【社会部:アリー・アフヴァーン・ベフバハーニー】古より伝わる伝統行事
チャハール・シャンベ・スーリーはいまや、「花火大会」としての側面のみが残されている。それも、かつてのように〔火のついた〕薪の上を飛んで〔生命力の象徴としての〕「赤」を請うのではない。むしろチャハール・シャンベ・スーリーは「戦場」よろしく、恐ろしい爆音が常時鳴り響く夜になっているのである。
残念なことだが、チャハール・シャンベ・スーリーはここ10年、暴力的な性格をますます帯びるようになってきた。伝統行事から、人々の心と体の健康を危険に陥れる社会的無秩序に変容してしまった。
毎年、エスファンド月〔西暦2月20日~3月20日、イラン暦の最後の月〕にもなると、新年〔3月21日~〕の到来に向けて、人々の興奮は高まるものだ。このような中、若者の心を捕らえるのは、なによりもチャハール・シャンベ・スーリーの行事である。われわれも薪に火を付け、その上を飛んだことが、一度はあるだろう。
しかしここ数年、印象深いこの夜の行事では、問題となる出来事が多発している。
発火物を投げつけたり、爆竹を鳴らしたりするなど、描写に耐えないほどの狂乱が子供や青少年たちの間で生じている。このような興奮状態は時に、一部の若者が家族の目を盗んで、秘かに発火物を自作したり、〔違法に〕買い求めたりする事態を引き起こしており、こうした発火物の使用・保管方法をよく知らないために起こる危険な事件も、続発している。
昨年の統計によると、チャハール・シャンベ・スーリーでの死傷者のうち、最も多かったのが15歳から24歳、特に16歳から19歳までの年齢層であった。8歳から15歳、34歳から38歳までの年齢層がそれに続いている。またこの統計によると、死傷者の8割が男性、2割が女性で、都市部で起きた「第一級火傷」の9割以上が、路地や通りで発生したものだった。また、昨年起きた事件の63.5%が、発火物で遊んでいたときに起きたものであった。残念なことに、死傷者の26.5%が発火物のそばを通った歩行者で、6.1%がチャハール・シャンベ・スーリーの行事を見物していた人々であった。
86年〔西暦2008年〕、〔事件に〕巻き込まれたのは主に小中高校の生徒たちであったが、適切な監視により、小学校などの教育施設で発生した事件件数は〔それまでの年に比べて〕最少であった。
改善の兆し
〔チャハール・シャンベ・スーリーが行われる〕一年の最後の火曜日の夜〔今年は3月16日〕は、大都市、特にテヘランにとってもっとも安全上の懸念が高まる時期の一つである。関係者らはチャハール・シャンベ・スーリーで予想される事件の発生を抑えるために、様々な対策を講じている。
メディアを通じた大々的な宣伝や〔違法な発火物の輸送・売買に対する〕治安維持軍の捜査によって、爆竹遊びやそのことに起因する被害の件数は、過去に比べて減少していることが、統計で示されている。
テヘラン消防庁の報告によると、84年最後の火曜日の夜〔2006年3月14日〕には約139件の火災が発生し、9名が〔火災の〕被害に遭ったが、86年〔2008年3月18日〕には火災による被害は最小限に抑えられ、被害者も5名で、過去6年間でもっとも安全な「一年最後の火曜日の夜」となった。
また保健省の発表によると、昨年のチャハール・シャンベ・スーリーでの死傷者の総数は306名で、55%の減少となっている。
そのうちテヘラン州(同州はゴム州ならびにガズヴィーン州の危機管理をも担っている)では死傷者の数は136名で、〔全国で〕最も多かった。この136名のうち、109名がテヘラン市で発生したものだった。テヘラン〔州〕に次いで最も死傷者の数が多かったのは、順にケルマーンシャー州、ファールス州、ホラーサーン・ラザヴィー州、エスファハーン州であった。また最も被害が少なかったのは東アゼルバイジャン州(同州は西アゼルバイジャン州およびアルダビール州をも管轄している)で、死傷者の数は13名であった。
さらに法医学庁の発表によると、昨年のチャハール・シャンベ・スーリーではテヘランの某病院で、一名の死亡が確認されたとのことだ。
基準外の発火物も
発火物はいかなるものであれ、危険性がないということはない。しかし多くの国の店頭で売られている発火物は、基準に則った、危険性の低いものであり、この種の製品〔の販売〕ならびに生産に対しては、国による監視が行われている。しかしイランでは、事情は異なる。
残念なことに、年末になると〔危険性の高い〕発火物の提供を禁止するための施策が国の関係者らによって検討されるものの、この種のものが容易に若者たちの手に渡っているのが現状だ。若者の娯楽欲求につけ込む〔悪徳〕業者たちは、〔危険な〕各種発火物を売りさばいている。青少年がさまざまな店舗で、各種発火物を容易かつ大量に手に入れることのできる状況ができているのだ。
基準に満たないこうしたガラクタは、その多くが中国やインドの工場で生産されたもので、発火性が高い。実際、ちょっと動かしたり、衝撃を与えたり、高温にさらしたりするだけで、簡単に反応し、爆発を起こしてしまうのである。
