宗教法に定められたヘジャーブの違反をめぐる裁判所の諸判決の相違は、表面上はある種の混乱が見られ、専門的な法的視点なしでは矛盾しているように見える。
一部の判決はイスラーム刑法第5章(タアズィール刑[※訳注])638条の注記に基づく内容となっている。638条では、宗教法に定めるヘジャーブの違反は10日から2ヶ月の禁固刑または200万から1000万リヤールの罰金刑となると規定され、禁固刑は法的理由によって、禁固の代替の刑罰に変更される。
他の一部の判決は639条に基づく内容であり、より重い刑罰となっている。禁固の代替の刑罰にも変更されず、ただ裁判所は減刑の理由が存在する場合は刑を軽減することができるが、再犯や複数回の場合にはこの減刑条項は制限される。この条文は堕落の流布についてである。前述の条文のB (ب)項では、堕落を広める、またはその原因を作ったものは1年から10年の禁固が科されることを規定している。上記の法規定は単にヘジャーブの違反についてだけではない。すなわち、もし、誰かが法的な状況証拠に基づき、自身のヘジャーブをつけないことがヘジャーブに違反する行為を社会で一般化させ、他者にそれを奨励若しくは扇動する意思を持つ、または、その意思を持たなくても、その行為の結果として同じ事態がもたらされ、また同人がその結果を分かっていた場合(つまり、公共の場、若しくは写真や動画が公開される場でスカーフを取ることによってヘジャーブ非着用に手を染める場合)、638条の適用や単なるヘジャーブの違反行為はもはや根拠がなく、639条の規定に基づき判決が出される。
その行為によって発生する事態は、社会的な活動をしているか、またはサイバー空間に多くのフォロワーのいる人物、若しくは、いかなる場合でもその振る舞いがメディア空間において社会的反響を有する人物は、その行為が他者を様々な方向に向かわせ、国内でヘジャーブ非着用を煽ることになることを自覚していたとみなされる、ということだ。自身や他人の写真を撮影し、それに賛辞をつけて公開することもまた、この条文の適用対象となりうる。この問題に加え、ヘジャーブ非着用に対処する法的機関へのメディアの攻撃を含むヘジャーブ非着用の言説の流布は、当該の人物が法的手続きの改善を求めるのではなく、単にその行動を社会に広めようとするものであることが状況証拠から理解される場合もまた、639条が適用され堕落の流布とみなされる。
この理由から、裁判所が出す判決には矛盾は存在しない。重い刑罰を科される者はその者の行為が個人の問題に収まらず、社会においてヘジャーブ非着用を広める影響力を潜在的に持つ者である。
ジャリール・モヘッビー
文化問題専門家
(訳注)イスラーム刑法の中の矯正刑であり、裁判所の裁量に任された刑罰。矯正を目的とした教育的懲罰である。贖罪的義務行為が定められていない宗教的罪や、ハッド刑やキサース刑が科せられていない一般的犯罪に対し、裁判官が諸般の事情を考慮して自らの判断で適当な刑を科すことができる。
(森伸生「タアズィール刑」大塚和夫ほか『岩波イスラーム辞典』岩波書店、2002年)
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翻訳者:KT
記事ID:55623