アサド政権がテロ組織のシャーム解放機構(HTS)にハマを奪われる中、シリア国民軍はテルリファトからクルディスタン労働者党(PKK)やクルド人民防衛隊(YPG)を一掃し、この地域の勢力間の利益や損失にも注目が集まった。シリアでの戦闘で誰が勝利し、誰が敗北したのか?その詳細に迫る...
シリア北部のアレッポ県西部で11月27日、アサド政権軍と反体制派武装勢力との間で戦闘が開始した。11月28日には、アレッポ県西部から中心部にかけて、速いスピードで前進していた反体制派武装勢力は11月30日に中心部の大部分を掌握した。
11月30日にハン・シェイフン郡を制圧し、イドリブ県全土を支配した武装勢力はハマ県でも攻勢し、前進を続けた。シリア国民軍はアレッポ郊外で12月1日にテロ組織PKKやYPGに対して行った「自由の夜明け作戦」でテルリファト郡中心部をテロから救った。
12月5日にシリア政権軍はハマを失ったことを発表し、テロ組織のHTSによって制圧されたと伝えた。書面発表では、反体制派勢力が市内に侵入した後、軍は撤退し、市外に再配備されたと述べられた。
■誰が何を得、何を失ったか?
では、この地域のアクターがこの戦闘で得たもの、失ったものは何だったか?アカデミー協会副会長のファトマ・イェシルクシュ氏とイスタンブル・アイドゥン大学教員のイェリズ・アルバイラク氏がMilliyet紙へ見解を述べた。
■アサド政権
アカデミー協会副会長ファトマ・イェシルクシュ氏:シリアでの現在の展開を見る限り、アサド政権が大きな過ちを起こしたことにより、同時に敗北を被った。間違いを間違いで隠蔽しようとした政権は、一方ではHTSの攻勢と、他方ではテルリファトでのシリア国民軍による、PKKのシリア版組織であるYPGの排除によって身動きが取れなくなっている。
さらに、この状況で同盟国であるロシアとイランから期待された支援を受けられなかったことは、アサド政権を存続の危機に立たせている。
イスタンブル・アイドゥン大学教員イェリズ・アルバイラク氏:アサド政権は、しばらく同盟国の支援を受けて、安定した地位を維持していた。しかし、反体制派がその間備えてきた攻勢を、備えの無いまま受けることになった。大敗北を喫したアサド政権軍は軍備さえも残してすぐに撤退を始めた。政権支配下の地域を徐々に失った。同盟国から期待した支援が得られなかったアサド政権は次第に追い詰められ、支援を模索し始める状況だ。提案された条約のテーブルに一度も座ってこなかったアサド大統領が、シリアで新たに作られる秩序の中に存在するかは、現時点では不明である。しかし、得た情報によれば孤立するアサドとバアス政権の終わりが近づいているようだ。
■HTS
ファトマ・イェシルクシュ氏:HTSはアレッポとその周辺の戦略的地域を掌握し、短期間で予想されなかった軍事勝利を収めた。しかし、忘れてはいけないのは非政府アクターの短期間の躍進はいつも不安定さとリスクを伴う。なぜなら、地域のほかのアクターとも戦闘が引き起こされかねない。またどのアクターがどの場所を支配するのかということへの懸念や別の種類の不安定性が現れかねない。
イェリズ・アルバイラク氏:しばらくの間準備を進め、アルカイダとヌスラ戦線から分派した組織は、反政府勢力の武力を代表する重要な組織である。アサド政権に反抗した組織は過去と比べ、格段に経験を積み、1人のリーダーの下に集結して準備を進め、洗練された動きをする。短期間に前進した組織は今日まで大きな抵抗に遭遇することなく、都市や村を一つずつ制圧していき、ハマにまで前進した。さらにアサドが残した軍事装備を自分の組織に加えながら攻勢を続ける。支配が確立した都市では避難していたシリア住民を戻したグループはダマスカス、その後ダラとデリゾールへの進軍を計画している。将来的には新たな再編のテーブルに、HTSも含まれるだろうとの見方が強い。
■PKK/YPG
