スーダン:長引く内戦、貴重な文化遺産および博物館の破壊や略奪行為が横行

2025年09月01日付 al-Mudun 紙
紀元1世紀、クシュ王国の女王Amanishakhetoの金製腕輪( スーダン国立古物博物館機構)
紀元1世紀、クシュ王国の女王Amanishakhetoの金製腕輪( スーダン国立古物博物館機構)
■「黄金の部屋」には何も残っていない…スーダンの遺物がエジプトとチャドで発見

【本紙】

ナイル上流にあった黒人最古の王国、古代クシュ王国を20年以上統治したタハルカ王の巨大な彫像が、ハルツームの国立スーダン博物館(SNM)の中庭にぽつんと立っている。周囲には彫像の破片や割れた展示ケースのガラス片が散乱している。2年前に博物館の略奪が報告されて以来、数万点に及ぶ遺物の捜索が続けられ、一部はエジプト、チャド、南スーダンなど近隣諸国で発見された。

「博物館・考古遺跡保護・安全委員会」のメンバー、ラウダ・イドリース・スーダン検察庁代表は、「SNMの所蔵品で難を逃れたのは、持ち運びが難しい大型の展示品や重い展示品だけだ」と述べた。AFP通信社は、「博物館の正面入口では、珍しい木々やナイル川といった自然の風景が再現されていた庭園が、クシュ王国の軍神像に囲まれた枯草だらけの荒れ地に変わってしまった。一方、屋根部には砲弾の痕跡がある」と伝えている。

スーダン国立古物博物館機構(NCAM:The National Corporation for Antiquities and Museums)のハーティム・ヌール元長官は、「SNMにはスーダン人の深い歴史を形作った、非常に長い期間にわたる50万点余りのコレクションが収蔵されていた」と述べた。

スーダン国軍(SAF)が首都周辺を奪回後の今年3月、NCAMに所属する専門家が2年ぶりに博物館を視察した際、目にしたのは展示品、特に「黄金の部屋」の破壊と略奪の痕跡であった。NCAMのイフラース・アブドゥルラティーフ博物館担当部長によると、「黄金の部屋」にはお金に代え難い価値のあるコレクション、24K(純金)の工芸品や約8000年前の古代遺物などが展示されていた。

略奪古美術回収チームの責任者でもあるアブドゥルラティーフ氏は、「(黄金の)部屋は根こそぎ持って行かれた。この部屋では金メッキを施した道具や貴金属で装飾された彫像、支配者一族が所有する宝石類(希少な品々を含む)が公開されていた」と語った。


国立博物館、2015年。西暦1世紀に母Amanitoreと共にクシュ王国を統治したNatakamani王の像が展示されている(ムスアブ・シャーミー/AP通信)

SNMの収蔵品の多くはローマ文明と並行して数千年にわたり栄えたクシュ文明にさかのぼる。クシュ文明は、スーダン北部で首都ナパタ(現在のカリーマ)と首都メロエの両時代を通じて栄えたクシュ王国で発達した。古代エジプト文明の陰に隠れがちだが、豊かさでは劣らないと考える考古学者たちは(クシュ文明に)大きな関心を寄せている。



首都ハルツームにあるSNMには、石や青銅で造られた数千体の葬祭用彫像も収蔵されている。金や宝石で象嵌が施されたものもあり、スーダンの文化的変遷を示している。2023年4月、アブドゥルファッターフ・ブルハーン司令官率いるSAFと、ムハンマド・ハムダーン・ダカルー元副司令官率いる即応支援部隊(RSF)との間で武力衝突が勃発した。激しい血みどろの戦闘は国を分断した。長引く戦闘で、数万人が死亡し、数百万人以上が国内外に避難した。

SAFが主導するスーダン政府は、「RSF が7000年の歴史を誇るスーダン文明を象徴する古代遺物や収蔵品を破壊した」と非難し、これを「戦争犯罪」とみなした。RSFはこれらの容疑を否定している。

2023年6月、アブドゥルラティーフ氏はRSFがSNMを掌握したと公表した。また、今年初めには地方メディアに、「博物館の収蔵品は大型トラックで(首都ハルツームとナイル川を挟んで西岸に位置する都市)ウンム・ドゥルマーンを経由してスーダン西部へ、そこから南スーダン国境までに運ばれた」と語っている。

国際連合教育科学文化機関( UNESCO)は昨年末、博物館が所蔵する「歴史的・芸術的・学術的な価値が高い重要な文化遺産や彫像」の重要性を強調し、古美術品の密輸を控えるよう一般市民に呼びかけた。

NCAMの関係者は、本機構が近隣諸国と連携し、国境を越えて密輸される古美術品の監視・回収に取り組んでいると語った。アブドゥルラティーフ氏は、「特にクシュ王朝の葬祭用彫像は美しく小型で持ち運びやすいため、闇市場で非常に人気がある」と述べた。

「黄金の部屋」の収蔵品や葬祭用彫像は、これまでのところ、古美術オークションや並行市場(インターネット市場)には出回っていない。アブドゥルラティーフ氏は、スーダン政府が国際刑事警察機構(インターポール)および UNESCOと協力し、「あらゆる市場を監視している」と強調した。同氏は古美術品取引の大半が秘密裏かつ限定的な範囲で行われていると考えている。インターポールは、略奪されたスーダンの古美術品の追跡活動への関与は認めたが、活動に関する詳細は明らかにしていない。

イドリース氏は、スーダン北部のナイル川州で、外国人を含む一団が古美術品所持で拘束され、これらの古美術品がどの博物館から持ち込まれたかを特定するための捜査が進行中であると発表した。NCAMの関係者2人からの情報では、国境を越えてエジプトに入国した一団がハルツームに接触して、盗難品を返却する代わりに金銭の授受を要求したという。

同氏は、他の紛争地域の博物館も略奪と破壊を避けられないと指摘した。そして、「スーダンでは内戦勃発以来、のハルツーム州(スーダン中央東部)やジャジーラ州(同中東部)、ダルフール地域(同西部)の20以上の博物館が略奪された。未だ解放されていない地域での被害状況は依然不明である」と説明した。

イドリース氏によると、NCAMは損失と損害額を1億1000万米ドルと推定している。一方、ヌール氏は、他の重要な博物館の破壊に言及し、ウンム・ドゥルマーンにあるバイト・ハリーファ(カリフの家)博物館の壁には銃の発砲や銃弾の跡が残り、18世紀までさかのぼる収蔵品は粉々に破壊されたことを明らかにした。

そして、「ダルフール地域最大の博物館である、北ダルフール州ファーシル市のアリー・ディナール博物館も破壊された。ダルフール地域のジュナイナ博物館とニャラ博物館も同様の被害を受けた」と述べた。地元情報筋は「南ダルフール州のニャラ博物館周辺で激しい戦闘が発生し、地域一帯は完全に破壊された。RSFのメンバー以外、誰も移動できない」と伝えた。アブドゥルラティーフ氏によると、同博物館は「軍事兵舎」に化したという。


この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る

同じジャンルの記事を見る


翻訳者:田中友萌
記事ID:60728