ムラトハン・ムンガン、トルコは危機を抱えた国
2020年06月28日付 Cumhuriyet 紙
第9回出版会議の最終演説を行った詩人のムラトハン・ムンガンは、問題を列挙しながら、「私たちが闘っているのは、もちろん、コロナウィルスだけではない。無知の蔓延、絶望の蔓延、無関心の蔓延、不正と暴力の蔓延である」と述べた。しかし、「私たちの目的は、否定的で悲観的な絵を描くことではない」と述べて、何があろうとも、皆が善行を続けることが必要であると強調した。
トルコ出版協会が2年に1度行っているトルコ出版会議の第9回は、6月25日、26日にオンラインで行われた。2日間で6回のセッションに国外から12人、国内から46人の合計58人が参加した。
会議では、コロナウィルスの感染拡大が生みだした非常事態期間における出版業界の将来およびデジタル化による選択肢、著作権についての今後の進展、書籍の流通網で起こり得る変化とともに本に固定料金を設け保護することの重要性とトルコにおける読書文化の位置づけについて議論された。会議は、詩人兼作家のムラトハン・ムンガンの演説で終了した。会議がインターネット上で行われたことによって、より多くの視聴者を獲得できた。
トルコ出版放送協会が、ユーチューブのチャンネル登録をした初日の放送開始から約48時間で1600人以上の人が視聴した。2日目の放送は、24時間で1200人を超えた。第9回トルコ出版会議でオンラインの最終演説を行った詩人兼作家ムラトハン・ムンガンは、経験している危機に対して、私たちが堅持すべきものは、本当の「何事にもめげない」、「内面の強さ」であり、皆が善いことを行うことを譲ることなく、より一層良いことを行うべきであると強調した。
■無知の蔓延
ムンガンは次のように話した。
「多くの場合同様、この会議もコロナウイルスに影響されている。特にこの問題は、今日明日速やかに解決される、これまでのような生活を続けられる、といった印象を抱かせない。新たなウイルスや危機によって、我々を待ち受ける事態を指摘している、と分別ある人々は語っている。もはや,こんなことはなかったかのようには振る舞えない。出版業界もこの最中、危機の状態にある。しかし、私の知る限り、出版業界は常に危機状態である。こんな規模のところはどこにもないのだが、この国ではあらゆるものが危機状態にある。あらゆるものが容易に壊れる仕組みを呈している。大小様々の危機の時期を過ごしている。それ以上に、トルコはそれ自体危機をはらんだ国である。危機に瀕していない何がある。教育、司法、経済は常に危機状態で、民主主義も、残りは皆さんが列挙ください。このほか、闘っているのは感染症、コヴィットのみではなくて、無知の蔓延,絶望の蔓延,無関心の蔓延,不正と暴力の蔓延である。私たちの目的は、否定的で悲観的な絵を描くことではない。そもそもすべてこうした事ごとに対して私たちが堅持すべきは、嘘にまみれた希望を抱くことではなく、本当の内面の力を持つべきことであると言いたい。つまり「何事にもめげない」ということである。堅持すべきものは内面の力であると考えている。私たちの内面を強化させるのは、文学の仕事のひとつである,政治の仕事のひとつでもあるように思う。最後に述べたいことを、冒頭で述べた。私は何事が起ころうとも、[今行っていることを]継続するという立場である。今日まで何がしかの良いことを行っているのならば、同じことをレベルを下げることなく、質を落とすことなく、譲歩することなく、より一層良いことを行うのが、私たちのやり方であるべき、と考えている。人々には芸術が必要である、考えることが必要である、美が必要である…。」
註
ムラトハン・ムンガン
1955年にイスタンブルのユスキュダルで生まれる。幼少期及び青年期の最初を故郷のマルディンで過ごす。アンカラ大学言語・歴史・地理学部演劇科を卒業。同学科で修士課程修了。アンカラの国立劇場で6年、イスタンブル市劇場で3年務める。フリーの詩人、作家。
最初の著書は1980年に出版された『マフムドとイェジダ』である。著者は、多くの詩、短編、戯曲で知られるが、ラジオ劇場、映画の脚本、歌の歌詞も著している。訳書には、ムラトハン・ムンガン編、磯部加代子訳『あるデルスィムの物語 クルド文学短編集』(2017)がある。
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( 翻訳者:新井慧 )
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