼きの黄身を焼いたエクメキ(パン)で割って、スジュクの上に拡がった黄金色が私の目を喜ばせる時、私は考えずにはいられなかった。これほど豊かな朝食が一体どこにあっただろうか。
そう、どこにもなかった…　有名なフランスの朝食はクロワッサンにバターとジャム、それにカフェオレだ。英国人はトーストの上にスクランブルエッグ、それに焼いたベーコンを少しのせて、ソテーしたマッシュルームとともに食卓に出す。イタリアにはもともと朝食文化はなく、人々はこめかみに走る稲妻のようなエスプレッソを飲み干し、日々の喧騒の中に飛び込んでいった。ドイツ人はソーセージがあれば良かったし、アイルランドやスコットランドのポリッジと呼ばれるオーツ麦のミルク粥は味わうものではなく、単純に胃袋を満たすだけの活動だった。西欧諸国における朝食のうち、最も心を躍らせる料理は多分、ベルギーの「ゴーフレット」とも呼ばれるワッフルとアメリカのパンケーキだろう。ヘーゼルナッツチョコレートクリームを塗ったワッフルや上からメープルシロップをかけたパンケーキはわれわれの口によく合う料理であった。

■トルコはハムル料理さえも驚くほどすばらしい

他の多くの国では、チーズは毎晩ワインとともに供される食品であるが、先ほど触れたようにトルコでは朝食に様々な種類のチーズを食べ、さらにはハムル料理（練粉生地で作るパンや菓子）の豊富さも目を瞠るものがある。家庭よりも職場や通り、市場などで食べられるアチュマ、チャタルやポアチャの他に、女性らがまるでハムルで詩を書くように作ったバズラマ、ギョズレメ、ボレキやチョレキ、さらにはチーズ入り、挽肉やほうれん草入り、ジャガイモ入り、バラをかたどったボレキなど様々なボレキは毎回の朝食をさらに充実させるハムル料理の例だ。バターの他にパンの上に塗るものは、パプリカとトマトのサルチャ(ペースト)、アジュカ(クルミ入り赤トウガラシと赤ピーマンのペースト)、オリーブのペーストだろうか。それともパンを浸すオリーブ油に時にはタイムや粗挽き赤唐辛子、時にはミントだろうか。
トルコの朝食ではもはやチャイの横にフルーツジュースが並び、その上１杯のコーヒーが飲まれるが、その朝食の良さは地域ごとの新しい味とともに豊かになったということだ。私は何年も前に、故トゥールル・シャヴカイ氏とチェシュメでとった朝食が忘れられない。トゥールル氏が「皆、今朝の朝食はピラウ(ピラフ)にしよう！」と言って陽気に笑ったとき、私はアルトゥンユヌスの海岸にあるテラスで朝早くから米のピラウスプーンで掬って食べるのだろうかと不思議に思ったものだ。

■「チンゲン（ジプシー風）ピラウ」の美味しさは格別

しばらくして２人のウェイターがテーブルの上に大きな平たい銅鍋を持ってきた。角切りのトマト、ピーマン、パセリの粗みじん切りを散らす。その上にたっぷりのチョケレキチーズをふりかけ、多めのオリーブ油を入れてさじで混ぜ合わせた。出来上がった色とりどりのドームはそれは美味しそうで、焼き立ての天然酵母の村のパンと一緒に食べ始めると、大きな銅鍋の底は数分でぴかぴかになった。朝食に関する思い出は尽きない。ふつう朝食の食卓には並べられないが、人々が毎朝夜明けの頃に人通りの少ない露店街の行列に並んで食べるレバー、ベイラン（スープの一種）やカトメル（パイの一種）も入れるなら、それらすべてを説明するにはこの数ぺージでは足りない。最善の策として、ここまで書いたものを一言でこうまとめよう。トルコの朝食は伝説級だ。

■トルコの朝食は卵なしでは成り立たない

トルコのように朝食に卵を食べる国は世界にたくさんあるが、われわれほど豊富な卵料理のある国はどこにもない。我々は卵をゆで玉子と玉子焼きだけではなく、パストラミやスジュク入り目玉焼きやメネメンに加え、黒海のカヴルマル・ユムルタ(角切り羊肉の卵とじ)、エーゲ海の卵と野菜の炒め物のような料理も朝食の食卓に上る。

本記事はAsahi 中東マガジンでも紹介されています。

この記事の原文はこちら

　同じジャンルの記事を見る

（翻訳者:星井菜月）
（記事ID:33767 )