――〔ダーイシュによって〕導入された法は革新的なものと言えるのでしょうか。それとも、これ以前にも特有の思想を持つ部族や学派において通用していたものなのでしょうか。
今日ダーイシュが手にしている道具、情報源や技術はかつてなかったものである。しかし、〔彼らの活動や思想の〕枠組みや方法は何ら新しいものではない。むしろ、〔新たな〕技術が手にはいったことで、それら〔=旧来の思想的枠組み〕の新たな側面が〔ダーイシュによって〕作られたと見るべきだろう。
ダーイシュの思想基盤はイブン・タイミーヤやムハンマド・ビン・アブドゥルワッハーブ(ワッハーブ派)に遡ることができる。彼らの思想は絶対的表面主義〔※コーランを字面通りに解釈する考え〕の思想に基づく。彼らは、宗教及び精神性に内面的意味などなく、全ては表面に集約されると信じている。
イスラームの根源からかけ離れているワッハーブ派は、表面〔※例えばコーランに現れている字面〕と内面〔※例えば解釈によって見いだされるべきコーランの奥義〕の間のイスラーム弁証法を考慮していない。この弁証法を維持しようとする統治体制は、必ずバランスへと向かう。ワッハーブ派は表面主義を掲げる潮流の一つであり、それは〔イスラーム〕法解釈にその姿が示されている。そしてそれは、現在ダーイシュの衣を借りて現出しているのである。
――表面と内面の弁証法における〔アラブ人〕知識人の〔知的〕破綻だけでなく、アメリカのイラク攻撃以来のアラブ人たちの屈辱感が、この地域におけるテロリズムの形成を支えていると考える人たちもいます。このことも〔ダーイシュの台頭に〕影響しているのでしょうか。というのも、彼らの多くが〔イラクの〕アブーグレイブ刑務所で知り合ったとのことですが。
アメリカのイラク攻撃以前、ダーイシュの指導者らはイギリスに住んでいた。この国はアメリカの同盟国に他ならない。イラク攻撃以降、イギリスは自国軍をイラク南部に駐留させた。また、アフガニスタンでも自国軍をカンダハールに駐留させた。というのもイギリスは一部の地域の族長や部族と間接的な関係を結んでいたからだ。
彼らはイラク攻撃をしようと考えた際、あたかもサッダームやターリバーンが米英を攻撃しようと考えているかのような世論を作りあげた。こうした恐怖に駆られた世論の中で、彼らはイラクに進出したのである。しかし、イラク進出の本当の理由は、50年後に向けた自国の計画実現のために中東の地理を変化させることにあったのである。
アメリカの戦略家たちは、自国は今後、経済的優位性を失うだろうと結論づけていた。2014年11月以来、中国経済の優勢によって、かつての識者らの予想は正しかったことが判明した。20世紀の終わりから、ウォーラーステインやチョムスキーなどアメリカの有識者らの多くは、2050年までアメリカは軍事的な優位を保持するが、それ以降はこの点でも衰退すると公言した。なぜなら、同国の経済はもはや〔高額の〕軍事費に応えらなくなっているからである。
こうしたことが起こる前に、アメリカは新興勢力に立ち向かうために、新たな世界秩序を作り出さねばならなかったのである。中東情勢は大きなベクトルの中でみなければならないのは、そのためである。
ダーイシュは米英の設計による基本的からくりにおけるパズルの一つとして考察することが可能だ。資本主義体制はエネルギーが見いだされるところならどこでも、根を張ろうとする。近い将来、我々はイランの北や北東(ジョージア、キルギス、カザフスタン、トルクメニスタン、タジキスタン)においても、ダーイシュの存在を目の当たりにするのを覚悟しなければならないだろう。
つづく