ベトナムのLGBTコミュニティーが認められるまでの道のり
2018年05月14日付 VietnamPlus 紙
誰もが幸福になる権利をもっているので、誰のことも見下さないでほしいと求める新ミス・インターナショナル・クイーン
誰もが幸福になる権利をもっているので、誰のことも見下さないでほしいと求める新ミス・インターナショナル・クイーン

 ベトナム人のトランスジェンダー女性、グエン・フオン・ザンさんは、3月9日にミス・インターナショナル・クイーン2018という、世界最大のトランスジェンダー・コンテストで優勝した。
 ザンさんはこの優勝を幸せに思っており、それはこの優勝がLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)コミュニティーとして、ベトナム社会の認知を勝ち得るための彼らの努力の中で、注目すべき一歩を刻んだからである。
 「私は、政府が性転換を法的に認めることを検討している時に優勝しました。政府がLGBTコミュニティーの権利を保障するためにこのような法の制定を早期に行うことを望みます」と、彼女はベトナム通信社に語った。

   目に見えない、孤独な葛藤

 ほんの十年ほど前、ホモセクシュアリティはいまだベトナムの人々には理解されていない概念だった。
 ホモセクシュアリティは、メディアが当時LGBTコミュニティーを悪者扱いしていたので、殺人や強盗・窃盗などの社会的悪に関連付けられたり、「病気」だとされた。
 フオン・ザンさんは言う。「私は性転換手術を受けると決めたとき、家族や親戚、友だちから激しい反対を受けました。私はそれを一人で乗り越えなければならず、誰も私のそばにいてくれなかったので、私が今日持っているものを得るためには強くあらねばなりませんでした。死にたいと思ったこともありました」。
 セーブ・ザ・チルドレンと社会医学研究所によって行われたLGBT Youthに関する調査では、ベトナムの学校にはLGBTの生徒に対する敵対心がいまだに存在し、58.3%のLGBTの生徒が同級生にいじめられたり、悩まされたりしており、23%が教職員もハラスメントに加担していたと答えている。
 一方、ベトナムの国連開発計画(UNDP)によって実施された「それはわたしがLGBTだから?」というタイトルの2016年の研究によると、63地域の2,363人の回答者のうち、約30%がLGBTであることが理由で求人を断られた経験があり、40%が否定的な言葉や卑劣な行動にあったことがあると答えている。
 レ・コン・タン氏は振り返る。「学校では、同級生や教職員はよく私をいじめたり、笑いものにしたり、さらには私のうわさ話をひろめたりしました」。
 タン氏は、とても小さい時から自分がゲイであることを自覚していた。
 「前の職場では、同僚はよく私の性や性的指向を陰で笑いものにしていました」と彼は言う。「彼らは私が仕事を定時で終わらせるのを難しくし、その上わたしの噂を流しました」。
 彼は今ハノイの大企業に勤めている。
 「私は特別な一人ではなく、LGBTコミュニティーの多くの人もまた私と同じ葛藤に直面しています。ほとんどの人は自分の親や親戚から怒られたり、同級生からいじめられたり、同僚から中傷されたりしています」。

