Fikret Bilaコラム:映画「狼たちの谷、イラク」のメッセージ(Milliyet紙)
2006年02月15日付 Milliyet 紙

 映画「狼たちの谷、イラク」(訳注:概要は下記の関連記事を参照ください)は広く反響を呼び、テレビドラマとしても映画としても大きな関心を呼んだ。「狼たちの谷、イラク」に関して、私見と印象をお話したい。

■アタテュルクの不在
 頭に袋を被せられたことを受け入れることができず、自殺を決意した中尉の部屋のことである。中尉は自殺をする前に、オフィスと思われる机で、ポラット・アレムダルに手紙を書いている。オフィスの机の後ろの壁には2つのメダルが見える。独立記念メダルを思い起こさせるもので、額縁の中に左右一つずつ、二つのメダルがある。このような部屋では人は2つのメダルの間にアタテュルクの肖像を探すものだ。しかしそれはない。その場所にはカッパドキアに似た風景画がある。中尉の背後にアタテュルクの写真がないなど、普通とは思われない。しかもこの部屋が一中隊の司令官の部屋を思わせるのならなおさらだ。

■報復もなし
 映画の主題は袋事件の報復である。つまり、米軍兵士の頭に袋を被せ、彼らも同じ状況に陥らせることだ。しかし、ポラットはこれに成功しない。米国人の指揮官を反対側に座らせて、鞄から袋を取り出す。爆発物を設置したホテルを爆破しないことの見返りとして、米国人の指揮官(おそらくは、スレイマニエ制圧を指揮しトルコ軍の頭に袋をかぶせた米軍のメイヴィル大佐を象徴している)と兵士らの頭に袋を被せて、ホテルから出させようとしている。ポラットらは米国人の顔に袋を投げつける。しかし、頭に袋を被せないようにホテルに連れてきた子どもたちのせいで、ポラットの計画は失敗する。ポラットと手下たちは米国人の頭に袋を被せることができないまま、ホテルをやむなく後にする。最終的には米国人が勝つのである。

■スーフィー教団の存在感
 トルコ兵士の報復の映画で、アタテュルクは出てこないがスーフィー教団は登場する。数多くのズィクル(連祷の修行)の映像が流れる。スーフィー教団の指導者は自爆テロに反対だが、にもかかわらず自爆テロが起こる。その上、イラクの反体制派による米国人新聞記者の頭部切断作戦にも干渉している。反体制派を叱りつけ、新聞記者を救い、自爆攻撃も頭部切断も、イスラームにおいては正しくないというメッセージを出している。スーフィー教団の指導者がこれほど有力であるため、トルクメン人のリーダーに対抗してアラブ人リーダーと結託し、米国人に全面的に協力していたクルド人リーダーは、スーフィー教団の指導者に対抗する作戦を行うとのアメリカ人の指示には従わない。スーフィー教団の指導者にかかれば「クルド問題」は解決されてしまうのだ。

■政府と参謀本部
 米軍司令官がトルコを見下す発言をしたことには、基本的には公正発展党政権に、とりわけ外務省と参謀本部に責任がある。米国人は侮辱的に言うのだ。トルコが境界線を踏み越え、トルコ政府がイラク政策を台無しにし、いつも値段交渉ばかりしていて、トルコ人たちの下着のゴムさえも米国が与えたと。そして、「このうえ何がほしいのか?」などと言って見下している。
 ポラットは、これらのメッセージをまったく意に介さず、「その問題の原点」へと送り返す。彼は言う。「自分は、政治家でも軍人でも外交官でもない。ただのトルコ人だ。」米国は、政治、軍事、外交の粗探しをしているだけなのだ。

■反米主義
 映画では反米主義的描写はないのだろうか? それはある。米軍兵士は結婚披露宴を爆撃し、無辜の子どもたちを含む人々を殺害するし、捕虜にした人々をトラックで一斉掃射したりする。アブー・グレイブ刑務所で映された現実の映像に酷似した拷問の場面が出てくる。怒りで我を忘れた米国兵士の紋切り型な描写がある。捕虜たちの臓器を盗み取るユダヤ系米国人医師が登場し、そしてその腎臓が送られた先がニューヨーク、テルアヴィヴ、ロンドンなのである。
 結末で、ポラットはトルコ人兵士の頭に袋を被せ、映画の間中、民間人と思われていたある米国人の心臓を突き刺して殺すが、袋は被せない。
「狼たちの谷、イラク」は米国に反対しているが、しかしトルコにもずいぶんと厳しい目を向けている。

関連記事:
2006-02-06  映画版「狼たちの谷、イラク」封切-米国大使がトルコでの反響を本国へ報告(Milliyet紙)http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/newsdata/News200626_1854.html

公式ホームページ:VALLEY OF THE WOLVES IRAQ
http://www.valleyofthewolvesiraq.com/web/about.htm


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( 翻訳者:幸加木 文 )
( 記事ID:1911 )