【イラン紙14面:ユーソフ・ヘイダリー】「国民的財産」という語は、私たち全員にとっておなじみのものだ。「国の有する国民的財産を守るべきだ」とか「彼ら(それら)の国外への移住・流出を防ぐべきだ」とかいったことは、しょっちゅう耳にしている。
不思議なことに、「国民的財産」のことが話に上るとき、私たちの多くはエリートたちや専門家たちのことか、あるいは国民的な歴史遺産のこと、あるいは水資源だとか石油資源、高価な鉱物資源などのことを思い浮かべがちだ。ところが、この国に暮らす生物や稀少な固有種もまた、国民的財産であると考えられるにもかかわらず、稀少動物がイランから近隣の国々に「移住」してしまうことを防ぐべきだ、などと考えている人のことを見聞きするようなことは、まったくか、あるいはほとんどないのである。
「キャルヘのリムガゼル」は世界でも珍しいガゼルの一種であり、その生息地は〔イラクと国境を接する〕
フーゼスターン州および〔同州を流れる〕キャルヘ川の周辺であるが、この動物が利用する水源の多くが消滅し水不足に陥っていること、そして〔自然環境の保護に従事する〕関係者たちの水資源確保に対する無関心が原因で、彼らは数年前から「移住」の道を選び、イラクへと旅立つようになっている。〔‥‥〕
しかしこのようなとき、自然環境を熱烈に愛し、稀少動物の隣国への「移住」を阻止すべく誠心誠意努めている人たちもいる。〔‥‥〕
長年にわたってリムガゼルのイラクへの「移住」阻止に尽力してきた環境活動家のナーセル・アビヤート氏は、気候変動と水不足がこの希少種がイラクに移住する主な原因であると指摘し、次のように述べている。
リムガゼルはミーシュダーグ保護区に生息する、世界でもっとも美しいガゼルの一つです。この稀少動物は長年、キャルヘ川の周辺に暮らし、つねに保護の対象となってきました。ところが数年前から、干ばつと気候変動により、私たちはこの希少種の移住という、予期せぬ現象に直面しています。私や自然を愛する人たちの人生にとってもっともつらい瞬間、それはイランのガゼルが他の国に移住してしまうという事態を目の当たりにすることです。この移住は2年前に始まり、多くのリムガゼルがイラクに移り住んでしまいました。残念なことに、彼らの多くはそこで、イラク人猟師たちの狩りの対象となり、中には殺されてしまうものもいるのです。
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