ロシア・プーチンの核発言を検証する
2022年03月05日付 Milliyet 紙

ロシアは核というカードを切り、全世界を恐怖におとしいれた。ロシア軍によるザポロジエ原子力発電所への攻撃は核による破滅の懸念を復活させ、またチェルノブイリ原発事故の記憶を呼び覚ました。アンカラ大のニヤズィ・メリチ名誉教授は、攻撃された原子力発電所が抱えるリスクについて指摘し、MEF大のムスタファ・キバルオール教授と防衛アナリストのハーカン・クルチ氏は核戦争の可能性について注目すべき指摘を行った。

全世界がロシアのウクライナ侵攻に苛立ちながら注目している。紛争がどのように終結するかは不明だが、ザポロジエ原子力発電所での戦闘は人類を核の脅威の中に押し戻した。

制裁措置をうけ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が国防省に対し、軍の核抑止部隊に高度な警戒態勢に移るよう命じたことで、核戦争の可能性が再び高まった。

■原発の周囲での戦闘

ザポロジエ原子力発電所での戦闘は、全世界により恐怖とともに注視された。ヨーロッパ最大の発電所とされるこの施設では、爆発によりチェルノブイリ事故を凌駕する災害を招くおそれがあると懸念されている。以前ザポロジェ原子力発電所で調査を行ったことのあるアンカラ大学原子力科学研究所元所長のニヤズィ・メリチ名誉教授は、衝突が発生したのは訓練に使用される建物の近くで、「訓練用建物と原子炉の間は遠く離れていると言って差し支えない。もともとあらゆる可能性を考慮して建築されているということだ。ただ、発電所の廃棄物は屋外に保管されており、廃棄物が置かれた場所で爆発が発生した場合非常に危険だ」と語る。

■「原発への攻撃は自殺行為」

メリチ教授は、欧州最大の原子力発電所として知られるこの施設で事故が起きれば、ロシアも大きな被害を受けると述べる。「こうした戦争下においては発電所の運転を停止することで事故の可能性を防ぐことができる。ロシアが発電所内の原子炉を故意に攻撃するとは思わない。そうなった場合当然全世界が影響を受けるが、ロシアはそれ以上に影響を受けるだろう。これは自殺行為だ」と話す。

メリチ教授によると、世界では450か所の原子力発電所が稼働している。「これらの原発のうち6か所はウクライナにあり、すべてが非常に重要だ。現段階で、いまザポロジエで起きている事案とチェルノブイリを比較するのは正しくない。チェルノブイリは閉鎖された施設だからだ。ザポロジエ原子力発電所は稼働しており、今のところは問題がない。今のところ全世界は安心してよい」。

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一方、防衛アナリストのハーカン・クルチ氏は、「ロシア軍はここで発電所を破壊するようなことはできない。この状況では、ロシアも大きな打撃を受ける。[ロシアの]真の目的は、発電所を押さえ、ウクライナに対して圧力をかけることだ」と話す。

■ウクライナは核兵器保有を目指すのか

ロシアのプーチン大統領は最近、「ウクライナの核兵器開発計画は受け入れられない。ウクライナの核兵器保有はロシアにとって脅威となる。我々は、彼らが望めばそうしたことをすることができるということを知っている。彼らはソビエト連邦の経験を持っているのだ」と述べ、ロシアはこれを防ぐためにウクライナに介入したと明かした。この説明をうけ、ウクライナがそのような[核兵器開発]能力をもつのか疑問が投げかけられた。

クルチ氏は、このロシアの主張は、侵略を正当化する以外に意味はないと述べる。

「現在原子炉を建設中の3か国(トルコを含む)を含めると、原子炉を所有する国は世界に35ある。つまり、現在32か国に平和目的で運転されている原子力発電所がある。このうち9か国は核兵器を保有している。つまり、原子力発電所の所有は核兵器を生産できることを意味しない。ロシアのこの主張は、アメリカがイラク戦争でイラクに侵攻する際に用いた化学兵器疑惑と同様だ。つまり、戦争のための言い訳を作ろうというものだ」。

クルチ氏は1994年に交わされたブダペスト覚書に注目する。クルチ氏は、この合意によりウクライナは核兵器保有をやめるためにすべてロシアに譲渡し、非核国になったと述べる。「ソ連解体後、ウクライナは5000発の核弾頭を保有する世界で3番目の核保有国となった。その後、核弾頭は非核化のためにロシアに引き渡され、ウクライナは非核兵器国の地位に戻った」。

クルチ氏は、ウクライナは国際原子力機関(IAEA)の査察に従っていると明かす。「ウクライナが所有する原子力施設は、IAEAによる査察を受けている。核兵器開発の動きがあったとすれば、査察によって明らかになっていただろう。IAEAは厳格な機関だ。イランを例にとると、イランが、核施設の査察を制限し、または査察でウランの濃縮が明らかになれば、禁輸措置の対象となる。つまり、ウクライナがそのような意図を持っていた場合、ロシアより先に西側世界がそれに反対したはずだ。アメリカ、イギリス、フランスのような国は、もはや誰にも核兵器を持たせたくないのだ。以前はこれらの国々が無関心だったためにパキスタンと北朝鮮は核兵器を作ってしまった。このため、これらの国々はこの問題に非常に厳密に取り組んでいる」。

