ドイツのトルコ系市民の選挙行動は?

2025年02月23日付 Cumhuriyet 紙

ドイツの前倒し総選挙の投票が始まった。この選挙の総有権者数5920万人のうち100万人はトルコ系。トルコ系市民はどの政党を支持する傾向が強いのだろうか?「トルコでは右派に投票し、ドイツでは左派に投票する」と言われる状況は変わりつつあるのだろうか?あるいは極右台頭はトルコ系市民を震え上がらせることになるのか?

ドイツの前倒し総選挙の投票が始まった。有権者のうち710万人が外国系で、うちトルコ系は約100万人。有権者5920万人が現地時間朝8時の投票開始とともに第21期連邦議会(Bundestag)の議員630人を決める。(今回の選挙で)初めて投票権を得た有権者数は230万人と発表された。

投票終了時刻は18時で、16州299選挙区に設置された投票所では67万5千人が投票業務に従事する。今回の選挙ではドイツ国内29政党が出馬表明をしており、4,506人の候補者(うち53人がトルコ系)が新たに連邦議会の議員となるべく競い合う。

さて、ではドイツのトルコ系有権者は、現在の政党候補者や政策についてどう考えているのだろうか?

■主要争点は移民と経済

BBCトルコは、世論調査の結果には極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の得票率が前回選挙に比して倍増したことが示されているという。

別の世論調査でAfD得票率は一時20%程度といわれていた。選挙結果を気にしている多くの人は、この割合がさらに上昇するのではないかと懸念している。またトルコ系市民が抱える課題としては「亡命希望者の増加、街頭の治安問題、経済」が第一に挙げられてた。

匿名でBBCトルコの取材に応じたトルコ系移民の大半は、過去10年間のドイツキリスト教民主同盟(CDU)とドイツ社会民主党(SPD)の両政権は、増え続ける移民を管理しきればかったという意見で一致している。したがってAfDへの投票は「自分の足を自分で撃つこと」だと彼らは述べている。

ドイツ在住トルコ人が長らく待っていた「二重国籍の権利の廃止」や「(二重国籍の)条件厳格化」方針も右派政党が選挙キャンペーンで掲げている争点のひとつでもある。

■トルコ系候補者の発言

トップ当選が予想されているCDU(ケルン州選挙区)のセラップ・ギュレル候補は、2024年の市民権法改正を批判した一人である。

ギュレル候補はBBCトルコに、「今の法律では3年で帰化するということができてしまう。我々としては、ある国とそこまでのつながりをつくるのは3年では無理だと考えており、そのためこの法律を変えたい」と述べた。

同候補によれば、中間年齢層や自営業者は、他の年齢層グループよりもCDUに票を投じるという。

■「トルコ系有権者が右傾化」

ケルン大学とルンド大学に勤務する政治学者のインジ・オイキュ・イェネル=ローダーブルグ博士は、極右勢力の台頭によって「ドイツ政治は右傾化した」と強調する。

同博士は、AfDの政治キャンペーンのなかでも特に「移民と経済」をテーマとしたものが中道政党の路線に変化をもたらしたと強調した。

BBCトルコによれば、「ドイツ政治が右傾化するにつれ、トルコ系有権者の志向も以前より強く右傾化している」というのが、聞き取りをした専門家や政治家の共通見解だという。

■「トルコ系でも実業者と労働者でニーズ異なる」

かつてSPDの国会議員を務めたことのあるラーレ・アクギュン博士は、BBCトルコに「現在、ドイツには300万人のトルコ系住民が住んでおり、彼らの考え方、関心、教育レベル、経済階層は多様」と話した。

アクギュン博士は、「人々の投票行動は出自ではなく、社会での地位、職業、ニーズに基づいている」と指摘した。

同博士は、「たとえば300人の雇用を抱えるトルコ系実業者の政治的選択と、労働者として働く人のそれは異なる。両者のニーズが同じであるはずがない。しかし両者ともトルコ系有権者とみなされる。さらにSPDの支持者層も大きく変化した。労働者、被雇用者はSPDのみに投票するのをやめ、他の政党にも投票するようになった……。投票という行為は頭で判断するのではなく、考えられないほど多くの人が感情によって投票している。そして感情で投票する人の中にもAfDに投票する人はたくさんいる。」

■AfDと保守的なトルコ系有権者

他方、イェネル=ローダーブルク博士は、「トルコでは右派に投票し、ドイツでは左派に投票するという話はもはや正しくない」とし、AfDを支持するトルコ系有権者がいても不思議ではないと付け加えた。

同博士は「当然そういう人もいる。ここで暮らすトルコ系住民が単一グループだと考えるのは間違いだ。移民問題を優先する人もいるだろう。そしてその人がトルコ出身なら、彼らはAfDにシンパシーを覚える。政党が与えてくれるたったひとつの投票動機が有権者に影響を与え、投票につながる。AfDはおそらくそれに成功している。」

SPD党員のラーレ・アクギュン博士も、AfDがいかにトルコ系有権者を惹きつけられたかを次のように説明した:

「AfDは『我々はここで働く労働者と対立しているのではなく、国家にタダ乗りして生きる人間に立ち向かっているのだ』と言う。これはトルコ系有権者の心に刺さる。彼らも同じように考えているからだ。そうした思想はその人をその政党へと近づける。 AfDの、「男と女以外に性別はない、家族こそが重要だ」といったレトリックもトルコ系有権者の保守的な世界観によく合致する。」

■「逆移民」はありえるか?

BBCトルコによれば、AfDの用語のひとつに「リミグレーション(逆移民)」というものがある。欧州極右政党の間で近年流行しているこの概念は、移民や亡命希望者を元の国に送り返すことを意味する。

ドイツの267団体を束ねる在独トルコ人コミュニティ(TGD)のヒュルヤ・ジョシュクン副会長は、この議論がトルコ人に大きな影響を与えたと強調した。

一方、長年ドイツに暮らす中小企業経営者らは、BBCトルコの取材に対し「ドイツで誰が政権を取ろうとも、移民労働者や雇用者を送還することは不可能。そんなことをすればドイツ経済は大きな打撃を受ける」と述べた。

同紙に対し、ある商店主は近所の10軒以上の店をひとつひとつ指さして移民店主を数え上げながら「移民を送り返せば、バスや路面電車、タクシーの運転手、建設現場や病院で働く人がいなくなる」と語った。

ドイツの主要政党は選挙後、AfDとは連立を組まないと発表した。しかしAfDが政権を取らなかったとしても、有権者の5人に1人の支持を得て第2党となったという事実はドイツの政治と移民に永続的な影響を与えそうだ。


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翻訳者:原田星来
記事ID:59726