高い代償
ある研究によると、発火物の購入にテヘラン市民だけで13億トマーン〔約1億3千万円〕を費やしているという。その一方で、チャハール・シャンベ・スーリーはさまざまな肉体的・精神的損害を〔テヘラン市民に〕もたらしている。
この研究によると、チャハール・シャンベ・スーリーの夜で負傷した人々の数は、実際の負傷者数のほんの2割にすぎないという。別の言い方をすれば、チャハール・シャンベ・スーリーで負傷した人の2割だけが、治療のために病院を訪れているだけで、残りの8割は親〔に叱られるの〕を恐れて、医療施設に行かないのである。
伝統への敬意
〔世界の〕どの国民の慣習も、きちんとした規範に基づくものだ。それらは各民族の間で長い時間を経て〔形成されて〕きたものであり、その精神は〔世代を超えて〕伝承され、日常生活の変化に伴って、時の経過とともに新しい要素が付け加えられていく。
一年の最後の火曜日の夜も、古よりイラン人の心をとらえてきた。かつてこの伝統を支えてきたのは、個々人や社会の健康という思想であり、価値観を守ろうという考え方であった。〔現代に生きる〕われわれもまた、社会の価値観や規範に基づく伝統や慣習を守り、人々の社会的・個人的権利が侵害されないよう努め、個々人や社会の健康が危機にさらされるようなことのないよう行動しなければならない、と信じるものである。
余暇の整備が重要
各種統計が示すように、チャハール・シャンベ・スーリーで起きる事件が原因で負傷した人々の多くを、子供や青少年が占めている。それゆえ、こうした事件の発生を抑えるための正確な計画作りが必要である。もっとも、こうした計画作りは一朝一夕にできるものではなく、粘り強い教育と時間をかけた啓発活動が必要である。
我が国では、若者に余暇の時間をどのように過ごさせ、娯楽を提供するかについての方策や計画作りが不足している。自らの興奮を自然かつ正しいあり方で発散させるための機会が、若者には必要である。時に若者は自ら、伝統の復活と称して、この種のことを行い〔=大騒ぎをし〕、〔悪事を働くための〕計画を立てることがある。
若者は奇抜な行動で人目を引きたいと考える傾向にあることを考えれば、こうした問題はチャハール・シャンベ・スーリーの行事開催に合わせて、騒動へと発展する可能性がある。
ここ最近、〔チャハール・シャンベ・スーリーで発生した〕損害の額や逮捕者数、死亡者数などについて、さまざまな機関から発表が行われている。しかしこの行事をより楽しく、かつ危険のない方法で行うための計画を公表した国の関係者は、一部にとどまっている。彼らは火傷を負った体、視力を失った目、破壊された家屋などを見せることで事足れりとしているのだ。
若者は自らの文化を守りたがっている。娯楽を味わいたがっている。思い出を作りたがっている。若者の感情の発露のための計画は、世界中さまざまな形で存在する。〔ところが〕我が国の多くの若者は、チャハール・シャンベ・スーリーという行事がどのような哲学によって行われてきたのか、まったく知らない。彼らは、この行事はみんな集まって、騒ぎを起こして、人々の平穏を乱すためのものだなどと考えている。彼らが爆竹遊びに熱中し、基準に則った〔安全な〕爆竹が手に入らないことを理由に、禁じられた〔発火〕物に手を出しているのは、こうした状況下でのことなのである。
こうした問題を避け、〔チャハール・シャンベ・スーリーという〕行事を正しく行うためには、若者への啓発に努め、彼らに〔チャハール・シャンベ・スーリーのための〕便宜をきちんと管理された状態で用意することが重要だ。家族や関係者らが参加する形で行事を執り行うことも、〔若者による〕「コントロールされた形での感情の発散」を可能にするだろうし、「文化による〔若者の〕教導」も可能となるだろう。喜ばしいことに、ここ数年、こうしたことへに注目が以前よりもなされるようになってきた。
有効な対策として指摘できるのは、子供と一緒に家族が〔チャハール・シャンベ・スーリーに〕参加することである。規範から逸脱した行動を防ぐためには、このことが非常に重要である。
一年の最後の火曜日の夜に行われるこの伝統行事で、規範を踏み外した尋常ならざる行為を目撃することが、これまでままあった。しかし喜ばしいことに、昨年、この行事は無秩序状態から脱することができた。このことは、今後にとってよき前兆となろう。
保健省関係者の発表によると、昨年のチャハール・シャンベ・スーリーでの死傷事故発生件数が減少したのは、マナーの浸透、市民への教育、そして危険な発火装置の回収と基準に則った危険性の少ない器具(それらは〔子供ではなく〕家族〔の大人〕が用いるもので、危険性はまったくなかった)の市民への配布、といった要因のお陰であったという。
基準に則った爆竹や花火類が適正価格で、全国の人々に提供されたお陰で、市民らが手製の花火類を自宅で作ったりする必要がなくなったことも、昨年のチャハール・シャンベ・スーリーで被害件数が目に見えて減少した要因として挙げられる。