■「核戦争は破滅を意味する」

クルチ氏は、核兵器は発射後すぐに検出できると述べ、「アメリカは世界中で発射される弾道ミサイルをすぐに検出するシステムをもっている。トルコを含む多くの国に早期警戒レーダーが設置されている。イランから発射されるミサイルは最大でも2分後にマラティヤの早期警戒レーダーに捕らえられる。こうして、アメリカは3〜5分以内に自国への核攻撃を検出することができる。ロシアがアメリカに向けて発射した大陸間弾道ミサイルは、20〜25分で目標に到達する。つまり、ロシアはアメリカに突然ミサイル攻撃を行っても、目標に到達する前にアメリカのミサイルが発射されることになる。したがって、この戦争に勝者は存在しえない」と語る。

核戦争に勝者はいないことを強調するクルチ氏は、歴史上最初の原爆開発計画の責任者である物理学者ロバート・オッペンハイマーの言葉を引用する。「我々はビンの中の2匹のサソリに似ているかもしれない。お互いはお互いを殺しうる力をもつが、これは自らの命を代償に払うことでのみ成功する」。

■「核戦争の可能性は高まっている」

クルチ氏は核戦争の可能性は日々高まっていると話す。「20〜30年後に核戦争が起こる可能性は非常に高いとのではなかろうか。再び始まる核武装競争は事故を引き起こし、また世界を戦争の渦に巻き込む可能性がある。現在、どの国がどれほどの核弾頭を所有しているかについて公的なデータはあるが、その正確性が疑わしいときもある。北朝鮮は200発、イスラエルは300発近くの核弾頭を保有すると考えられており、パキスタンは想定よりも多くの核弾頭を保有すると考えられている。大国についての公的なデータはより正確性が高い。中国が保有する兵器はデータと合致したが、中国は現在、新しい(核)武装計画を開始している。おそらく近い将来、中国はより多くの核弾頭を保有することになるだろう」。

クルチ氏は、ロシアと中国はアメリカとその同盟国が保有する弾道ミサイル迎撃システムに相当するものをもたないと明かす。これは、脅威に対する認識に関連しているという。「ロシアと中国は、北朝鮮やイランなどの国からの弾道ミサイルの脅威を認識したことがない。これを行うことができる国は世界にないのだ。他方、イスラエルは常にヒズブッラーとイランによって脅かされている。アメリカの中東における利益はイスラエルと他の同盟国の防衛だから、弾道ミサイルを作るほかない」。

クルチ氏は、ロシアと中国が核抑止のために核弾頭を利用していると述べた。

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■プーチン大統領の核カードは何を意味するか

MEF大学経済・行政・社会科学学部学部長のムスタファ・キバルオール教授は、まず核の脅威の範囲が決定されるべきだと強調する。キバルオール教授は「[プーチン大統領がちらつかせる核カードが]ロシアがウクライナ領内で特定の標的に対して限られた数の低キロトン級の核兵器を使用することを意味するのか、あるいはウクライナでの紛争がエスカレートしてNATOを巻き込む戦争に発展し、ロシアとアメリカの間で核兵器が相互に使用される可能性を意味するのか。まず最初にこれを明らかにする必要がある」と話す。

キバルオール教授は「[核カードが]後者のシナリオを指す場合、これがおこる可能性は非常に低いといえる。双方が数千もの核兵器を保有する能力を持っているからだ。また、これらの核兵器はとてもよい状況下では攻撃に対する最も優れた防衛能力を有するのだ。したがって、当事者がこのような核戦争には勝者が存在しないことを認識することで、まず攻撃をあきらめるはずである」と述べ、NATOとロシアの間で核戦争が発生する可能性は低いと考えていることを明かした。

[前者の]ロシアがウクライナ領内で実行する限定的な核攻撃のシナリオについては、キバルオール教授は次のように述べている。「ここ数日のプーチン大統領とラブロフ外相の態度を見ると、ロシアがウクライナを屈服させ無条件降伏を確実にするため、一か所あるいは複数の目標に対して核攻撃を行う可能性は、残念ながら無いとは言い切れない。この段階に達することがないうちに、外交を通じて問題の解決策が見つかることを願う」。

■「これはキューバ危機とは異なる」

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とセルゲイ・ラブロフ外相から相次いだ核への言及は、多くの人々に、キューバ危機として知られる1962年の核危機を想起させた。13日間続いたキューバ・ミサイル危機は、人類が核戦争に最も近づいた瞬間の一つとして知られる。

キバルオール教授は、現在の状況をキューバ・ミサイル危機の際に起こったことと比較することは適切ではないと述べる。「キューバ危機では二つの超大国が直接対峙した。一方ウクライナでは、アメリカとロシアの間に軍事衝突の可能性はない」。

