(続き)
◆かつて鳩たちは
鳩たちのいる区域の周囲が賑やかになってきた。ある母親が小麦を小袋から取り出し、鳩のためにまくよう小さな男の子に手渡す。人々はここに山のように小麦をまいているにもかかわらず、ほんの数羽しか食べていない。鳥類学者のハーシェミー氏は言う。「もっと昔には、この聖域には鳩がたくさんいて、一つの中庭の敷地全体を鳩の居場所にしていたほどでした。そこには常に小麦をたくさん積んだ小型トラックが2台止まっていて、鳩のためにシャベルで小麦を撒いていたものです。以前は、ドームの上も鳩でいっぱいで、ある群れが飛び立つと、空が真っ暗になるほどでした。しかし、現在は鳩の数は減ってしまっています。」
ハーシェミー氏はまた、「鳩のフンは酸性ですので、歴史的建造物の損壊の原因になります」と言う。このことは、これらの美しい鳥が常に尊重される反面、問題視もされていることを示すものであるが、これはエマーム・レザー(彼に平穏あれ)廟に限らず、世界中で起きている問題だ。彼は続けてこう話す。「多くのヨーロッパ諸国でも、鳩のフンによる建築物の損壊を防ぐため、週ごとに鳩を捕獲して一箇所に集めなければなりません。」このため、エマーム・レザー廟財団の責任者らは、鳩の数と飛んで良い場所を制限する判断を下している。
だが、鳩の過剰な増加を防ぐためのこの措置にもかかわらず、未だこの聖域の随所で鳩がみられる。私たちがこの聖域をあとにすると日が暮れ始め、聖域に光が灯った。ここからでも聖域の上空を飛ぶ鳩の姿が見える。いつもイラン人たちに大切にされてきた美しい生き物だ。私たちをホテルに送ってくれるタクシー運転手に鳩について尋ねると、彼は「鳩が大好きなんです」と答える。「私はトランペッター種[脚にも羽根の生えた観賞用鳩]の鳩を2羽飼っています。とても高かったのですが、家に連れて帰って以来、幸せをもらっています。ですが、私は願掛けをしています。もしエマーム・レザー様が相応しいとお考えになり、願いを叶えてくださったら、2羽ともエマーム・レザー廟に放しますよ。」
−(了)−