■バルキース・シャラーラと記憶のかばん:イラク人の食とリフアト・チャーディルジーの香りについて
【ムハンマド・トゥルキー・ラビーウー】
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その後バルキースは料理と食の世界に飛び込むことを決めるが、最近になって彼女は再び”記憶のかばん”に立ち返り、自伝『かくして日々は過ぎた』を執筆した。2015年に出版されたこの本によって、伝記文学の名手としての彼女の技巧が明らかになることとなる。序章にはこのような表現がある。「思い出が頭の中をさまよい、いつしか私は思い出のつまったかばんをいくつも運んでいることに気が付いた。楽しかったことも苦しかったことも…。それらは様々な色が混ざり持ち主の色を映すかばんなのである。」この自伝で重要なのは、バルキースの料理の世界への関心が、イラク人についての彼女の記憶に特別な味付けをしていることだ。記憶とは、出来合いの物でも限りのある物でもなく、いつでも新しいことを明かしてくれる世界である。またそれは、決して潔白さを求めることない世界であり、さまざまな光景や郷愁、あるいは想像上の過去をも探す全ての人にその扉を開き続けてきたのである。
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