ファトマ・イェシルクシュ氏:シリア北西のアフリーン市で配備されたISILに対抗し、米国の支援を受けるテロ組織、YPGやPKKは、シリア国民軍がテルリファトに到達すると、軍事装備を残して文字通りその地域から逃げた。マンビジへ向けて行われる予定の作戦は、シリアからYPGやPKKを根絶するための重要なステップとなる。なぜなら、マンビジはテロ組織がテロ活動を計画した重要な地域だからだ。また、「パラモーター・トレーニング基地」としても知られ、2023年にメルスィンの警察署へのテロ攻撃ではテロリストはパラモーターで来たことが判明した。さらに、先日トルコの防衛産業の根幹であるトルコ航空宇宙産業株式会社(TUSAŞ)に対する危険な攻撃では、テロリストが再びパラモーターで移動し危険な攻撃を実行した。
イェリズ・アルバイラク氏:YPGは何年もの間、米国とアサドの支援でこの地域でテロを引き起こし続けた。アサド大統領は反体制派に対する防衛力の弱さを理由にPKKから支援を求めたこと、さらにHTSはあちらこちらでPKKと衝突したことが知られている。反体制派とあちらこちらで戦い、逃げたPKKは現在米国の支援を必要とし、米国からの最新の発表ではPKKとYPGがISILを止めることに関しては米国の貴重な同盟相手であるとされているが、将来的に米国から孤立する可能性は十分にある。
■シリア国民軍
ファトマ・イェシルクシュ氏:テルリファトはシリア民主軍(SDF)によって支配されていたが、SDFの中核はPYDの武装組織であるYPGであった。シリア国民軍が戦略的に重要なクヴェイリス軍事空港とミンヌ空港を制圧し、テルリファトを支配することは、我々のすぐ隣にテロ組織が設立されることを防ぐための大きな一歩である。
イェリズ・アルバイラク氏:長い間テルリファトを支配したPKK、YPG、SDF勢力はシリア国民軍の攻勢によってテルリファトから排除された。この作戦には「自由の夜明け作戦」という名前が付けられた。以下のような懸念があった:アサド勢力が後退したことでこの地域にできる権力の空白をPKKが埋めるという予見のもと、シリア国民軍がここでトルコの支援によって、活動範囲が非常に近いことを理由に地域を一掃した。シリア国民軍は当然攻勢を続けている。
テルリファトを完全に掌握したシリア国民軍は、この地域と周辺地域、さらに郊外でPKKと戦い続け、土地や戦略的拠点への、特にM4高速道路への侵入を阻止し、戦略的地域も再度PKKが通過できないよう、現在も道路は閉鎖されている。
■米国
ファトマ・イェシルクシュ氏:2025年1月に大統領となる予定のドナルド・トランプ氏と彼の内閣の見解は非常に重要となる。なぜなら、2018年にシリアから米軍を撤退させなかったトランプ大統領は、地域におけるイランの影響力を排除し、イスラエルを中東における唯一の権威にするために、次の任期にテロ組織YPGやPKKへの支援を増やす可能性があるからである。さらに、ロシアを囲んで押さえ込むため、シリアという切り札を使い、ウクライナ戦争の流れを変える可能性もある。
■ロシア
イェリズ・アルバイラク氏:ロシアは、長年アサドの同盟であり、アサドがシリアに迎え入れた唯一の外国勢力として特にラタキアとタルトゥスの港に関心を持っている。なぜならそこに軍隊がいるからだ。軍はこの場所から出ていき、他の場所へ移ったと言われていた。しかし、軍事演習が決行されたと伝えられた。現在、状況を監視し、地域で協議しているという。アサドが支援を要請すれば、軍は状況を分析し、決定を下すと発表した。しかし、アサドが期待する支援は得られなかった。イドリブ県で航空作戦が行われただけだ。これ以外に反体制派の動きを止める動きを取らなかった。このため、ロシアも現在の軍の状況に応じて行動するため、現場ではあまり効果的に行動せず、自国のポイントを守ることのみに限定される。現時点ではアサド政権へ大きな支援を行わないであろうと予想される。
■イラン