キバルオール教授は、キューバ危機以前には軍事問題についてアメリカとソ連の間で包括的かつ綿密な交渉を行った経験がなかったことを強調し、次のように述べている。「現在アメリカとロシアは、ウクライナ侵攻を原因として双方に対して厳しい態度をとっているとしても、冷戦時代から軍縮や軍備管理について長い交渉を重ねてきて、数々の条約に調印し、双方を深く知る機会を得た二国としての姿を示してくれている。このため、両者の間には死活的に重要なコミュニケーションを可能にするチャネルが必ず存在するはずで、また、実際に使用している可能性もある」。また、キバルオール教授は、当事者は核による破滅の可能性を防ぐため、過去から教訓を得ていると付け加えた。

■「ミサイルが目標に到達する時間は距離による」

キバルオール教授は、核兵器が発射されてから目標に到達するまでの時間は、目標との距離によって異なると語る。「冷戦時代、米ソ間で核戦争になった場合、大陸間弾道ミサイルの目標への到達時間は平均20分程度と見積もられていた。ほかの地域で、同様の問題を抱えるインドとパキスタンでは、核戦争になった場合、隣国同士であることから反応時間はせいぜい数分と予測されている」。またキバルオール教授は、反応時間では距離が重要な要素の一つであると述べた。

キバルオール教授は、核弾頭を搭載したミサイルは探知が可能であると明かし、「人工衛星で点火前の準備を見ることができる。また、電子通信や通信傍受による諜報活動を利用することで、こうしたプラットフォームを察知できる。また点火段階で放出される高熱により、ミサイル発射を直ちに検出することができる」と語った。

■「何千発もの核兵器が存在」

現在ロシアは6300発の核兵器を保有している。アメリカは5500発、中国は400発、フランスは300発、英国は225発、インドとパキスタンは160発、イスラエルは100発、北朝鮮は30発をそれぞれ核弾頭を保有するとするキバルオール教授は、一部の国の核兵器については正確な情報がまだないと明かす。

キバルオール教授は、アメリカとロシアについては、お互いが結ぶ条約の規定に従って情報が開示されており、双方が保有する核弾頭の推計の精度は高いと話す。またキバルオール教授は、「中国、フランス、イギリスも「ホワイトブック」と呼ばれる報告書で核弾頭の数を随時公表し、情報を共有している。インド、パキスタン、北朝鮮の核兵器に関する推計は、特定の基準に照らして行われた技術的計算に基づいている。正確な数は不明だが、推計の精度は高いとみられる」と述べた。

一方、イスラエルはこの問題についてよくわからない政策をとっている。キバルオール教授は「イスラエルは核兵器の保有を認めているわけでもなく、核兵器を持っていないといっているわけでもない。このため専門家によってまったく異なる数が挙げられるが、これらの推定によるとイスラエルは100発程度の核弾頭を保有している可能性がある」と話した。

■「核兵器ははるかに破滅力をもつ」

キバルオール教授は、1945年7月16日にアメリカが実施した最初の核実験では16キロトン(ダイナマイト1万6000トンの爆発に相当)のエネルギーが放出されたと算出されたと明かす。「これは 1945年8月6日、9日にアメリカによって広島と長崎の街に投下された原爆の爆発力に相当する。広島原爆の威力を想像するために次の例を示すことができる。都市間で貨物を運ぶトラックは10トントラックと呼ばれるが、この10トントラックを1600台集め、それぞれに1万キロのダイナマイトを積んで同時に爆発させたときと同じなのだ」。

現在でははるかに強力な核兵器が存在すると述べるキバルオール教授は「残念ながら、時間の経過に伴う急速な兵器開発競争により核弾頭の威力は大幅に増加し、単一の核弾頭でも、特に水素爆弾とも呼ばれる原子核融合型核弾頭は、その一つ一つが広島原爆の数百、数千倍の爆発力を持つ可能性がある」と語り、現在核兵器ははるかに破滅力をもつものとなったことを強調した。

■「化学兵器は貧者の原爆」

核兵器が話題になったことで、破滅を引き起こす可能性のあるさまざまな種類の兵器が思い浮かぶ。この点で、化学兵器は一番に名前が挙がる。 化学兵器は「貧者の原爆」だと語るキバルオール教授は、「核兵器は化学兵器よりも強力で、より特権的な兵器であると考えられている。両者を同時に使用することは可能だが、核兵器の破滅的、致命的な効果は化学兵器よりも何倍も大きく、同時使用は必要とみなされなかった」と話す。

キバルオール教授は、ロシアが化学兵器の製造、備蓄、使用を禁止する化学兵器禁止条約の締約国であると述べる。「これにより、ロシアは2016年に化学兵器の廃棄を完了した。現在ロシアは化学兵器をもたないと信じられている」。

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( 翻訳者:麻生充仁 )
( 記事ID:52816 )