一頭のチーターがケルマーン州東部リーガーン県の地元住民の家畜を襲ったというニュースが多くの反響を呼んでいる。同州の環境局はこのニュースを明確に否定、住民によって撮られた写真はチーターの写真ではなく、完全に捏造されたもので、むしろ剥製に近いとの見方を示している。
チーターはイランの自然環境に生息する稀少かつ貴重な動物の一つと考えられており、気候条件や乱獲、そして必要とされる保護の不在が原因で、絶滅寸前の状態にある。現在、イランには100頭に満たない数のチーターしか目撃されておらず、自然愛好家らは、地上で最も足の速い動物として知られるこの動物が近い将来、イランから跡形もなくいなくなってしまうのではないかと懸念を強めている。
ケルマーン州におけるこの稀少動物の最大の生息地は、ラーヴァル平原である。1頭のチーターも目撃されない状態が30年続いた末に、88年〔西暦2009年〕になって2頭のチーターがラーヴァル平原で目撃されたのである。
しかし、ケルマーン州とスィースターン・バルーチェスターン州の州境に位置するリーガーン県で、1頭のチーターがヒツジの群れを襲ったとの報道が、ここ数日伝えられている。その一方で、これまでのところ、リーガーン県及び周辺のイラン・プロソピス〔※低木の一種〕の大規模群落にチーターがいるとの信頼に足る報告はこれまで存在しなかった。
なおこのニュースは、リーガーン県の副知事によって確認されている。同氏はこの件について、ファールス通信に「このチーターがリーガーン県で目撃されるようになって、1ヵ月になる。以前は山岳地帯に生息していたが、干ばつのために同県の村を襲うようになったのである」と述べている。
モハンマド・サーデグ・ダードッラープール氏はファールス通信とのインタビューの中で、「この三日間で、リーガーン県ミールアーバード村の120頭の羊がこのチーターに殺された。5億リヤール〔※自由レートで日本円で約143万円〕以上の損失を、この村の畜産業者に与えたことになる」と述べている。
■ 怒り心頭の畜産業者ら、チーター狩りを求める
このニュースは、自然愛好家らの間に反響を呼んでいる。というのも、被害を受けた村人らは、ヒツジを襲った可能性が取り沙汰されているチーターに対して、防御態勢をとり、さらには復讐する姿勢すら示しているからである。しかしながら、このチーターは地上に残された100頭の稀少動物のうちの1頭であり、もし怒りに駆られた畜産業者や農家らによって殺されるようなことになれば、この動物の絶滅に向けて、さらに一歩踏み出してしまうことになるのである。
このニュースが伝えられたことを受け、ケルマーン州の環境問題の専門家らは報道の真偽を確かめるために現場に向かった。
モハンマド・エブラーヒーム・セッハティー氏はこの件について、ジャーメ・ジャム紙に次のように述べている。
現場やリーガーン県の庁舎に足を運んだところ、村人たちが言うところの、件のチーターを写したとされる写真を見せてくれました。しかし、この写真はチーターのものではなく、むしろイヌ科の動物の人形を写したもので、完全に捏造されたものでした。その一方で、今ある学術的な証拠や推測によれば、アジア・チーターやその他のネコ科の動物がこれほどの数(120頭)の動物を同時に襲ったというような報告がなされたことは、これまでありません。
同氏は、チーターにはその動物行動学的特徴によって、〔人間が暮らす〕地域社会から離れようとする習性があると指摘した上で、「チーターは比較的顎の力が弱いため、先ほど述べたような規模で〔動物を〕襲うことはできないのです」と明言した。
この環境問題の専門家は、最新の信頼に足る報告によれば、州にいるチーターはラーヴァル県に1頭、ラフサンジャーン周辺の地域に1頭がいると指摘しつつ、それと同時にリーガーン県にチーターが存在する可能性を否定はしなかった。〔‥‥〕
セッハティー氏はチーターによって家畜が襲われたというニュースが報じられた原因について、ジャーメ・ジャム紙の質問に答える形で、「これより前にも、州ではこの種の偽造された写真やニュースが報じられたことがありました。そうしたことが起こる原因については、正確には分かりません」と述べている。