トルコ文学:タンプナルの鍵となる思想の数々-タンプナル研究書新刊『歴史、偶然そして意思』刊行
2019年12月30日付 Hurriyet 紙


セヴァル・シャーヒン氏の『歴史、偶然そして意思/アフメト・ハムディ・タンプナルの小説に関する考察』というタイトルの研究書は、トルコ文学において殆ど比肩する存在のない人物の一人であるアフメト・ハムディ・タンプナルの鍵となる思想から出発して、この作家の小説家としての特徴を分析している。

アフメト・ハムディ・タンプナルは、殆ど比肩するもののない作家である。なぜなら彼は生涯を通して詩人であり、更にはトルコ、そして国外においても最もよく知られる我が国の小説家の一人であるからだ。しかしながら、彼のこの評価は死後に獲得されたものであった。取り分け、これほど広範囲に調査、分析そして学術的な研究が行われている作家は殆ど存在していない。今年もまた、彼の名が載った数多くの書籍が出版された。さて、しかしながらタンプナルに対して与えられたこの価値の、数多くの作家や研究者、そして文学者が彼を理解しようと尽力している理由はなぜなのか?
そしてこの問いかけとともに、セヴァル・シャーヒン氏の書籍は、素晴らしいガイドとして私たちの目の前に登場した。

セヴァル・シャーヒン氏は、ミマール・スィナン芸術大学の講師である。2002年に「アフメト・ハムディ・タンプナルの物語と小説における遊び」というタイトルの博士論文を執筆した。私たちの手元にある本、『歴史、偶然そして意思/アフメト・ハムディ・タンプナルの小説に関する考察』を執筆する際にも、この論文を出発点としている。この本ではタンプナルの小説家としての特性が分析されている。この目的と共に、彼女の目の前に立ち現れた3つの言葉を、「歴史、偶然そして意思」をキーワードとして取り上げている。そして論文における「遊び」の概念を強調する代わりに『手紙、回想録、演劇、カラギョズ-ハジヴァトといったテキストのそれぞれの小説における仕掛けと構造と共に、その間にある関係性を中心に据えた読解を行おうと試みたのです。』と語っている。

『マーフル・ベステ』、『舞台の外の人々』、『平穏』と『時間調整機構』に関しての4つの論文が本には掲載されている。『マーフル・ベステ』は、タンプナルの未完の小説である。作家は、小説の最後において中心人物のベフチェト・ベイに宛てた一通の手紙を書いている、そして本は終わりを迎える。『舞台の外の人々』も『マーフル・ベステ』の登場人物と共に物語は始まる。『平穏』はというとベルナ・モラン氏の表現では、「不穏な小説」である。
『時間調整機構』はアブデュルハミト2世統治期から共和国期にまで至るいくつかの時期のアイロニーである。セヴァル・シャーヒン氏は、これらの本を分析する際に、いくつかの貴重な発見をしたそうだ。例えば、『マーフル・ベステ』においてはタンプナルの『核となる時間への接近』の旅路を取り上げる一方で、ベフチェト・ベイというキャラクターの凡庸さのお陰で、これがタンプナルにとっての一つの夢へと、とどのようにして展開したのかということが強調されている。『平穏』ではというとキャラクターのそれぞれをどのようにして完成させたのかということが解説されている。

シャーヒン氏は、『平穏』を「悲痛な一つのカーニヴァル」として取り上げている。
『舞台の外の人々』はといえば、いかなる対比の上に作り上げられたのかということを私たちは目の当たりにするのである。

正に作家は、タンプナルとその時間の概念について非常に力を注いでいる。しかし、ただ時間の概念へ固執し続けているわけではない。これら全ての分析と共に本は、タンプナルの作家性とその詩学について書かれたものに注目をした検証なのである。

『歴史、偶然そして意思』においてタンプナルを最もよく物語っている文言は以下のものであると私は見ている。
「タンプナルにとってベフチェト・ベイは一つの時計なのだ。それも壊れていて、巻き戻すことのできる時計だ。(中略)タンプナルはこの壊れた時計を『舞台の外の人々』においても、内的世界の中心に据えて修復しようと試みることになる。『平穏』においてはというと、この時計が修復不可能であるということを理解して、ミュムタズをそこから逃れさせることになる。」
ここから出発してタンプナルとその時間の概念との間の関係を見出すこともまた、可能であるのだ。

また著者はタンプナルの本、キャラクター、それらの仕掛けについて作り上げた関連性の数々、タンプナルのその著作物における冒険の包括的なテーマを明るみに出している。
アフメト・ハムディ・タンプナルは、トルコ文学における最も孤独な存在の一人である。彼の生きた時代には正当に評価されず、その作品は難解だと思われ、そして師であるヤフヤ・ケマルの影から逃れることが出来なかった-恐らくはまた、これを彼は望んでいなかった。
タンプナルを理解しようとする私たちの努力、彼に関しての作品が増えること、そして恐らくは彼の孤独さというのは時が経つにつれて消え去ることだろう・・・

■『歴史、偶然そして意思-アフメト・ハムディ・タンプナルの小説に関する考察』
セヴァル・シャーヒン
イレティシィム出版社、2019
142頁、23.50TL

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( 翻訳者:堀谷加佳留 )
( 記事ID:48351 )