   目に見える、最初の勝利

 2008年、情報接続共有センター(ICS)が設立され、LGBTの権利のために働く最初のLGBT市民団体となった。
 そして、社会経済環境学研究所(iSEE)、健康と人口の創造的イニシアティブセンター(CCIHP)、ジェンダー・家族・女性と青少年に関する研究と応用科学センター(CSAGA)がそれに続いた。
 それらの組織の目的は、LGBTの人々を支え、一般大衆、メディア、政府や政策立案者に、LGBTの人々や彼らが直面している課題に対する理解を深めてもらうことである。
 様々な議論と多くの調査が行われ、LGBTの人々の存在を社会に知らせる活動が始められた。
 オックスファム[発展途上地域を支援する英国の民間団体]の支援を受け、iSEEはベトナムにおけるLGBTの人々に対する社会的差別を取り除くためのプロジェクトを実行した。
 そのプロジェクトの最初の活動の一つは、2009年にクアンニン省という北部の省のハロン湾で開かれた、LGBTコミュニティーについての最新の知識をメディアに得てもらうトレーニングプログラムであった。
 2009年11月終わり、iSEEとICSはホモセクシュアリティについての一連のイベントを開いた。11月27~29日、ホーチミン市の青年団文化会館で展覧会が行われ、カムアウトし地域社会に溶け込みたいとするホモセクシュアルの人々の望みを描いた56の絵画や写真が展示された。
 「この展覧会は多数の活動の中で、社会にもっとLGBTコミュニティーについて理解してもらうための活動の一つです。これによって、誰もがLGBTの人々と心を通わせ、心を開くことができるようになり、LGBTの人々もまた周りの人々へ心を開くことができるようになります」と、iSEE所長であるレ・クワン・ビン氏は語る。
 2011年2月25日、『Đường nào đi tới biển』(どの道が海への道か)と題するレズビアンについてのベトナム映画が、ハノイのシネマテークで上映された。
 この35分間のドキュメンタリー映画は、在ベトナム・スウェーデン大使館の援助の下、CSAGAによって製作され、ベトナムの3地域のレズビアンコミュニティーを代表する5組のレズビアンカップルを取り上げ、カミングアウトした後に彼女たちがどのようにやっていったのかを辿っている。映画は、レズビアンカップルの、小さいけれどシンプルな夢で終わる。それらは時にはかなえるのが難しいものである。例えばウェディングドレスを着たり、家を所有したり、ただ安定した収入を得るなどの夢である。
 LGBTではない人々の間でも、沢山の人々がLGBTコミュニティーと彼らの権利について支援するために声をあげている。
 2013年に司法省に送られたレポートによれば、保健省次官のグエン・ビエット・ティエン氏は次のように断言している。「人権という観点から見ると、ホモセクシュアルの人々も衣食住の権利や、愛し愛され、幸福を追求する権利がある。公民権という観点から見ると、彼らは働き、学び、健康診断や治療を受け、出生届や死亡届、婚姻届を出し、国家と社会の義務を果たす権利がある」。

   誰もが良い暮らしを受ける権利がある

 ベトナムのLGBTの人々は多くがまだカムアウトしていないため、その人数についての正確なデータはない。しかしiSEEによって行われた調査では、ベトナムには約160万人のLGBTがいると示されている。
 LGBTの人々もまた、家族や友達、社会に理解されるために最善を尽くしてきた。
 タイでの性転換手術のほんの数か月後、グエン・ゴック・ヒウとして1991年にハノイで生まれたフオン・ザンさんは、「ベトナムアイドル2012」というベトナムで有名な歌のコンテストに参加し、4位に入った。
 それから、ザンさんはとどまることなく自分を磨き続け、ミス・インターナショナル・クイーンとなった。栄冠と共に、彼女はベストタレント賞と最優秀紹介ビデオ賞で優勝した。
 「フオン・ザンさんや、社会のあらゆる場面で働く多くの他のトランスジェンダーの人々は、ギャップを無くし、彼らの話を一般大衆にすることで、広くはLGBTコミュニティーの人々、狭くはトランスジェンダーの人々について一般大衆に理解し、尊敬してもらおうとしています」とiSEE所長のルオン・ミン・ゴック氏は言う。
 LGBTの人々について伝えたいメッセージがあるかと聞かれたとき、新ミス・インターナショナル・クイーンは、皆と同じように、LGBTの人々は社会の発展のために貢献する良い人生を送ることを望んでいる、と述べた。
 彼女はまた、一般大衆に対し、誰のことも見下さないでほしいと求めた。「世界の誰もが幸福を得る権利をもっているのです」。

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( 翻訳者:松永直子 )
( 記事ID:4384 )