「サウジアラビアの非礼を許すな(1)」のつづき
小巡礼の巡礼者が増加中、でもどうして?
モスタファー・ハークサール・ガフルーディー巡礼参詣庁長官がサウジアラビアの巡礼省大臣との合意文書に署名し、第9政権下で小巡礼の巡礼者数が2倍に増えたことを誇らしげに発表した上で、「快適なサービスの提供が実現されれば、小巡礼を行う人の数がもっと増える可能性もある」と話したのは、今年オルディーベヘシュト月上旬〔4月下旬〕のことだった。
問題は、何を犠牲にして〔巡礼者数が〕このように増加しているのかということだ。イラン人巡礼者が世界のイスラーム教徒たちと同様に、あるいはそれ以上にメッカ巡礼を熱望していることは事実だ。しかし、このような増加は何を犠牲にして可能となったのだろうか。イラン人巡礼者に対する非礼が繰り返され、サウジアラビア国内での安全もままならず、〔安心して利用することのできる〕快適な施設もない‥‥、この国のこのような状況に責任を負うべきなのは、一体誰なのだろうか。
先週巡礼の旅から帰ってきたあるテヘラン市民は、次のように証言する。「私たちの巡礼団のリーダーはことあるごとにイラン人女性たちに、サウジアラビアでは一人でタクシーに乗らない方がいい、夫や身内の人が一緒のときも夫や同行者の男性が先に乗車すべきだ、なにしろ全く治安が確保されていないから、と言っていたものです」。
この人物はさらに、「この国のワッハーブ派〔※4〕の人たちはいつもイラン人巡礼者に攻撃を仕掛け、ドゥアーやニヤーイェシュ〔※5〕のときに嫌がらせをしてくる。イラン人当局者も、こういった連中の無礼な振る舞いに対して何も言ってくれない」と訴えている。
ワッハーブ派の振る舞いに対するアーヤトッラー・マカーレムの反応
アーヤトッラー・マカーレム=シーラーズィーはこれまで何度も、イラン人シーア派巡礼者に対する急進的なワッハーブ主義者たちの攻撃を批判し、当局者たちにこの件の追跡調査を求めてきた。
同師はサウジアラビアへの巡礼者の派遣を見直すよう求め、サウジアラビア国内でイラン人巡礼者の安全が確保されていないことに不満を表してきた。
同師は昨日も、〔メッカにある〕アル・ハラーム・モスク(神聖モスク)の集団礼拝導師がシーア派を異教徒呼ばわりしたことに対する反応として声明を出し、シーア派に背教徒宣告〔※6〕を下すことはイスラームの教えからの逸脱であるとの判断を示している。
アーヤトッラー・マカーレム=シーラーズィー閣下の声明は以下の通りである。
慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において
背教徒宣告を振りかざすワッハーブ派が、シーア十二イマーム派〔※7〕に背教徒宣告を下し、罪なき者たちの流血の原因を作ったのは、これが初めてではない。このような行為に対し最後の審判の日に申し開きすることなど、彼らには間違いなくできないだろう。彼らは悪名高いイギリスのラジオ、すなわちBBCを喜ばせるような行いを働いたのだ。
残念なことに、アル・ハラーム・モスクの礼拝導師は無知であるあまり、彼がインタビューに応じたこのイギリス・メディアは、ガザ侵攻の際やその後、ほぼ全世界がイスラエルを非難したときも、イスラエルを非難しようとしなかった張本人であるという事実をご存知ではないようだ。
対立を煽る敵どもの政策にお気付きでないこの導師には、次のように言わねばなるまい。すなわち、「あなた方がシーア派を背教徒宣告し、他の人々があなた方を背教徒宣告しても〔=互いに背教徒だと言って罵りあっても〕、問題の解決に資さないばかりか、〔イスラーム教徒同士の〕対立を引き起こすという目的をイスラームの敵どもに叶えさせてしまうことにもなる」と。
〔中略〕
あなた方は、イスラームとイスラーム教徒の最大の敵、すなわちイスラエルを打ち負かし、その鼻先を地面に押さえつけたシーア十二イマーム派に最大の感謝の念を抱くべきである。あなた方はアル・ハラーム・モスクで礼拝が終わるたびに、世界のシーア派信徒たちの発展に何の影響も与えないような根拠のない主張を繰り返し、イスラームの敵どもを喜ばせるのではなく、世界のイスラーム教徒が名誉を得るきっかけとなったシーア派信徒たちのために祈り(ドゥアー)を行うべきである。
なおアル・ハラーム・モスクのシェイフ・カルバーニー集団礼拝導師はBBCとのインタビューの中で、シーア派を異端であると呼んでいた。
〔後略〕
※4コーランやスンナ(預言者の言行録)の字義通りの解釈を主張し、スーフィズム(神秘主義)や聖者信仰など、後世に添加された慣行を激しく糾弾する、厳格で急進的なイスラーム改革思想を唱える人々。自称はムワッヒドゥーン(一神論の徒たち)であり、他のイスラーム教徒(特にシーア派)を多神教徒に近い存在とみなして批判する。
※5定められた礼拝とは別に行われる、神への(ときに涙ながらの)祈願・嘆願を伴う祈りのこと。
※6背教徒宣告(タクフィール)によって「背教徒」と見なされた人物は処刑の対象となる。そのため、特に近代に入ると一部の急進的なイスラーム主義グループは、「タクフィール」を行うことで、要人の暗殺やテロをジハードとして正統化した。例えば、エジプトのサーダート元大統領を暗殺したジハード団(1981年)や、ルクソールで日本人を含む観光客62名を殺害したイスラーム団(1997年)など。
※7シーア派最大の派。初代イマーム・アリー(第4代カリフ)をはじめとする12人のイマームの教えを重視する。イラン人の大多数が同派に属する。