コラム:イラン・サウジ関係
2015年01月14日付 al-Quds al-Arabi 紙

■イランのサウジに対する脅しと「石油戦争」の帰結

【社説】

イランのハサン・ロウハーニー大統領は一昨日、前例のない声明の中で、石油価格暴落の背後に居るとみなした諸国を脅迫し、それらの諸国が「自身の決定に後悔することになるだろう」と述べた。そしてサウジアラビアとクウェートを名指しし、2国が「イランが苦しんでいるように、(石油)価格の後退に苦しむことになろう」と強調した。

サウジアラビアとクウェートは、石油価格の暴落におけるいかなる責任をも否認している。石油価格は2014年6月以降、主に米国のシェールオイルなどの増産やヨーロッパ、アジアでの需要減を原因として、60パーセント価値を落としている。

米国石油情報局(EIA、エネルギー情報局)によれば、核プログラムのためイランに課せられた制裁により、2011年には日量250万バレルであった同国の石油輸出が日量約100万バレルまで後退したと伝えている。イランは輸出減による損失を価格の引き上げにより埋め合わせたが、現在は状況が変わってしまった。ロウハーニー大統領は演説の中で、サウジアラビアとクウェートの経済は石油輸出に依存していると指摘した。

ここで、公然と脅しが行われる程度まで緊張が高まっていることの意味を過小評価することはできない。また、1990年の湾岸戦争が石油価格をめぐる対立を受けて勃発したという事実も無視することはできない。

経済情報によれば、サウジ予算の80パーセントは石油収入に依存しており、クウェートに至ってはその依存率は95パーセントである。

石油の売り上げは2013年、サウジアラビアの歳入の90パーセント、クウェートの歳入の92パーセントを占めていた。

これに対し、ロウハーニー大統領によれば、イランの予算は、3分の1のみが石油収入に依拠しており、石油輸出は同国の輸出の60パーセントを占めているにすぎない。

石油輸出国機構(OPEC)は、価格を維持するための減産をしないと決定した。サウジは、石油価格の下落が続いても持ちこたえられると言い、今年度は莫大な支出計画を公表している。

経済面でのサウジの主張によれば、事態は、石油を政治的武器として用いることとは関係なく、市場で二番目の生産者達と競合しながら自身の利益を守るため、減産を拒否するのは正当なことである。サウジの競合相手とは、シェールオイルに依拠する生産者であり、サウジの戦略は、彼らが生産を続けられなくなるまで価格を落とし、彼らを市場から追い出すというもののようである。

しかし、地政学的側面から見過ごせないのは、石油価格の下落によりサウジは、イランならびにロシアに強い圧力を行使できるカードを得られるという点である。そのカードを使えば、域内の様々な問題について、両国に政策見直しを迫ることができる。その筆頭がシリア問題である。実際に石油価格は、最近のルーブル暴落と並んでロシア経済危機の深刻化に一役かった。利率を17パーセントに引き上げるまで、モスクワはその危機に対応できなかったのである。

石油市場で起きている事実は別問題としても、石油価格は、現在ペルシア湾岸、ひいては中東全域で吹き荒れる地域紛争に新たな側面を付け加える。石油市場の現状を経済学的に考慮したとしても、やはり、ペルシャ湾の両岸にまたがるこの新たな緊張をめぐる地政学的思惑の方が、より大きく情勢を左右する鍵となるだろう。イランは、核の力を有する点で重要な勢力だが、石油にかんしては、世界石油市場の最大勢力たるサウジの射程範囲内に入っている。

しかしまた、サウジは限られた選択肢しかもっていないとも言える。石油はその中で最も顕著な武器である。イラン大統領の方が多様なカードを切ることができる。サウジ南部国境でのホースィー派動員、バグダードとリヤドの接近妨害、バッシャール・アサド政権を一層支持するのみならず、デ・ミストゥーラ国連特使が主導する戦闘凍結交渉でシリア政府に強硬姿勢をとらせることさえできる。

対するリヤドは、自身の経済的損失を食い止めるため、核交渉で欧米との合意を急がざるを得ない立場にまでイランを追い込みたい意向である。しかし、その政策には危険が伴う。もしテヘランで強硬派の力が上回り、彼らが核交渉でのイランの立場を形成することになったら、欧米は、危機的状況回避のためサウジに介入せざるをえなくなる。

いずれにしても、石油、核、地域情勢、全てをとりこんだ「包括的パッケージ」に至るための真剣な対話が行われず、新たな対「テロ」戦争が起きている現状では、テヘランは、欧米がイランとの協調をより必要とし、その結果としてイランの域内勢力が強化されることを期待している。つまり、中東は、依然として、地政学、軍事、治安面での闘争という危険な淵へ向かっているのである。

Tweet
シェア


この記事の原文はこちら
原文をMHTファイルで見る

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:前田悠作、アラビア語メディア翻訳班 )
( 記事ID:36563 )