Cengiz Candar コラム:ダヴトオールへの内外研究者抗議に接し・・・

2016年01月21日付 Radikal 紙
政権は、「敵なる知識人」に対して新たな戦線を展開している。私は以前、この戦に勝ち目がないことを指摘した。「この戦に勝ち目はないどころか、
すでに負け戦は決定している。」毎日のように変化する状況が、このことを物語っているのだ。


先日、フラント・ディンク氏の追悼式から帰宅すると、20か国以上の合計216人もの研究者が署名した「アフメト・ダヴトオールへの手紙」という名の「通知」が届いていた。

文書と署名を私に送ってきたのは、トルコにおける最も輝かしい若手研究者の一人だった。同封のメモに、彼はこう書いていた。

「この頃、通知がインフレのごとく届きます。ただし、こうした通知に誰が署名しているかを見れば、彼らが特殊な層の人々であることにお気づきになることでしょう。なかなか骨が折れましたが、米国から日本に至るまで、トルコ及びオスマン朝研究者の権威を一堂に集めることができました。この分野の最も著名な人物が署名しています」
「トルコにおいて言論の力はもはや残っていません。しかしこうした行動によって政府にとって『魔女狩り』がイメージダウンのリスクをより高めることにつなげることができるのではないかと望んでいます。すくなくともこの凶暴な攻撃の波から、これ以上学者たちが被害にあうのを防ぐかもしれない。あなたがおっしゃるところの『この戦に勝ち目がない』ことに、 彼らは気づくことでしょう」

本当にそうなることを望もう。署名を一目見れば、実に米国やオーストラリア、英国に日本、エジプトや韓国、スペインからスウェーデンに至るまで、トルコ、オスマン朝初期及び末期の歴史やイスラーム、中東地域の専門家が名を連ねていることがわかる。そうした分野において、彼らは何十年も研究し、何万ページもの論稿を書き、それによって何万もの人々を啓蒙してきたのだ。彼らは同時に、何万人もの学生を世に送り出してきた。何人かは、私も直接に面識がある。 そうした人物が、署名に名を連ねていた。

それは、まことに「特殊な層」であった。

署名に名を連ねるトルコ出身の研究者は以下のとおりである。

ダロン・アジェムオール(マサチューセッツ工科大学)
レシャト・カサバ(ワシントン大学)
ジェマル・カファダル(ハーヴァード大学)
スィベル・ボズドアン(ハーヴァード大学)
アーリフ・ディルリキ(オレゴン大学)
ギュルル・ネジプオール(ハーヴァード大学)
ハサン・カヤル(カリフォルニア大学・サンディエゴ大学)
ダニ・ロドリク(ハーヴァード大学)

各分野において、彼らの専門性の高さ及び権威については議論の余地がないだろう。署名には、少なくともこうした人物の名前があった。

署名には、トルコについてよく知る以下の人物たちも含まれている。

エリック・イアン・チュルヒャー(オランダ、ライデン大学)
ジュアン・コール(シカゴ大学)
ジェニー・ホワイト(ボストン大学)
ユージン・ローガン(オックスフォード大学):金字塔『アラブ500年史』『オスマン朝の瓦解』を執筆。後者は昨年のベスト10書籍で、近々イレティシム出版よりトルコ語版が出る予定だ。
マーク・ベーア(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
ロバート・ダンコフ(シカゴ大学)
キャロル・ディレイニー(スタンフォード大学)
カーター・フィンドリー(オハイオ州立大学)
ハンス・ルーカス・カイザー(ニューカッスル大学、オーストラリア)
ダリウシュ・コウォヂェイチク(ワルシャワ大学、ポーランド)
リチャード・タッパー(ロンドン大学)
ギュンター・ゾイヘルド(ベルリン)
上野雅由樹(大阪市立大学、日本):オスマン朝研究において国際的に知られている。
ユン・ジョン・イ(ソウル国立大学、韓国)

ここに載っていない人物も、トルコ、オスマン朝史、オスマン朝芸術、イスラーム、中東研究において世界最先端の研究者であることを強調しておく必要がある。

アフメト・ダウトオールに呼びかける形で、彼らはトルコにおける言論の制限についての懸念を強調している。1128名のトルコ出身者、彼らをサポートする356名の外国人研究者たちは抵抗を宣言し、その下に貴重な署名を行っている。その文書は、次のように述べている。

