構造的法律支援の探求、アドナン・ブユン氏闘いの遺産
2015年09月30日付 Kompas 紙
司法と税金に関するマフィア疑惑で容疑者となったガユス・ハロモアン・パルタハナン・タンブナン氏の弁護人を辞退するベテラン弁護士・アドナン・ブユン・ナスティオン氏(2010年10月11日)
ジャカルタ、kompas.com
ベテラン弁護士、アドナン・ブユン・ナスティオン氏は、その後継者たちが死守すべき重要なひとつの遺産を残した。その遺産とは、構造的法律支援として知られるイデオロギーである。
1970年にアドナン氏は今日までジャカルタ法律支援協会(LBH)として知られる非政府組織を設立した。当初ジャカルタ法律扶助協会はプロの法支援の対価を支払うことのできない貧困階層を救済することを目的としていた。
数年後、ジャカルタ法律扶助協会は手掛ける事件において、構造的法律支援の手法と呼ばれるものを採用するようになった。そして今日その手法はジャカルタ法律支援組織のすべてのメンバーが理解・習得すべき必須事項となっている。
構造的法律扶助
『インドネシアにおける法律支援』という著書において、アドナン・ブユン氏は祖国に適用されるべき構造的法律支援のありかたについて著した。この法律支援は、当時庶民や抑圧された国民に対する法律支援を慈善やチャリティのようなものとして、個人によって行われるものと見なしていた司法界において、理論的枠組みの変化を示すものとなった。.
構造的法律支援の概念において、それまで個人によって行われていた法律支援は、やがて変遷を経て組織によって行われるようになる。法律支援はある個人による慈善の一環としてではなく、国民、とりわけ庶民が得るべき権利となった。そのため法律支援協会は構造的法律支援の実行を保障するために設立された。
LBHジャカルタの弁護士の一人イクサン・ジクリ氏は、構造的法律支援は経済、社会、政治構造の歪みが存在ゆえに引き起こされる基本的人権の問題解決に与えられる支援であると述べた。
「構造的法律支援は、構造的な不平等や弱い立場の味方をしない規範があるからこそ不公平が存在するという思考に端緒をもつ。上下間格差が顕著な文化・社会のありかたのせいともいえるだろう」とイクサン氏は南ジャカルタ、ルバック・ブルスのアドナン氏の葬儀場で語った。(2015年9月23日)
いうなれば、法律支援協会は法的支援だけでなく、不公平な司法制度を改革するために人々を教育することも行っている。
イクサン氏は構造的法律支援の実例をいくつかあげた。たとえば法律支援協会は法的支援を警察から尋問中に拷問によって自供を求められた容疑者に対しても行っている。究明を進めてゆくにつれ、こういった行為は司法の手続きを理解しない貧しい人々に対してのみ行われていることがわかる。そのほかの例として、きれいな水を得ることが困難な地域の、貧しい住民の状況がある。たとえ水を得るためにお金を払ったとしても、手に入る水の質は、中間層以上の階級に属する人たちが手に入れる水の質とは全く異なる。「実は、周縁に追いやられている人びとが水を得る権利に注意が払われていないことが問題なのである」とイクサン氏は述べた。
イクサン氏によると、法律扶助協会による調査ののち、水の管理は飲料水を販売する海外の企業、エルタ社とパリジャ社によって行われていたことが明らかになったという。同協会はその後、両企業の経営権に対する訴状を提出した。
「所詮ビジネスというものは営利目的であって、サービスではない。そのためわれわれはその目指すところがビジネスに走らないよう訴えた」とイクサン氏は述べた。
最後のメッセージ
アドナン・ブユン・ナスティオン氏(81)は9月23日10時15分(西インドネシア時間)に、南ジャカルタのポンドック・インダ病院で息を引き取った。アドナン氏は亡くなるまでの一週間程、病院で治療を受けていた。しかし心臓と腎臓の合併症が彼の健康状態をさらに悪化させた。
晩年、アドナン氏は実は法律援助協会で後継者に対し植えつけられたイデオロギーを一時は疑ったこともあった。それどころかインドネシア法律援助財団の代表アルフォン・クルニア・パルマ氏は、少し前にアドナンは構造的法律援助に関するセミナーを行うよう依頼していたと語る。「亡くなる前、アドナン氏は構造的法律援助という言葉は実際に理解されているのか、それとも単なるスローガンにすぎないのかを疑問視していた。この時、アドナン氏はイデオロギーに変化が起きていると感じていた」とアルフォン氏は語った。
アルォン氏に対してアドナン氏は、法制度はもはや力のない人間よりも権力者や寡頭制の肩を持つものになっているので、法律扶助協会は単に弁護喚起していた。
アドナン氏によると法律だけが公平さを実現するには十分ではなく、最終的に国民がその偏った法体制を変える組織を立ち上げることが出来るように教育がなければならないという。
「国民が法体制をよく理解できるよう教育をすることだ」とアルフォン氏は語った。
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( 翻訳者:茶納麻友子 )
( 記事ID:1859 )