ファトマ・イェシルクシュ氏:イランが支援する代理組織ヒズボラがイスラエルとレバノンの戦争で大きな損失をこうむり、特に組織のブレインとしての役割を担っていたリーダーの暗殺は、ヒズボラとイランの両方にとって困難な経過をもたらした。イランは直接米国やイスラエルと対決せず、ヒズボラを支援しながら戦争を進めてきた。しかし、ロシアと同様にイランにとってもシリアにおける不透明で不安定な期間はさらなる負担と責任をもたらすため、戦争ではなく外交を通じてこれらの紛争を終わらせることがイランの優先事項であると思われる。
イェリズ・アルバイラク氏:イランからこの件に関する正式発表がなかったとしても、何年もの間アサドにとっての最大の同盟国で、アサド政権の最大の支援者である。我々はこの地域にシーア派民兵組織と、ヒズボラがいることによってそれを知っている(時にはレバノンにやってきたり、時には移動してシリアの一部に送ったりすることもある)。しかし、このシーア派民兵組織の最新の数は反体制派グループを打倒するほど多くはない。イランの中でも現在対処しなければならない別の問題があり、またレバノンでのヒズボラも地域に戻れていないため、シリアに多くの支援を与えられない。たとえ彼らが味方に付いているといったとしても地上作戦では十分ではないことが分かるだろう。このため、この地域での優位性を失うイランにとってこれは大きな損失となる。なぜなら、ヒズボラ、PKK、またアサド軍が撃退されることは、イランがここでの勢力圏を失い、イランが築いたシーア派の三日月地帯が大きな限界点に達したことを示しているからである。その点で、ヒズボラやシーア派民兵組織の撃退はイランだけではなくアサド政権にとっても大きな損失を意味する。すでに大きな力を失ったイランが、さらにシリアでの勢力圏を失うことで、イランが築いた三日月地帯は崩壊寸前に向かいつつある。
■トルコ
ファトマ・イェシルクシュ氏:特に国境におけるPKK/YPGに対する作戦は、国家安全保障にとって極めて重要な優先事項である。シリアの領土一体性を支持し、現場の動向は注意深く見守っているが、これらの紛争と不安定性を解決するための最も重要な一歩は人々の正当な要求に沿った合意の存在によって可能となる。この文脈におけるトルコの目的は国境における権力の空白の可能性から生じる脅威を国境で防ぐことだ。
イェリズ・アルバイラク氏:当然、トルコ政府は長年アサド大統領への呼びかけが結果を生まなかったため、現在地域のテロ分子を排除することに焦点を当てている。多くの試みがなされてきた。アスタナプロセス、ソチ合意、そして以前のアダナ合意は実際、シリアの領土一体性について、あるいはそこにテロ拠点を認めないことについて何年も警告してきた。しかし、彼らから有効な反応は得られなかった。このため、私たちは2016年からこの地域でPKKを阻止するための作戦を実施している。
当然、トルコは現時点でいかなる反体制派も支持していない。作戦によって、また我々が締結した国際協定によって、この地域の軍事的プレゼンスを継続する。ここで我々が想定できるのは現在の立場を維持しながら反体制派の進行を阻止し、おそらくPKKの蔓延を阻止するために必要な作戦のみだ。しかし、これ以外でトルコは現在どの組織の支持者でもない。現在、シリアの領土保全と地域内のテロ組織の通過阻止に関してのみ期待している状況だ。今後の交渉の場では間違いなく支持を表明するだろう。そしてもちろん、新たにつくられる統一シリアにテロ組織が参加するのを阻止するために全力を尽くすだろう。
■イラク
ファトマ・イェシルクシュ氏:イラクは国境沿いの安全保障上のリスクに直面している。イラクはシリア政策において地域勢力と国際勢力の両方の影響を考慮する必要がある。イランのバッシャール・アサド政権支持と米国のシリア駐留により、イラクがこれらのバランスの中で可能な行動は制限されている。
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( 翻訳者:大屋千寛 )
( 記事ID:59185 )