「トルコは、欧州人権条約・世界人権宣言・自由権規約・ヘルシンキ宣言に署名している。これらの条約のみならず、トルコ共和国憲法も、思想・表現・言論・集会の自由を保護する政府の責任を明記している。これらを再確認すると同時に、トルコ共和国関係者が学問及び表現の自由に対して敬意を表することを、我々は期待している」

以前欧州人権裁判所で裁判官を務めていたルザ・テュルメン氏は、数日前、T24紙の「民主主義の危機における新局面」という記事において、次のように書いている。
「表現の自由は、あらゆる自由に先立つものだ。民主主義が機能するか否かは、これが確保されるかどうかにかかっている。野党・少数派・市民社会といった民主主義において不可欠な要素は、表現の自由が保証された社会でのみ存在しうる。」

同氏は記事の中で、欧州人権裁判所の大法廷が、トルコに関して出した13の判決について言及している。判決は1999年7月のもので、これらが全て思想の自由及び南東部に関する判決であること、そのうち12の判決において同裁判所が「トルコは表現の自由を侵害しているという結論に至った」ことを指摘 している。

同氏は、欧州人権裁判所が1976年に出した有名な「ハンディサイド判決」における以下の判決の規定も特に想起している。「表現の自由は、肯定的に受け止められる無害な考え方のみならず、政府や社会のある集団を傷つけ、ショックを与え、不快な思いをさせる考え方も同時に内包する。これは、民主的社会を構成する多様性・寛容及び開かれた意見の必要性である。」

トルコを17年前の段階にまで後退させた政権である。この政権において「首相」を名乗る人物は、先日ロンドンで起こった彼に対する抗議を前にしても、首相府のビルから外に出られなかった。5分ほど車の中で立ち往生したのち、裏口から外に出されるはめになった。

トルコのメディアの多くがこの「ニュース」を隠したとしても、ダヴトオール首相自身は知っていることだ。

トルコの指導者たちが外国へ行き、行った先でこのような状況に遭遇する可能性があるということが忘れられて何年も経つ。現政権による「人権侵害」や「言論の自由の制限」によって、我が国は恥を晒すこととなった。

ダヴトオール首相は学者の名をほしいままにしているが、上に列挙した、彼自身もそのうちの一人だと思っている、トルコ・オスマン・中東・イスラー ム分野の専門家から「失格」の烙印を押されようとしている。研究者のタイフン・アタイ氏は、昨日ジュムフリイェト紙において、首相に対する警告・呼びかけを行った。

「あなたが言うところの『美徳と知識、文化の光のもとに』行った諸々の発言、あなたがあなたが血みどろのカオスに陥れたこの国で、この数か月広場で繰り広げた自分の演説を振り返ってみてください。これらの発言を、コロンビアで、ハーヴァードで、オックスフォードで、またはケンブリッジやスタンフォードで同じように言えますか。答えてください、アフメト先生!」
「学者たちにこのような通知に署名をさせないでください。唆すことをやめてください。まずあなたがこの『地獄への特急列車』の操縦席から降りることです。」
「まずはあなたが反省してください!」
「ハイデッガーとガッザーリーをつなごうと出発した道なのに、一体どこで道を誤ったのですか。シェリフ・マルディンたちの教えを受けながら、今はセダット・ペケルなどと同じような方向に進んでいるのです。」
「時間がまだあるうちに、今すぐこの道を引き返してください!」
「さもなければ、これからの人生であなたの発するあらゆる言葉によって、あなたの学問的な信用が傷つくだけでなく、人間性を疑われることにもなりかねません!」

政権は、「敵なる知識人」に対して新たな戦線を展開している。私は以前、この戦に勝ち目がないことを指摘した。「もうやめよ、この戦に勝ち目はない。すでに負け戦は決定している。」毎日のように変化する状況が、このことを物語っているのだ。

ただし、世界中から集まった261人のトルコ・オスマン朝・中東・イスラームの専門家たちがダヴトオール首相を「教授」と呼び、ジュムフリイェト紙の記 者が「時間があるうちに来た道を引き返」そうと呼びかけていることは、まるで「死んでいないうちは希望もある」というかのような姿勢だ。

これらの呼びかけに応え、やれることをやってほしい。(そうすれば)首相に対する深い失望に依拠したあらゆる指摘を、もういちど見直す用意はある。

さて、どうなるか。健闘を祈る。


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翻訳者:今城尚彦
記事ID:39700